本書は、奨学金を利用している本人、保証人になっている父母・親族に読んで欲しいが、今の日本の「社会問題」として多くの人が読むべき本だろう。
本書の特徴であるが、とにかく、事例とデータが凄まじい。
(ちなみに、データが信頼できないとレビューしているバカがいるが、確認したところ指摘されるような計算間違いはなかった。かけ算くらいは正確にできるようになった方が良いとアドバイスしたい)。
最初に出てくるケース。努力して大企業に入ったが、そこがブラック企業で精神疾患になり、「自己都合退職」させられる。
JASSOの相談窓口に電話しても、なかなか救済制度の説明をしてくれない。
この方は最終的に生活保護受給者になってしまうが、親族に迷惑をかけたくないので、自己破産はせずにいる。
ただ、いずれ破綻してしまうだろう。無理がありすぎる。
「不真面目な学生が延滞をする」という素朴な幻想は1例目で徹底的に粉砕される。
6例目。東京の国立大学入学という「エリート」。
大学の授業料の免除申請は通った(めっちゃ優秀だよこの人)のに、JASSOの1種(利子無し)は落ちる。
予算の関係で、要件を満たしていても通らないのだ。
奨学金では足りない生活費を稼ぐために、バイトをせざるを得なくなる。
しかし、当然、学業に割ける時間が減っていく。
さらに、経済的に追いつまり、「ホームレス」となり、そして最終的には中退する。
他にも家族の病気で金銭的余裕がなくなる等、本人は全く関与しない理由で延滞せざるを得なくなる例も出てくる。
本書に膨大に引用される事例をみたならば、「自己責任」という妄言を吐けないだろう。
さらに、本書では欧米の制度について解説されている。
OECDのなかでも、日本の奨学金制度が頭抜けて貧弱であることが分かる。
日本が異常なまでに自己責任を強いていることが浮き彫りにされてしまっている。
そして、考えさせられるのは国家・社会への深刻な弊害だ。
本文中に、三浦朱門の「できん者はできんままで結構」の発言が引用されているが、今進んでいる教育改革は、グローバル人材の育成を戦略としていたはずである。
しかし、東京の国立大学に学費免除で入学するような優秀な学生が、奨学金の不備により学業を諦めているのである。
いまの奨学金制度は、現行の教育改革の目的すら阻害している。
本来なら学生に給付されるべきカネが、JASSOを通して金融機関に流れ込んでいるのである(140頁参照)。
人材は国家・社会の基礎だ。
いまの奨学金制度は、「金融資本主義」が国家・社会を「食い物」にしているのである。
さて、これに対する解決策として今世に出ているのはファイナンシャルプランナーによるものだ。
要は、節約と財テクで乗り切れというものだが、本書では、具体的な数値をもって、その解決策が「ムリゲー」であることが論証されている(170頁)。
著者は表現を抑えたのだろうか、私の感覚では、ムリゲーというより、カセットを叩き割るレベルのクソゲーである。
じゃあ、どう解決するのか?
著者は、安易に「学費を下げよう」とか、「政治に訴えよう」とか言わない。
いや、まぁ、実質言っているのだが、そんな抽象的な、大文字の政治的提言にとどまらない。
個人のレベルでなんとか乗りきる方法が最終章(第7章)に書かれているのである。
利用できる諸制度も記載されているが、重要なのは支援団体に繋がることだろう。
利用者は情報不足のために、適切な解決策を見つけられないのが普通である。
支援団体につながりさえすれば、制度も分かるし、奨学金問題に強い弁護士の紹介もしてもらえる。
実態調査の徹底ぶりや、構造分析に目を奪われがちだが、本書の白眉は、この個人レベルでの解決策の提示にあると思う。
繰り返しになるが、本書は、奨学金問題の当事者たちに解決策を提示する本であると同時に、日本の大きな「社会問題」を知る本である。多くの人に読んで欲しい。

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ブラック奨学金 (文春新書 1112) 新書 – 2017/6/20
今野 晴貴
(著)
いまや約4割の大学生、100万人以上が借りる奨学金。だが、容赦のない取り立てと厳しいペナルティで返済に行き詰まり、親戚にまで厳しい請求が行く例が相次いでいる。奨学金で人生を棒に振らないための処方箋をここに公開!
