Kindle 価格: | ¥1,584 (税込) |
獲得ポイント: | 16ポイント (1%) |

無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
翻訳地獄へようこそ 宮脇孝雄シリーズ Kindle版
翻訳業界の中でもその博識ぶりと名訳者ぶりがリスペクトされている宮脇孝雄氏による、翻訳者と志望者、英語学習者、海外文学愛好家に有用な珠玉のエッセー集。
「翻訳は難しい」とはよく言われること。文法的に一応正しく訳したつもりなのに、著者が本当に言いたいことはまるっきり伝わっていない―――そんなことがままあるのが「翻訳の世界」なのです。表層的な訳から脱したい、時代や文化背景の違いを乗り越えて、より正確でより魅力的な訳にたどりつきたい、ともがき苦しむ翻訳者たち。知恵を振り絞りあらゆる手段を使い、正しく訳せた時の歓びは格別ながら、心残りのある訳文しかひねり出せなかった時には悔いがいつまでも尾を引き……。
本書は、そんなちょっとマゾヒスティックな翻訳者や翻訳コンシャスな人々に贈る書。古今のさまざまなジャンルの英語の読み物に通じ、英語圏の文化や言葉への造詣が深い宮脇氏が、数多くの翻訳実例も引用しつつ、翻訳のやり方、アプローチ法を実践的に紹介します。読めば読むほど翻訳者の苦悩と奮闘、そして翻訳の奥深さ面白さがじわじわ伝わってくる一冊なのです。
●エッセー41篇が3つの章に分かれています。
1 翻訳ビギナー講座:単語の意味の選択の間違い、イディオム、構文のまずい訳し方など、翻訳者が最低限心得ておきたいこと
2 翻訳に必要な文化背景:歴史、習慣、風俗などについてのさまざまな調査をした上でさらに推理をすることが必要
3 実践的翻訳講座:「表現の翻訳」とはどういうことか。長めの英文を使った翻訳過程を実況中継的に
<目次より>
慣用句は時に破壊力のある地雷となる
謎の人物が出て来たらディケンズを当たれ!
翻訳で失われるものは意味だけではない
なぜカウボーイは独立分詞構文で描かれたのか?
【著者プロフィール】
宮脇 孝雄:
翻訳家・随筆家。40年以上にわたり、ミステリ『死の蔵書』や文学作品『異邦人たちの慰め』など多様なジャンルの作品を手掛けてきた。翻訳に関するエッセイをはじめ、料理や英米文学・ミステリに関するエッセイ、評論も多い。現在、(株)日本ユニ・エージェンシーで翻訳教室を開講、専修大学で非常勤講師を務める。
主著:『翻訳の基本』『続・翻訳の基本』『英和翻訳基本事典』(研究社)
主訳書:『死の蔵書』『幻の特装本』『異邦人たちの慰め』(早川書房)、『ジーン・ウルフの記念日の本』『ソルトマーシュの殺人』(国書刊行会)
- 言語日本語
- 出版社アルク
- 発売日2018/6/22
- ファイルサイズ16462 KB
- 販売: Amazon Services International LLC
- Kindle 電子書籍リーダーFire タブレットKindle 無料読書アプリ
まとめ買い
シリーズの詳細を見る-
3冊すべて¥ 4,85149pt (1%)
-
3冊すべて¥ 4,85149pt (1%)
このまとめ買いには1-3冊のうち3冊が含まれます。
この本を読んだ購入者はこれも読んでいます
登録情報
- ASIN : B07DR7BKPN
- 出版社 : アルク (2018/6/22)
- 発売日 : 2018/6/22
- 言語 : 日本語
- ファイルサイズ : 16462 KB
- Text-to-Speech(テキスト読み上げ機能) : 有効
- X-Ray : 有効
- Word Wise : 有効にされていません
- 付箋メモ : Kindle Scribeで
- 本の長さ : 197ページ
- Amazon 売れ筋ランキング: - 151,374位Kindleストア (Kindleストアの売れ筋ランキングを見る)
- - 27位翻訳 (Kindleストア)
- - 79位翻訳 (本)
- - 1,696位英語 (Kindleストア)
- カスタマーレビュー:
著者について

著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
その中でも、個人的に特に印象に残ったのは以下の箇所である。
<あとで知ったところによると、初対面の男に対してなれなれしくdearを使うのは、だいたいホモセクシュアルの男性だそうで>(p.37)
<travellerは、広い意味ではむろん「旅行者」だが、「放浪者、浮浪者、町から町へと移動して暮らしているホームレス」の意味で使われることがある>(p.104)
<翻訳のポイントだが、こういう直喩は原文の順序(事実→比喩)を守って訳すこと。比喩の方から先に訳すと、目の前にその人物がいる現場感、空気感がなくなり、前の晩に握っておいて寿司を出されたような「作り置き感」が目立つようになる>(p.162)
