まず本書は「対談」ではなく「インタビュー」であることを知っておいた方がいい。
元アナウンサーで40代の小島慶子氏が、元東大医学部教授で80歳を迎えた養老孟司氏に、人生の様々な問題、疑問などについて質問、それに対して先生が自分の人生観に沿って答えるという文章が大半を占めているためだ。
まあ本人が熱病のように「養老先生に会いたい」と周囲に話していたようなので、いわば熱烈なファンからのインタビュー要請に先生が応じた、というのが実態かもしれない。
小島氏の意見や見解も随所に見られるが、どちらかというと体験談に近く、本書のタイトル「歳を取るのも悪くない」には、あまり関係ない内容が多いと感じた。「不安障害」を抱えながらの海外暮らしの子育てで、大変な苦労をされたということは伝わってくるが。
さて、肝心の養老先生のメッセージだが、その範囲は、学生時代、大学の教官時代、定年前に辞める時の経緯に始まり、職業の在り方、人付き合い、結婚観、教育など様々なテーマに渡るが、一貫しているのは「変化を恐れることはない。普段から自分で物事を考える習慣を身に着けるべき」ということだろうか。
東大医学部教授という世間から見れば「教育職の最高峰」とも言える地位を定年の3年前にあっさりと退官、その理由が「権威主義に疲れたから」。ちなみに50代後半はストレスから毎日酒浸りだったそうだ。しかも辞めたあとのことは何も考えていなかったらしい。
まさに「変化を恐れない」を具現化した行動だが、これも「医師」という手に職があってこそできることで、仕事一筋でやってきた普通の中年会社人間には難しいだろう。
ちなみに今話題の「オジサンの孤独」についても触れていて、孤独を感じるのは「自分があって組織に属しているのではなく、組織があって自分が属しているため」としている。
確かに現時点の多くの定年後のサラリーマンは、「社畜」とまでは行かないまでも、「家庭よりも仕事優先」という考え方が支配的だった時代の常識に疑問を持たずに過ごしてきた世代であり、いきなり会社組織から放り出されても、「何をどうすればよいのか全く見当が付かない」という人が多いのだろう。
「いい年をして何をいまさら」とも思うのだが、これが少なくない定年退職者の実態のようだ。
この問題に対して、先生は「年を取るほど仲間を作っておいた方がいい」「人に依存しあう関係も意外にいい」とアドバイスしている。ただ一方で「依存しすぎるのも問題で、状況に応じて自分が変わることも必要」とも述べている。
個人的には、このように「人に依存しつつもその距離感をうまく維持する」のというのは、それだけで疲れてしまうので、できれば「基本一人」で何事も対応できることを目標にしている。
自分で決めて行動したことには、その結果に対して自分で責任を取る必要が生じるので、ある種の緊張感が保てると考えているからだ。これは将来の認知症やボケ対策にも有効だと思っている。
最後に、先生は小島氏を若いころから知っているようで、「会う都度に大人になっていくのが分かる」としている。
本書もその文面から彼女との会話を結構楽しんでいるのは感じ取れた。
教養と名声の高い先生を師と仰ぎ、先生も彼女からの多岐に渡る質問に対して、ユーモアを交えながら真剣に対応する。こんなある意味理想的な関係と言える「先生」がいたら、私の人生も「もう少しマシなもの」になっていたのではないか、とふと想った。

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歳を取るのも悪くない (中公新書ラクレ 627) 新書 – 2018/6/7
長生きは喜ばしいことのはずなのに、人生百年といわれてもまるで希望が持てないのはなぜ? これからの人生に不安がいっぱいの小島慶子さんが、傘寿を迎えた人生の先達、養老孟司先生に率直な疑問をぶつけます。私たちはいつまで働き続けなければいけないの? 今の仕事は自分に合っているの? なぜ自分の気持ちをわかってもらえないの? 長生きしていいことって何かあるの? 今とは少し違う景色を見るための、生きるヒントが満載です。
- 本の長さ181ページ
- 言語日本語
- 出版社中央公論新社
- 発売日2018/6/7
- 寸法11 x 0.8 x 17.4 cm
- ISBN-104121506278
- ISBN-13978-4121506276
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商品の説明
著者について
養老孟司
一九三七年鎌倉市生まれ。東京大学医学部を卒業後、解剖学教室に入る。東京大学大学院医学系研究科基礎医学専攻博士課程を修了。九五年東京大学医学部教授を退官。九六年から二〇〇三年まで北里大学教授。東京大学名誉教授。八九年『からだの見方』でサントリー学芸賞、二〇〇三年『バカの壁』で毎日出版文化賞特別賞を受賞。ほかに『形を読む』『唯脳論』『身体の文学史』『人間科学』『養老孟司の大言論I~III』など著書多数。
小島慶子
1972年オーストラリア生まれ。学習院大学法学部政治学科卒業後、TBSに入社しアナウンサーとして活躍。2010年に退社。現在はオーストラリアと日本を往復して活動している。著書に『解縛 しんどい親から自由になる』『わたしの神様』など