- 本の長さ223ページ
- 言語日本語
- 出版社文藝春秋
- 発売日2017/6/20
- ISBN-104166611127
- ISBN-13978-4166611126
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
容赦ない裁判での取り立て、雪だるま式に膨れ上がる延滞金地獄……
学生をしゃぶりつくす“高利貸し"の正体!
突然、身に覚えのない多額の借金の請求書が自宅に届く――。今、全国各地でこんなことが相次いている。奨学金を借りた若者たちが返済に行き詰まり、その保証人が日本学生支援機構(JASSO)に訴えられるケースが続発しているのだ。
長引く不況から、奨学金を借りる学生は増加し続け、いまや大学・短大生の約4割が奨学金を利用している。1人あたりの合計借入金額は、平均300万円以上にものぼる。新社会人の若者の約4割がこれほどの借金を背負って社会に出て行くのだ。
だが、大学を卒業しても奨学金の返済に窮する若者が急増している。その背景には、雇用情勢の不安定化や「ブラック企業」の存在がある。
滞納が一定期間続くと、JASSOは延滞分だけではなく、将来返済する予定の金額(元本および利子)も含めて、裁判所を通じて「一括請求」を行う。また、それら全体に「延滞金」が年間5~10%もかかってくる。そのため返済額は膨れ上がり、400万円、500万円といった莫大な請求が、一挙に振りかかってくる。
借りた本人が返済できない場合、請求は保証人に及ぶ。奨学金の借入時には親族が連帯保証人及び保証人になることが一般的だ。両親はもとより、祖父、祖母、おじ、おばにまで請求がいくこともまったく珍しくはない。
延滞金は、訴訟が提起され、本人が自己破産し、保証人に請求が行くまでに雪だるま式に膨れあがっている。まるで、かつての消費者金融被害のような様相を呈しているのだ。
奨学金返済の延滞に対し、2015年度に執られた法的措置は、なんと8713件にも及ぶ。
なかには、本人が死亡したのに家族が訴えられたケースや、シェルターで暮らす女性にも容赦ない取り立てが及んでいるケースもある。
著者はNPO法人POSSEの代表を務め、これまで200件以上の奨学金返済の相談に関わってきた。本書では生々しい実例を豊富に紹介しているほか、すでに返済が難しくなってしまった人のために、どのように対処すればよいのかも詳しくアドバイスしている。
学生をしゃぶりつくす“高利貸し"の正体!
