『Winter in a Vision~幻の冬~』は喜多直毅Quartetteの1stアルバムである。2014年1月18日に岐阜現代美術館/NBKホールでライブ録音された。
喜多直毅Quartetteは2011年4月23日に渋谷で初ライブを行っている。当初は「喜多直毅Tango Quartette」と告知され、アルゼンチンタンゴを演奏する予定だった。それがリハーサルの段階で全曲喜多直毅のオリジナル曲に変更された。
メンバーは喜多直毅(ヴァイオリン)、北村聡(バンドネオン)、田辺和弘(コントラバス)、三枝伸太郎(ピアノ)の4人。いずれも小松亮太と共演経験があり、音楽的なバックグラウンドのひとつにタンゴがあると言って間違いないだろう。
実際、このアルバムでもタンゴの語彙が用いられている。しかしタンゴそのものかと問われると、私はそうではないと感じる。もはや特定のジャンルで括ることの出来ない異形の音楽だ。喜多直毅は初ライブの際にフリーペーパーに「名付けられる前に、境界線で仕切られる前に、その“音楽”をやってしまおう」というコメントを寄せている。
それに続く言葉はこうだ。「では何処にソイツはあるのか? 今回は生まれ故郷にそれを求めてみたいと思います。舞い踊る鬼、音も無く降りしきる雪、まるで耳が千切れる程に凍てついた空気……。これらは全て、血の中にありました。血の中にこそ、その音楽はありました」
タンゴにはアルゼンチンを生きる人々の血が流れている。そしてこのアルバムには喜多直毅が生まれた日本の、東北の血が流れているのだ。「ふるさと」や「残された空」といった楽曲からは日本的な郷愁が感じられる。日本人にしか表現できない音がここにある。
最後にジャケットは青森県生まれの写真家、小島一郎が1961年頃下北地方で撮影した「疾走」という写真が使われている。このアルバムの音楽をこれほど的確に表したジャケットはないだろう。