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【収録作】
１．「アエリータ」ヤーコフ・プロタザーノフ監督1924年
火星と宇宙旅行をガジェットとしたＳＦファンタジー。
既に革命が成功した地球から、まだ奴隷封建制を敷く火星に革命が飛び火する様子を意外な（良く有る）落ちで描いています。
プロパガンダ臭は強いが、巷で有名な、ロシアン・アバンギャルドの美術は現在の目で観ても奇抜で、メトロポリスより2年早い事を考えると新鮮です。
プロタザーノフ監督の演出にはユーモアが有り好感触。
原作はなんとトルストイ。
２．「母」フセヴォロド・プドフキン監督1926年サウンド版68年製作。
こちらもモンタージュ理論で有名なプドフキンの古典的名作。
プロ俳優を使った事により顔や動作の持つ説得力が高く、平凡な主婦が夫や息子の圧政による死に対する義憤から革命闘士に変化する様を苦く、重く描きます。
３．「アジアの嵐」フセヴォロド・プドフキン監督1928年(サウンド版49年製作)。
西欧列強（多分イギリス）の傀儡として利用されそうになったジンギスカンの末裔が、そのクビキから逃れ、革命の闘士となる様子を、モンゴロイド系のカリスマ豊かな俳優、ヴァレリー（ワレリー）・インキジノフ（「モンパルナスの灯」「大いなる神秘」「カトマンズの男」）主演で描いています。
当時のチベットやモンゴルの風俗がドキュメンタリー風に収められているのも見物です。
４．「大地」アレクサンドル・ドヴジェンコ監督1930年（71年版。カット部分を復し、ヴャチェスラフ・オフチンニコフの音楽を新たに挿入）。
実は晩年は映画製作からは離れ、後進の指導に当たっていたソビエト3大巨匠の一人。
教え子であるパラジャーノフ監督「火の馬」との共通性〜美しくも官能的な自然や人物の描写〜を強く感じる作品。
５．「人生案内」ニコライ・エック監督1931年（1957年にエック監督が補修したバージョン）
第一回ヴェネチア映画祭監督賞、アメリカのナショナル・ボード・オブ・レビューの最優秀外国映画賞受賞、キネ旬ベストテン2位。
革命時の戦いで、溢れた戦災孤児に悩んだソビエトが、レーニンの命令で、浮浪児を収容し、職業訓練を施す施設を作る事を決定。
ニコライ・バターロフ（本BOXでは１と３にも出演）演じる教師が刑罰では無く、信頼により浮浪児達を更生、立派なソビエト人民に育て上げる迄を描く。
浮浪児のリーダー格で、モンゴル系のムスターファを始め、殆どが本物の浮浪児だったと言う子供達の醸し出すリアリズムが凄い。
ソ連初の本格的トーキー映画で、同時期の他国映画に比べても、サウンドの使い方は斬新です。
1930年代としては珍しく、ソ連の暗黒面、犯罪組織や少女売春婦が、滅ぼされる側としてですが、描かれています。
アメリカのスペンサー・トレイシーとミッキー・ルー二―主演の「少年の町（1938）」とイデオロギーは真逆ながら、作品から受ける印象と構成はとても似ています。
ソ連の教育者アントン・マカレンコの集団主義教育の著作からヒントを得ています。
エンド・クレジットで、フェリックス・ジェルジェンスキーへの献辞が有り驚きました。
KGBの前身チェーカーの創始者とばかり思っていたジェルジェンスキーに教育者としての側面が有ったと存じ上げませんでした。
６．「宇宙飛行」ヴァシリー・ジュラヴリョフ監督1935年。
公開年に無くなった、ソビエト宇宙開発の父、Ｃ・ツィオルコフスキーに捧げられたサイレントＳＦ。
良質な科学映画的感触が有る作品で、ソ連のファンタジー映画の巨人、プトゥシコ監督映画のスタッフが手掛けたストップ・モーション・アニメと精巧なミニチュアによる特撮は見物です。
７．「サーカス」グリゴリー・アレクサンドロフ監督1936年
評者は余り米国の30-40年代ミュージカルを観ていませんが、バスビー・バークレーや、スタンバーグの「嘆きの天使」そしてチャップリン(チャップリンという役名のパントマイマーが出ています)の影響が顕著との事。
人種差別による迫害を逃れてソ連に来た米人芸人マリアンが、差別無きソビエトの社会主義の素晴らしさに触れて感動、定住する様子を、時のサーカスとミュージカル・レビューを組み合わせて描いています。
本BOX内一番の娯楽性を持っています。
本作で幾度も歌われる「祖国の歌」はソ連を代表する愛唱歌となりました。
監督アレクサンドロフと、マリアンを演じた、妻であるリュボーフィ・オルロワ（オルローヴァ）は作曲家、I.ドゥナエフスキー 、作詞: V.レベジェフ=クマチと組んでソ連初期のミュージカル映画の人気者となります。
DVDの映像はかなりゴミやノイズ、ガタつきが御座いますが、フィルム的質感が解る作り方をしています。
1-6にはDVD特典として、比較的詳細な解説やスタッフ・キャスト紹介が挿入されています。
映画史に残るヘヴィー級の作品から、SF、ミュージカルまで収められた非常に雑多な内容ですが、どの映画も大変見応えが御座います。
国家事業として強烈なプロパガンダが込められており、映画単独としては非常に優れて楽しめても、後の歴史的背景を知ると強烈なアイロニーが生じる作品も御座います。
映画内でその素晴らしさを謳われているソビエト連邦は既に解体してしまいました。
そしてその美しさに目を見張る「大地」の舞台であるウクライナは本作で賛美されている集団農業の大失敗で、1930年代に数百万人の餓死者を出しており、しかもそれが人為的なジェノサイドで有ったか否かは現在も係争中です。
各DVD内の特典解説以外でも映画名で検索を掛けると色々な研究者の方による解説や論文を読む事が出来、非常に参考になりました。
盤内に解説が無かった7．「サーカス」に関しては鈴木正美氏による論文「1930年代のアレクサンドロフ監督のミュージカル映画における「声」-スターリン体制下のジャズと大衆歌謡（２）-を参考にさせて頂きました。
贅沢を言えば、紀伊國屋さんの「裁かれるジャンヌ」レベルの状態で観る事が出来れば幸甚です。
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