突然、身に覚えのない多額の借金の請求書が自宅に届く――。今、全国各地でこんなことが相次いている。奨学金を借りた若者たちが返済に行き詰まり、その保証人が日本学生支援機構(JASSO)に訴えられるケースが続発しているのだ。
長引く不況から、奨学金を借りる学生は増加し続け、いまや大学・短大生の約4割が奨学金を利用している。1人あたりの合計借入金額は、平均300万円以上にものぼる。新社会人の若者の約4割がこれほどの借金を背負って社会に出て行くのだ。
だが、大学を卒業しても奨学金の返済に窮する若者が急増している。その背景には、雇用情勢の不安定化や「ブラック企業」の存在がある。
滞納が一定期間続くと、JASSOは延滞分だけではなく、将来返済する予定の金額(元本および利子)も含めて、裁判所を通じて「一括請求」を行う。また、それら全体に「延滞金」が年間5~10%もかかってくる。そのため返済額は膨れ上がり、400万円、500万円といった莫大な請求が、一挙に振りかかってくる。
借りた本人が返済できない場合、請求は保証人に及ぶ。奨学金の借入時には親族が連帯保証人及び保証人になることが一般的だ。両親はもとより、祖父、祖母、おじ、おばにまで請求がいくこともまったく珍しくはない。
延滞金は、訴訟が提起され、本人が自己破産し、保証人に請求が行くまでに雪だるま式に膨れあがっている。まるで、かつての消費者金融被害のような様相を呈しているのだ。
奨学金返済の延滞に対し、2015年度に執られた法的措置は、なんと8713件にも及ぶ。
なかには、本人が死亡したのに家族が訴えられたケースや、シェルターで暮らす女性にも容赦ない取り立てが及んでいるケースもある。
著者はNPO法人POSSEの代表を務め、これまで200件以上の奨学金返済の相談に関わってきた。本書では生々しい実例を豊富に紹介しているほか、すでに返済が難しくなってしまった人のために、どのように対処すればよいのかも詳しくアドバイスしている。
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2018年7月21日に日本でレビュー済み
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若者を救い、誰にも平等に教育の機会を与えるための制度であるはずの奨学金制度。
しかし昨今はその取り立てが異様に厳しくなり、若い世代を逆に苦しめているという、
奨学金を巡る制度上の問題や背景を理解したい人にすすめたいです。
著者が支援したり接した当事者についてのレポートもあり生々しいです。
もっとも、当事者が読んで救いになるかというと微妙かもしれないです。
第7章に「必読!返せなくなった時の対処法」という章もありますが
救済措置が限定的で、当事者がこの問題を乗り越えることの難しさを物語っています。
でも知らないよりは知った方が大分マシですし、役に立ちます。
しかし昨今はその取り立てが異様に厳しくなり、若い世代を逆に苦しめているという、
奨学金を巡る制度上の問題や背景を理解したい人にすすめたいです。
著者が支援したり接した当事者についてのレポートもあり生々しいです。
もっとも、当事者が読んで救いになるかというと微妙かもしれないです。
第7章に「必読!返せなくなった時の対処法」という章もありますが
救済措置が限定的で、当事者がこの問題を乗り越えることの難しさを物語っています。
でも知らないよりは知った方が大分マシですし、役に立ちます。
2017年6月21日に日本でレビュー済み
担保も無しで低利(1%)金を借りて返せないからと言って文句を言うのは間違いだと思う。まず、進学して十分な収入がある所へ就職できるのか考えているのかね?。基本、私立の専門学校なんて授業料を払ってくれれば良いんだから誰でも入れる。そりゃ、美味しい事を言って人を集めるだろう。私立のfランク大学も同じだ。
そんなとこへ進学するのに金を借りてまで進学するほうが悪いと言うほかないね。また、親戚の保証人になって借金を背負いこむ話もあったが保障会社があるんだから、それを勧めるべきだろ。たとえ、親戚関係が壊れてそう言うべきだ。当然、保障会社に手数料は払わなければならないが、それをケチる奴なんて踏み倒す気が十分だと思ったほうがいいね。これだけ奨学金の問題がクローズアップされて簡単に金を借りる奴は馬鹿だと思う。子供を進学させたいのであれば、それなりに用意をするべきだ。私も公立校の教員を退職し嘱託でまだ勤務している。奨学金の危険性は十分理解してるが保護者は理解していない場合が多い。極端、返せなくなれば踏み倒したら良いと考えている保護者もいる。口で言っても理解してくれないし、そういう親にかぎって限度一杯借りようとする。学生支援機構を非難するんじゃなく、無計画な借り手のほうを非難すべきだと思うけどね。
そんなとこへ進学するのに金を借りてまで進学するほうが悪いと言うほかないね。また、親戚の保証人になって借金を背負いこむ話もあったが保障会社があるんだから、それを勧めるべきだろ。たとえ、親戚関係が壊れてそう言うべきだ。当然、保障会社に手数料は払わなければならないが、それをケチる奴なんて踏み倒す気が十分だと思ったほうがいいね。これだけ奨学金の問題がクローズアップされて簡単に金を借りる奴は馬鹿だと思う。子供を進学させたいのであれば、それなりに用意をするべきだ。私も公立校の教員を退職し嘱託でまだ勤務している。奨学金の危険性は十分理解してるが保護者は理解していない場合が多い。極端、返せなくなれば踏み倒したら良いと考えている保護者もいる。口で言っても理解してくれないし、そういう親にかぎって限度一杯借りようとする。学生支援機構を非難するんじゃなく、無計画な借り手のほうを非難すべきだと思うけどね。
2017年12月19日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
あまりにも酷すぎる。
来年知り合いの女の子が奨学金を借りて大学に行く、彼女の家はお金が無いのだ、そして大学に行くには奨学金を借りるしか無い。
田舎の地元にも都会にも高卒で正規採用してくれる所は皆無だ、彼女に選択の余地は無い、彼女の母は保証人を祖母に頼んだ年金暮らしのおばあさんに。
大学を卒業しても半分近くが非正規労働と聞く、彼女はこれからどうなるのだろう?