<alogotransiphobia(中略)本や新聞などの活字を持たずに交通機関で移動することに対する恐怖症のことをこういうらしい。あえて訳せば「無活字乗車恐怖症」>(p.181 )評者も日頃この症状に強い覚えがあり、この英単語の存在を知っただけでも本書を読んでよかった。
なお☆5の評価にいささかも影響を与えるものではないが、本書124ページに次の一節がある。<内密にしておきたい話を口にするときの決まり文句、「ここだけの話だけど」を「between you and me」というのはご存知だと思うが、イギリスでは「between you and me and the gatepost」ともいうのだそうだ>。
「のだそうだ」という著者にしては遠慮がちの記述だが、研究社リーダーズ英和辞典でbetween を引けば、between you (and) me and the gatepostに「ここだけの話だが、内密に」の訳語が収録されている。それだけでなく、gatepostをlamppost、doorpost、bedpost、wallに置き換え可能であることを付記する。グーグルをかければ、fencepostが用いられこともあり、anything of post will doの記述まである。用例はイギリスだけでなくアメリカにもあることを窺わせる記事も確認できる。上手の手から水が漏れた感のある一節としたら言い過ぎか。
別に著者に他の翻訳者の誤訳をあげつらう意図はないのだろうが、紹介される誤訳の数々につい笑ってしまう。
例えば『アベラールとエロイーズ』という小説の主人公が「〈アベラール〉亭と〈エロイーズ〉亭」とレストランの名前になっていたり(p.99)、〝Dear me!〟という間投詞が「愛しい私!」になっていたり(p.150)。
「翻訳は言葉を訳すだけの作業ではない……外国語の〈表現〉を日本語の〈表現〉に置き換えること—つまり〈表現〉を訳すことが、翻訳という作業を行う際に一番大事なこと(p.10)」だと冒頭にあり、その意味は本書を通読すると分かってくる。奥が深い。
あと私は alogotransiphobia であることを知った。本(と付箋紙)を持たずに電車に乗れないのである。英語で自己紹介をすることがあったら使ってみたいもんだ。
残念ながら、私の英訳力が伴わず、半年くらいしか通えませんでしたが、先生のお陰でたくさん本を読むようになりました
本書は、先生のお顔を思いながら楽しく読み進める事が出来ます
翻訳は奥深く、大変な作業ですが、そこから得るものは大きいです
私が言うことではないですが_| ̄|○
おすすめの実際の本と共に翻訳にまつわるお話を、読者が自分で考えた訳文と照らし合わせながら楽しく読み進める事ができます
とてもおすすめです!
例文は数ワードから60ワードくらいまでと短く、類書でありがちな途中で挫折はないと思いますが、60ワードはかなりしんどいです。どれも気の利いた表現で、引用箇所だけ読んでもでも楽しめるでしょう。
しかし、著者だけではないのですが、原文の「隠喩」を読み取れずつまらない訳になっているものが実に多いのです。確かに翻訳は超難しいですが、そもそも読めておらず、文芸翻訳としては致命的です。ちゃんと読めばびっくりするほど情報が詰まっていること、極めて論理的にできていることがわかると思います。購入した方はご自分でお確かめください。
💛
> (※ヘミングウェイの掌編に)A Very Short Storyというのがあります。(中略)戦場で負傷した兵士と病院の看護婦との恋愛が皮肉な結末に至るのを描いた、ある種虚無的な恋愛小説です。その中に、
> She was cool and fresh in the hot night.
> という一説があります。Sheというのはヒロインの看護婦のことですが(略)
> この作品の比較的新しい訳(新潮文庫の高見浩さんの訳)をカンニングしてみました。すると、問題の部分は、
> 「暑い夜気の中で、彼女の肌はひんやりと清々しかった」
> と訳されていました。
> どうでしょう。完成した表現にやっとたどり着いたような気がしませんか?
freshは「flesh肉」とダジャレになっています。coolなfleshはゾンビ、日本語ならマグロを連想させます。看護婦は処女でマグロだったのですが、体はピチピチだったのです。「熱い夜に、彼女はツンと初々しかった」では流通に乗るとも思えません。マグロなのにね。
💛
このあいだ読んだ本です。
> He was sick of it when finally the thing went straight back and into the water. A trick to it.