一九三七年鎌倉市生まれ。東京大学医学部を卒業後、解剖学教室に入る。東京大学大学院医学系研究科基礎医学専攻博士課程を修了。九五年東京大学医学部教授を退官。九六年から二〇〇三年まで北里大学教授。東京大学名誉教授。八九年『からだの見方』でサントリー学芸賞、二〇〇三年『バカの壁』で毎日出版文化賞特別賞を受賞。ほかに『形を読む』『唯脳論』『身体の文学史』『人間科学』『養老孟司の大言論I~III』など著書多数。
小島慶子
1972年オーストラリア生まれ。学習院大学法学部政治学科卒業後、TBSに入社しアナウンサーとして活躍。2010年に退社。現在はオーストラリアと日本を往復して活動している。著書に『解縛 しんどい親から自由になる』『わたしの神様』など
登録情報
- 出版社 : 中央公論新社 (2018/6/7)
- 発売日 : 2018/6/7
- 言語 : 日本語
- 新書 : 181ページ
- ISBN-10 : 4121506278
- ISBN-13 : 978-4121506276
- 寸法 : 11 x 0.8 x 17.4 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 625,424位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2018年6月9日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2019年3月10日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
人が、生きる上での、問題点が上手く、散りばめられている。
現代の問題点も。
現代の問題点も。
2019年12月17日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
著者も歳を重ねられてから、人間的魅力を感じられる本です。このン人の著作のものは大分読んだが、好きではなかった。教授としてのプライドや世間を上から目線でみる傾向が、、。
しかし、読者である自分も年は重ねてきて、若い時にコンプレックスであったことも言えなかったことも明るく言えるようになった。そのうえ著者の場合は天性のユーモアセンスと知性でとてもうまく語られています。
著者の人生はいろんな場面で洗礼(?)されていったのを感じられていい本です。
しかし、読者である自分も年は重ねてきて、若い時にコンプレックスであったことも言えなかったことも明るく言えるようになった。そのうえ著者の場合は天性のユーモアセンスと知性でとてもうまく語られています。
著者の人生はいろんな場面で洗礼(?)されていったのを感じられていい本です。
2019年5月8日に日本でレビュー済み
図書館本
養老先生(1937-)大ファンの小島さん(1972- 数回の対談等の経験があるそうです)の
対談をまとめたもの。
小島さんは養老さんや養老先生のお母さん(医師)の本も読まれていて養老思想に詳しい。
そんな中で、養老さんに根ほり葉ほり質問を浴びせるという感じだろうか。
講演会や単著では知り得ない養老先生の一面が見えてくるとともにブレない養老哲学が
綴られています。
備忘録メモ
死んだあとの事は残ったひとの問題 終活って意味ある?
わかる:頭でわかる、体でわかる 身体性 説明可能性?
組織で生きてきた人の孤独 虫好きな警察官の話
養老さん20歳、ハワイの博物館就職OKの返事、その後医学部時代に多摩動物園(医師として)OK
嘘を付くのが嫌い 科研費の申請書も報告書もだから嫌い
内定率80%の日本、変わり得ない社会
子連れの再婚同士 養老先生 離婚歴あり
子供が本気で遊べない社会
庶民、民意、都と大阪の違い
養老先生(1937-)大ファンの小島さん(1972- 数回の対談等の経験があるそうです)の
対談をまとめたもの。
小島さんは養老さんや養老先生のお母さん(医師)の本も読まれていて養老思想に詳しい。
そんな中で、養老さんに根ほり葉ほり質問を浴びせるという感じだろうか。
講演会や単著では知り得ない養老先生の一面が見えてくるとともにブレない養老哲学が
綴られています。
備忘録メモ
死んだあとの事は残ったひとの問題 終活って意味ある?
わかる:頭でわかる、体でわかる 身体性 説明可能性?
組織で生きてきた人の孤独 虫好きな警察官の話
養老さん20歳、ハワイの博物館就職OKの返事、その後医学部時代に多摩動物園(医師として)OK
嘘を付くのが嫌い 科研費の申請書も報告書もだから嫌い
内定率80%の日本、変わり得ない社会
子連れの再婚同士 養老先生 離婚歴あり
子供が本気で遊べない社会
庶民、民意、都と大阪の違い
2019年8月30日に日本でレビュー済み
本書を読んでびっくりしたこと。
養老先生が子連れの再婚であったということ。
養老マニアで殆どの著作を読んでき来ましたが初めて知りました。
気心の知れた相手の対談なので非常に読みやすいです。
養老先生が子連れの再婚であったということ。
養老マニアで殆どの著作を読んでき来ましたが初めて知りました。
気心の知れた相手の対談なので非常に読みやすいです。
2018年7月7日に日本でレビュー済み
ところどころですが、養老先生が読書家なのが分かります。最近出版された本を
読んでいるのが分かります。
読んでいるのが分かります。