出演∶ゲイリー・クーパー、ウォルター・ブレナン、ドリス・ダヴェンポート、フォレスト・タッカー、ポール・ハースト、チル・ウィルス、ダナ・アンドリュース
監督∶ウィリアム・ワイラー
巨匠ウィリアム・ワイラーの数少ない西部劇の1本。ジョン・ウェインと並ぶ西部劇スター、ゲイリー・クーパーを主役に据えた勧善懲悪ドラマの形になってはいるが、"悪役"のウォルター・ブレナンのキャラクターを前面に押し出した仕立てになっており(しかもブレナンがアカデミー助演男優賞を受賞している)、この時代の普通の西部劇とはひと味違う作品に仕上がっていると思う。
テキサスのある町では、牧畜業者たちと農民たちの対立が激化していた。町を牛耳るのは酒場を経営する無法者で自称"判事"のロイ・ビーン(ブレナン)だった。ビーンは牧畜業者に味方し、小競り合いで牛を死なせた農民を絞首刑にするなどして農民たちを弾圧して町に君臨していた。
そんな町を通りかかった流れ者コール(クーパー)は、馬泥棒と間違えられビーンの裁判所(酒場)で裁判にかけられる。居合わせた農民の娘ジェーン(ダヴェンポート)がコールの味方をしてくれるが、有罪を宣告されてしまう。そこへ本物の馬泥棒が現れ、隠し持った銃でコールを殺そうとしたところをビーンに射殺されたことで、コールとビーンに奇妙な友情が芽生える。
行き掛かりからジェーンとその父の家に厄介になることになったコールは、ビーンと農民たちの間に立ち、争いを鎮静化させようと努力する。やがて農地一杯に穀物が実り、歓喜のお祭りに沸く農民たちだったが、牧畜業者一派の突然の襲撃で農地や住宅は焼き討ちに遇い、燃やし尽くされてしまう。襲撃の背後で糸を引いていたビーンに、コールは全面対決を決意するが…。
ロイ・ビーン判事は実在する人物で、30年以上のちにポール・ニューマン主演の映画『ロイ・ビーン』でも取り上げられている。ワル中のワルだが、どこか憎めないブレナン演じるビーンはなかなかの絶品である。主役は間違いなくコールの方なのであるが、この映画の作り手は本当はロイ・ビーンを主役にした映画を作りたかったのではないかと思えてくるほどビーンのキャラクターはコール以上に立っている。
監督のウィリアム・ワイラーは、のちに『我等の生涯の最良の年』『ローマの休日』『大いなる西部』『ベン・ハー』などで巨匠と言われるようになるが、この作品でも普通の西部劇と違ったキャラクター造形の上手さや、焼き討ちなどのスペクタキュラーなシーンの迫力の演出などに、その片鱗をうかがわせる。
この作品では、ウォルター・ブレナンに食われ気味の感もあるが、ハリウッドを代表する大スター、ゲイリー・クーパーがまだ30歳代の若さで、長身・スリムで輝いている。50歳代になってからの西部劇代表作『真昼の決闘』『ヴェラクルス』『縛り首の木』『西部の人』などでの貫禄はないが、じつにカッコいい。
ポール・ニューマンの『ロイ・ビーン』でも描かれていたが、ビーン判事は当時大人気だったリリー・ラングトリーというイギリスの舞台女優に憧憬の念を抱いており、尋常ではないほどの入れあげ方だったそうだ。この映画『西部の男』でも、ビーン判事のリリーへの崇拝ぶりがドラマ上の重要な要素として使われている。映画『ロイ・ビーン』を作った人たちも、きっと『西部の男』を見て、いつかこの面白い悪役を主人公にした映画を作りたいと思っていたんでしょうね。
映画の冒頭に「Gary Cooper as THE WESTE
RNER」と、俳優名·タイトルが出る。
だが、この映画の作り手が本当に描きたかった"WESTERNER(西部の男)"とは、ロイ·ビーンの方だったのではないだろうか…。