彼女が奨学金を返済できなる可能性は高い、高額の利子が付く奨学金を返せなくなれば年金で慎ましく暮らすおばあさんは家を取られるだろう。
派遣事業の自由化の時もそうだったがいい加減にしろ!!
日本の次代を託す若者を奴隷化し一部の支配者だけが肥え太って行く
戦前の様に借金に縛られた彼女は苦界に沈むのだろうか?
風俗と名前を変えた現代の苦界に。
確かに戦前は江戸時代から続く封建時代の名残が多く残っていた
だが江戸時代にも権力を握る者には秩序と責任があったのだ
武士は腹を切る事によって、名主は自らの娘を領主に差し出す事で責任を果たした。
今の権力者達は権力を握る者の責任を取ろうとしない
権力を握る者にはその責任を伴う事を知らない
そもそもそんな人間には権力を握る資格など無い。
責任を取らぬ者に借りた借金など返す必要など無いのだ。
来年知り合いの女の子が奨学金を借りて大学に行く、彼女の家はお金が無いのだ、そして大学に行くには奨学金を借りるしか無い。
田舎の地元にも都会にも高卒で正規採用してくれる所は皆無だ、彼女に選択の余地は無い、彼女の母は保証人を祖母に頼んだ年金暮らしのおばあさんに。
大学を卒業しても半分近くが非正規労働と聞く、彼女はこれからどうなるのだろう?
彼女が奨学金を返済できなる可能性は高い、高額の利子が付く奨学金を返せなくなれば年金で慎ましく暮らすおばあさんは家を取られるだろう。
派遣事業の自由化の時もそうだったがいい加減にしろ!!
日本の次代を託す若者を奴隷化し一部の支配者だけが肥え太って行く
戦前の様に借金に縛られた彼女は苦界に沈むのだろうか?