> という一節があった。文中の彼はモーターボートを積んだトレーラー(原文ではthe thingと表現している)を運転している。そのボートを海まで運んできたあと、トレーラーをバックさせようとして、手こずっている。トレーラーを海に続く傾斜路に入れて、荷台に載せたボートを海に浮かべるのが彼の目的である。
> これは
> There is a trick to it. (それにはこつがある)
> という慣用表現の省略形なのである。
itはxvideosでおなじみit's comingです。トレーラーはつながっています。A trick to itは「『それ』の文学的仕掛け」です。
💛
平尾圭吾『ニューヨーク遊遊記』収録のアメリカンジョークです。
> What happened to her summer romance?
> She started looking for a fall guy.
> 「彼女の夏のロマンスはどうなった?」
> 「今、秋の男を捜しはじめたところさ」
> というわけだが、これではまだ意味不明である。fall guyは文字どおりには「秋の男」であるものの、実はアメリカの俗語で「だまされやすい人」の意味だという。つまり、カモですね。
> で、二つ目の英文は、「夏のロマンスが終わって秋の男を捜しはじめた」という表の意味と、「次のカモを捜しはじめた」という裏の意味とをかけた言葉遊びになっているわけである。
言葉遊びは事実ですが、まずwhat happened?に対しては事物が答えなので「彼女が夏の男にヤリ捨てられた」です。happenなので自分の意志で恋を終わらせたのではありません。またfor a fallという並びがありますが、fall forには「騙される」「恋に落ちる」という意味があります。秋もまたヤリ捨てられてしまうのです。
💛
> その「スポーツマン(sportsman)」という言葉をイギリスの某辞書で引くと、gracefulな人、という説明が出てくるという。このgracefulは「いさぎよい」という意味だと杉恵先生は書いている。
gracefulは「天寵を負った」です。
> a graceful apology
> apologyは「謝罪、弁明」だが、「優雅な謝罪」でいいか?「いさぎよい」を使うのはこういうときで、これは「いさぎよい謝罪」と訳さないと意味が通らない。
apologyはapo-logosで「言葉から離れる」という語源です。そこにgraceがあるのだから「誠心誠意の謝罪」です。いさぎよさは誠実さの一部です。
> 要するに、gracefulという形容詞は、形あるもの(人や花瓶や自動車)を形容する場合は「優雅な」の意味になることが多く、目に見えないもの(人の行動、性格など)を形容するときには「いさぎよい」になることもある。
gracefulの優美さは仏像をイメージすればよいです。人間なら誠実でないgracefulはありえません。
🐾
J.B.プリーストーリーのノンフィクションEnglish Journeyです。
> The are voluptuous, sybaritic, of doubtful morality.
> Theyというのは長距離バスのことで、この本が書かれた30年代には、鉄道以外の移動手段として、大型バスが庶民に浸透しはじめていたのである。そのバスに、voluptuous、sybaritic、of doubtful moralityという三つの形容句がついている。sybariticは「贅沢な」で、of doubtful moralityは「(道徳的に)あまり芳しくない」と解釈して差し支えないと思うが、問題はvoluptuousである。
> ジーニアス英和辞典でこの言葉を引くと、真っ先に「なまめかしい、色っぽい」という訳語が出てくるが、それでいいのか?
> 「こうしたバスは乗り心地がよく、贅沢で、道徳的にちょっとうしろめたい気がするものだ」
doubtful moralityはここでは「低俗性」というはっきりしたものです。長距離バスの中で売春がありました。1930年代の庶民向けのバスと道路事情を想像してみれば、著者の解釈はありえないとわかります。
💛
『ティファニーで朝食を』の冒頭です。
> I am always drawn back to places where I have lived, the houses and their neighborhoods. For instance, there is a brownstone in the East Seventies where, during the early years of the war, I had my first New York apartment.
> この文章をまず「英文解釈方式」で訳してみると、次のようになる。
> 「私はいつも、自分が住んできたさまざまな場所、住居やその近所に引き戻される。たとえば、戦争が始まったばかりのころ、何年か住んだ、ニューヨークにおける私の最初のアパートメント、東70丁目台のブラウンストーンの建物がある」
> それに対して、「流れにまかせる方式」だと、次のように訳すことができる。
> 「私がいつも引き戻される場所は、これまでに住んできたところ、そのときに暮らしていた建物やその界隈だ。たとえば、東70丁目台にブラウンストーンの建物があって、戦争が始まったばかりの数年間、そこをニューヨークで最初の住まいにしていた」
まず、draw backは「動作」です。かつて住んだ(生きた)場所は複数あるので、あちこちにdrawn backなのですが、これは状態を表わすI am alwaysとは形容矛盾であり、自分は今の場所では生きているとは言えず、現在と過去に引き裂かれた存在です。同様に、there is a brownstoneは、語り手の現在でも建物が存在することと、過去に引き戻されたので現在形になったことがかかっています。ニューヨークの高級アパートは人間が住める家賃ではないので、apartmentは「特定の人やグループのための広くて立派な部屋」です。未亡人がガードマンがわりに大邸宅の一室を貸したのです。日系二世のカメラマンも出てくるので、夫は真珠湾攻撃で戦死したのでしょう。
💛
> She felt compelled to glance over her shoulder.
> この文で書き手がいいたいのは、「振り返った」ことであり、「衝動に駆られた」ことではないからである。つまり、「彼女は衝動に駆られて肩越しに振り返った」あるいは「彼女は矢も楯もたまらず肩越しに振り返った」などと訳すべきである。
翻訳ミステリです。
> For a long time,
> when I picked up a new book in a shop,
> I would feel compelled to flip right to the end and read the last sentence.
> I was unable to control my curiosity.
> I don't know why I did this, except that I knew I could, and if I could, I had to.
> It's that old childish impulse…
> 「ずっと前から、本屋で新刊書を手に取ると、いてもたってもいられなくなって、ページをめくり、最後の一文を覗いていた。好奇心を抑えきれなかったのだ。なぜそんなことをしたか、自分でもわからないが、覗けるのはわかっていたし、覗けるのなら、何がなんでも覗いてみたかった。よくあるよね、そんな子供っぽい堪え性のなさ……」
時制に気をつけ、本屋で新しい本を手に取った、すぐページをめくって最後の文を読みたい衝動が起きたのだろう、好奇心を抑えきれなかった、どうしてそんなことをしたのか今でもわからない、とイキイキした流れです。feel compelled toで覗いてしまうと流れが死にます。ちなみに引用範囲には「覗いた」とは一言もなく、「万引きした」のかもしれません。bookは売春宿のパネルかもしれず、そのときはread/reed、the last sentenceは比喩になります。
🐾
文化人類学者ケイト・フォックスのWatching the English: The Hidden Rules of English Behaviourです。
> Humour is our 'default mode', if you like: we do not have to switch it on deliberately, and we cannot switch off.
> (こういってよければ、ユーモアはわれわれの<既定のモード>であって、わざわざスイッチを入れる必要はないし、そのスイッチを切ることもできない)
Humour「ユーモア/体液」は鉄板です。switchには「〇起する」「鞭で打つ」という意味があり、勝手に射〇してしまうのは債務不履行なのです。itはお〇ん〇んです。if you likeは「コロン以下が好きなら」です。作者は女性ですが、女王様も止められないようです。
💛
イギリスの小説です。
> There had been a time when he had thought his wife's stupidity a misfortune; now he knew that it was a vice.
> 文章の構築法として、misfortuneとviceを対応させているのは明らかなので、misfortuneが「自分にとっての不運」であるなら、viceは「自分にとってのvice」と解釈するのが妥当である。つまり、愚かな妻を持つことは、「自分の不運」だと思っていたが、実は「自分の悪徳だった」、といっていることになる。
fortuneは「運」つまり天や神様に属することで、ここでは「不運な行き違い」です。viceは「悪徳」つまり人に属することです。妻が愚かなのは不運な行き違いのせいだと思っていたが、よく考えたら妻が浮気をしていたのです。自分のviceに気づくには相当な離婚と再婚が必要です。
💛
> 先日、ある翻訳ミステリを読んでいたら、主人公の26歳の独身女性が、ロンドンの中心地に買い物に出かけ、昼食をとる場面が出てきた。1920年代のイギリスを舞台にした話で、独身で26歳といえば、世間的にはオールドミスとみなされかねない年齢である。
> … the refreshment rooms were so bustling that it was possible to order a pot of tea, then sneak out a home-made bun to have with it. That was a spinsterish thing to do …
> 「そういう場所(※美術館)のカフェはひとの出入りが激しいので、紅茶だけを注文して、家で焼いてきた菓子パンをこっそり取り出し、お茶を飲みながら食べることができる。いかにもオールドミスがやりそうなことだが…」
homemadeとhome-madeのニュアンスの違いがトピックですが、この文章の面白味は「大学出の行き遅れが金もないのにハイソぶる」ところです(国立美術館は無料です)。無論これは当時の女性が置かれた地位でもあり、いずれにしろあとで効いてくるはずです。
💛
ある小説です。
> One afternoon I walked down to the Lowther Arcade, then drearily existent, to effect my purchases.