風俗と名前を変えた現代の苦界に。
確かに戦前は江戸時代から続く封建時代の名残が多く残っていた
だが江戸時代にも権力を握る者には秩序と責任があったのだ
武士は腹を切る事によって、名主は自らの娘を領主に差し出す事で責任を果たした。
今の権力者達は権力を握る者の責任を取ろうとしない
権力を握る者にはその責任を伴う事を知らない
そもそもそんな人間には権力を握る資格など無い。
責任を取らぬ者に借りた借金など返す必要など無いのだ。
2017年6月29日に日本でレビュー済み
・「奨学金地獄」(岩重佳治著、小学館新書)
・「奨学金が日本を滅ぼす」(大内裕和著、朝日文庫)
・「ブラック奨学金」(今野晴貴著、文春新書)
これら三冊を短期間の間に読んでみた。
いずれの著作も、基本的な部分で的外れだ。
東京の物価が地方に比べて高いのも、
長く景気が悪かったのも、
景気が良くなって来ても会社の給料が上がらないのも、
大学を卒業しても正社員になれなかったのも、
正社員になれても入った会社がブラック企業だったのも、
ブラックバイトで酷い目に合ったのも、
親族の奨学金の保証人になったら本人が遁走してしまったのも、
とにかくすべて悪いのは奨学金だ、
不幸の原因は全て奨学金だ、
というのが、これらの本に共通する主張である。
日本学生支援機構の理事長である遠藤氏の記事を読んだ。
氏は、「機構は炭鉱のカナリアだ」と表現していた。
炭鉱で有毒ガス発生といった異常が起きた時に、真っ先にそれを感知するのが炭鉱のカナリアだ。
それに例えて、社会環境や雇用情勢などが変調をきたした時には、奨学金の返還状況などを通じて、逸早く異常を察知出来る、というような意味だろう。
その言葉を借りれば、これら三冊の本の著者は
「炭鉱で有毒ガスが発生したのはカナリアのせいだ」と、
なんなら「落盤事故が起きたのだってカナリアのせいだ」
と主張しているわけだ。
その的外れっぷりがよく分かる。
いずれの本でも様々な事例が紹介されているが、どれも突っ込みどころ満載である。
キリがないので、ここでは事例以外の部分で、これらの本に共通する、奨学金の制度や機構の対応などに対する主張の一部について触れてみる。
これらの本はいずれも、
長期延滞した延滞情報を「個人信用情報」に登録する事を「ブラックリスト化」と称して批判し、そんな事はすべきではないと主張している。
しかし、常識的に考えて「個人信用情報」への登録は当然必要であり、それは社会全体の利益に通じるものだ。
生活が苦しい人にとっては奨学金の返済負担は重いのだろうけれど、それでも、仮に月5万円の奨学金を4年間借りて、総額240万円を、15年間で返すとすれば、毎月の返済額は13,000円程度だ。10年で返しても月2万円。
有利子だとしても、ゼロ金利時代の利率は非常に低い。2017年3月の変動金利が年利0.01%。100万円を1年間借り続けて利息は100円。固定金利なら年利0.33%。同じ計算で利息は3,300円。
一般的にさほど負担が重いとは言えない、この水準の返済ですら長期延滞している人を、個人信用情報に登録せずに放置しておくことが、本人や社会の為になるのか。決してそうは思えない。
放置すれば、各種クレジットやキャッシング、ローンなど、返せもしない負債が累積するのは目に見えている。奨学金の少額の返済すら滞っている人物とは知らずに貸してしまう金融機関には不良債権が積み上がることになる。
そうなると貸し手側の融資姿勢・審査は厳しくなり、本来きちんと返済出来るはずの人にまで不利益が及ぶことになる。
こういう本を書く人たちは、銀行や金融業者の借金など、いくらでも踏み倒せば良いと思っているのかもしれないが、ヤミ金業者は別として、真っ当な商売をしている銀行や金融機関をいたずらに追い込んでも、社会的な利益には繋がらない。
借りた側も、結局は多重債務になって破産などの道へ追い込まれる。破産する当人も大変かもしれないが、その周りには泣かされる債権者も大勢いるのだ。
著者らはそんな事はお構いなしのようだが。
「奨学金の返還猶予制度が最長10年間しか使えない」ことをもって、欠陥制度だと決めつけるのも共通点だ。
10年という期間の妥当性は議論しても良いと思う。
しかし、もっと冷静に考えるべきだ。
返還猶予制度をつかえば、猶予の期間中、借り手は利息も含めて1円も返さなくていいのだ。
お金を借りておいて10年間も1円も返済しないということが、どれほど異常なことか認識すべきである。そういう意味では、この制度はかなり手厚い。
しかし、これら三冊の著者らは、返済できないものはしょうがない、返済が苦しい間は、たとえ何年何十年でも、1円も返さなくて良いことにすべきだ、という主張である。
何とも寛大な心の持ち主たちだが、これが世間一般の常識や良識だとは思えない。
苦しい中でも、苦労して真面目に返済を続けている人は大勢いるはずだ。
そういう人たちに「なんだ、頑張って真面目に返済している人間がバカみたいじゃないか」と思わせる、そういうモラルハザードが必ず起こるだろう。
そうなれば、制度は成り立たなくなり、結局、割りを食うのは、普通に奨学金を必要とさしている人たちだ。
これは、奨学金に限らず、世の中の色んなことに通じることだと思うのだが、著者らはそんなこともお構いなしだ。理由は不明だが、とにかく奨学金や機構の悪口が書ければいいようだ。
「延滞が長期に亘った場合に一括返済を求められる」ことについての批判も共通点だ。
だが、長期間延滞したら、期限の利益を喪失して一括返済を求められるというのも、この世の常識ではないだろうか。
きちんとした融資契約で、期限の利益の喪失について定めがないものがあるだろうか。
著者らは、とにかく奨学金の返済が苦しい人たちに対しては、無制限に救済しろ、契約も法律も関係ない、そんな契約や法律が悪いのだ、超法規的な措置をしてでも救済しろ、と思っているようだ。
まずは一括返済を請求されても、その後話し合いをして、分割返済で裁判上の和解をしている事案も多いように書かれている。それが普通の対応だろうと思うが、とにかく奨学金に限っては、苦しい時は無制限に1円の返済もしなくて良いようにしろというスタンスだから、世間一般の感覚ではどうしようもない。
「諸外国の奨学金制度は充実していて、だから海外の学生は薔薇色の学生生活を送っており、日本の学生だけが学費に困って酷い目に合っている」かのような印象操作も三冊に共通する。
自分たちに都合の良いデータを提示はしているが、国民が負担している税金や社会保険料の水準など、トータルに検討を重ねなければ比較は出来ないはずだ。
「ルポ貧困大国アメリカ」(岩波新書、シリーズで三冊あり)を読んだ。
この本も突っ込みどころは多いが、アメリカの学生の悲惨な、まさに学生ローン地獄とでも呼ぶべき事情が紹介されている。それをアメリカの学生の一般的な姿だとは思わないし、鵜呑みにはしないが、いずれにせよ、日本の制度だけが劣っていると単純には決めつけられないことは読み取れる。
給付型の奨学金の拡充は、理想だろう。しかし、財源が必要だ。つまりは国民の負担だ。
国民全体でどこまでの学生を支援するのかは、慎重に検討しなければならない。
何も考えていない、脳内お花畑のバカ学生の学費にまで、私の税金が使われるのはごめんだ。
冒頭にあげた三冊の中でも、事実誤認や根拠のない決めつけ・憶測などが一番目立つのは本書かもしれない。
裁判記録を閲覧したとして紹介している事例も雑だ。
資料から読み取れない部分まで憶測で補い、読者を誘導しようとしている。
ここまで悪し様に奨学金や機構を批判するのなら、もっと確固とした、明確な事実の積み上げに基づいて主張すべきだと思う。
冒頭の三冊、いずれもお奨めはしない。
読みたければ図書館か中古本でいい。
これから奨学金を利用しようとする人は、奨学金制度について、事実だけを客観的に説明してくれている本を選ぶべきだ。
その際には、将来、返済に困ったときの制度についても読み飛ばさずに、キチンと読んでおくことが大事だろう。
今現在、奨学金の返済に困っている人は、こんな本にお金と時間を費やさず、すぐに機構や、状況によっては弁護士などに相談することだ。
これらの本に書かれていることを鵜呑みにして「貸した方が悪い」などと主張しても、何ら救われないことを肝に銘じておいた方が良い。
・「奨学金が日本を滅ぼす」(大内裕和著、朝日文庫)
・「ブラック奨学金」(今野晴貴著、文春新書)
これら三冊を短期間の間に読んでみた。
いずれの著作も、基本的な部分で的外れだ。
東京の物価が地方に比べて高いのも、
長く景気が悪かったのも、
景気が良くなって来ても会社の給料が上がらないのも、
大学を卒業しても正社員になれなかったのも、
正社員になれても入った会社がブラック企業だったのも、
ブラックバイトで酷い目に合ったのも、
親族の奨学金の保証人になったら本人が遁走してしまったのも、
とにかくすべて悪いのは奨学金だ、
不幸の原因は全て奨学金だ、
というのが、これらの本に共通する主張である。
日本学生支援機構の理事長である遠藤氏の記事を読んだ。
氏は、「機構は炭鉱のカナリアだ」と表現していた。
炭鉱で有毒ガス発生といった異常が起きた時に、真っ先にそれを感知するのが炭鉱のカナリアだ。
それに例えて、社会環境や雇用情勢などが変調をきたした時には、奨学金の返還状況などを通じて、逸早く異常を察知出来る、というような意味だろう。
その言葉を借りれば、これら三冊の本の著者は
「炭鉱で有毒ガスが発生したのはカナリアのせいだ」と、
なんなら「落盤事故が起きたのだってカナリアのせいだ」
と主張しているわけだ。
その的外れっぷりがよく分かる。
いずれの本でも様々な事例が紹介されているが、どれも突っ込みどころ満載である。
キリがないので、ここでは事例以外の部分で、これらの本に共通する、奨学金の制度や機構の対応などに対する主張の一部について触れてみる。
これらの本はいずれも、
長期延滞した延滞情報を「個人信用情報」に登録する事を「ブラックリスト化」と称して批判し、そんな事はすべきではないと主張している。
しかし、常識的に考えて「個人信用情報」への登録は当然必要であり、それは社会全体の利益に通じるものだ。
生活が苦しい人にとっては奨学金の返済負担は重いのだろうけれど、それでも、仮に月5万円の奨学金を4年間借りて、総額240万円を、15年間で返すとすれば、毎月の返済額は13,000円程度だ。10年で返しても月2万円。
有利子だとしても、ゼロ金利時代の利率は非常に低い。2017年3月の変動金利が年利0.01%。100万円を1年間借り続けて利息は100円。固定金利なら年利0.33%。同じ計算で利息は3,300円。
一般的にさほど負担が重いとは言えない、この水準の返済ですら長期延滞している人を、個人信用情報に登録せずに放置しておくことが、本人や社会の為になるのか。決してそうは思えない。
放置すれば、各種クレジットやキャッシング、ローンなど、返せもしない負債が累積するのは目に見えている。奨学金の少額の返済すら滞っている人物とは知らずに貸してしまう金融機関には不良債権が積み上がることになる。
そうなると貸し手側の融資姿勢・審査は厳しくなり、本来きちんと返済出来るはずの人にまで不利益が及ぶことになる。
こういう本を書く人たちは、銀行や金融業者の借金など、いくらでも踏み倒せば良いと思っているのかもしれないが、ヤミ金業者は別として、真っ当な商売をしている銀行や金融機関をいたずらに追い込んでも、社会的な利益には繋がらない。
借りた側も、結局は多重債務になって破産などの道へ追い込まれる。破産する当人も大変かもしれないが、その周りには泣かされる債権者も大勢いるのだ。
著者らはそんな事はお構いなしのようだが。
「奨学金の返還猶予制度が最長10年間しか使えない」ことをもって、欠陥制度だと決めつけるのも共通点だ。
10年という期間の妥当性は議論しても良いと思う。
しかし、もっと冷静に考えるべきだ。
返還猶予制度をつかえば、猶予の期間中、借り手は利息も含めて1円も返さなくていいのだ。
お金を借りておいて10年間も1円も返済しないということが、どれほど異常なことか認識すべきである。そういう意味では、この制度はかなり手厚い。
しかし、これら三冊の著者らは、返済できないものはしょうがない、返済が苦しい間は、たとえ何年何十年でも、1円も返さなくて良いことにすべきだ、という主張である。
何とも寛大な心の持ち主たちだが、これが世間一般の常識や良識だとは思えない。
苦しい中でも、苦労して真面目に返済を続けている人は大勢いるはずだ。
そういう人たちに「なんだ、頑張って真面目に返済している人間がバカみたいじゃないか」と思わせる、そういうモラルハザードが必ず起こるだろう。
そうなれば、制度は成り立たなくなり、結局、割りを食うのは、普通に奨学金を必要とさしている人たちだ。
これは、奨学金に限らず、世の中の色んなことに通じることだと思うのだが、著者らはそんなこともお構いなしだ。理由は不明だが、とにかく奨学金や機構の悪口が書ければいいようだ。
「延滞が長期に亘った場合に一括返済を求められる」ことについての批判も共通点だ。
だが、長期間延滞したら、期限の利益を喪失して一括返済を求められるというのも、この世の常識ではないだろうか。
きちんとした融資契約で、期限の利益の喪失について定めがないものがあるだろうか。
著者らは、とにかく奨学金の返済が苦しい人たちに対しては、無制限に救済しろ、契約も法律も関係ない、そんな契約や法律が悪いのだ、超法規的な措置をしてでも救済しろ、と思っているようだ。
まずは一括返済を請求されても、その後話し合いをして、分割返済で裁判上の和解をしている事案も多いように書かれている。それが普通の対応だろうと思うが、とにかく奨学金に限っては、苦しい時は無制限に1円の返済もしなくて良いようにしろというスタンスだから、世間一般の感覚ではどうしようもない。
「諸外国の奨学金制度は充実していて、だから海外の学生は薔薇色の学生生活を送っており、日本の学生だけが学費に困って酷い目に合っている」かのような印象操作も三冊に共通する。
自分たちに都合の良いデータを提示はしているが、国民が負担している税金や社会保険料の水準など、トータルに検討を重ねなければ比較は出来ないはずだ。
「ルポ貧困大国アメリカ」(岩波新書、シリーズで三冊あり)を読んだ。
この本も突っ込みどころは多いが、アメリカの学生の悲惨な、まさに学生ローン地獄とでも呼ぶべき事情が紹介されている。それをアメリカの学生の一般的な姿だとは思わないし、鵜呑みにはしないが、いずれにせよ、日本の制度だけが劣っていると単純には決めつけられないことは読み取れる。
給付型の奨学金の拡充は、理想だろう。しかし、財源が必要だ。つまりは国民の負担だ。
国民全体でどこまでの学生を支援するのかは、慎重に検討しなければならない。
何も考えていない、脳内お花畑のバカ学生の学費にまで、私の税金が使われるのはごめんだ。
冒頭にあげた三冊の中でも、事実誤認や根拠のない決めつけ・憶測などが一番目立つのは本書かもしれない。
裁判記録を閲覧したとして紹介している事例も雑だ。
資料から読み取れない部分まで憶測で補い、読者を誘導しようとしている。
ここまで悪し様に奨学金や機構を批判するのなら、もっと確固とした、明確な事実の積み上げに基づいて主張すべきだと思う。
冒頭の三冊、いずれもお奨めはしない。
読みたければ図書館か中古本でいい。
これから奨学金を利用しようとする人は、奨学金制度について、事実だけを客観的に説明してくれている本を選ぶべきだ。
その際には、将来、返済に困ったときの制度についても読み飛ばさずに、キチンと読んでおくことが大事だろう。
今現在、奨学金の返済に困っている人は、こんな本にお金と時間を費やさず、すぐに機構や、状況によっては弁護士などに相談することだ。
これらの本に書かれていることを鵜呑みにして「貸した方が悪い」などと主張しても、何ら救われないことを肝に銘じておいた方が良い。