> これではっきりした。この短編が書かれたとき(略)には(※the Lowther Arcadeは)もう取り壊されていたが、話の時点(1881年)ではexistent(現存)していたのである。
賑やかなラウザー・アーケードに行き、そこで買い物できるほどの金はなかったので、寂れた場所に行き、やっと買い物ができた(effect my purchases)のです。ラウザー・アーケードはおもちゃで有名だったそうです。切ない話なのです。
💛
> ある翻訳小説を読んでいたら、初老の語り手がガソリンスタンドに行って、こんな感想を漏らす場面があった。
> It had seven or eight pumps, offering a choice of regular, unleaded, or super-leaded. I can remember when what you got at a gas station was gas, and you didn't have to choose a flavor.
> ガソリンにはそぐわないflavor(味、風味、香り)をわざと使っているのだから、訳でも「味」を使って、
> 「そこには注油ポンプが七つも八つもならんでいて、レギュラー、無鉛、高鉛分の中から好きなものを選べるようになっていた。わたしが憶えている時代のガソリンスタンドはガソリンを入れに行くところで、お好みの味を訊かれるところではなかった」
> とすると、おもしろくならないか?
> ちなみに、super-leadedというのはsuper-unleaded(無鉛ハイオク)の誤植かもしれないが、わざとそう書いている可能性もあるので、そのまま「高鉛分」としておく。
給油ノズルを思い浮かべればわかります。regular=leadedです。
🐾
> このあいだ読んだ翻訳ミステリは、大学内で殺人事件が起こり、教授や講師が容疑者になる話だった。その中の一人、文学部の女性教授が、犯人に心当たりはないか、と訊かれて、こんな返事をする。
> 「(学者はみんな自分の研究が忙しくて、他人のことなどかまっていられないという発言のあと)たとえばわたしだってそう。中世文学が専門のわたしには、アベラールの削除部分の研究のほうが殺人事件よりよっぽど気になるの」
> 「アベラール」には「中性フランスのスコラ哲学者」という訳注がついていて、『アベラールとエロイーズ』(岩波文庫)のアベラールか、とわかった。
> 上の訳文にある「アベラールの削除部分の研究」の原文は、The Castration of Abelard。Castrationにはもちろん「削除訂正」という意味もあるが、第一義的には「去勢」のこと。
> (略)これは発言者の性格(学者とはいえ、男女のことに興味津々)を表わす会話なので、おろそかにはできない。
これは「去勢」と「検閲」をかけています。学者である自分には殺人より検閲のほうが重大事件だと言っています。
💛
小説です。
> I'm glued to the floor every time the girl downstairs sneaks in her gentleman friend. It's as good as a Marie Stopes lecture.
> 女流画家が住む安アパートの下の部屋に売春まがいのことをしている女性が住んでいて、その女性が客を連れこむたびに、画家は床に耳をつけて盗み聞きをしている、という箇所で、訳本では次のように訳されていた。
> 「ここの真下の部屋の女が、"紳士"のお友達を連れ込む時はいつも、床にへばりついて聞き耳をたててるわよ。マリー・ストープスの性教育の講義と同じくらい、聞きごたえがあるわ」
> (略)残念ながらマリー・ストープスは性教育の先生ではなく、1920年代のイギリスで労働者階級の「避妊」の重要性を訴えた社会活動家で、「マリー・ストープスの産児制限の講演会」と訳さないと、おもしろさが伝わってこない。
床は人や家具を支えるため十分に厚く、耳をつけたところで下の部屋の物音は聞こえません。gentlemanは買春などしません。マリー・ストープスは著名な古植物学者でもあります。つまり主人公は植物の化石のような(=触れもしない)二人を非常に好ましく思っており、それでも世間体は悪いから、気づかれないよう上の階から降りてこないのです。
💛
翻訳小説です。
> 「彼」というのは画家、自分のstudio(アトリエ)で、「Evans(エヴァンズ)」という悪友と一緒に、ある悪ふざけを企んでいる。遊びのつもりだが、ばれたら各方面に迷惑をかけることになるので、かなりナーバスになっている、という状況である。原文は次のとおり。
> He looked at Evans for reassurance. He would have rushed from the studio and signed on with the first freighter he bumped into, had he not believed it his duty to stand by and take the blame when it should descend on them. The light of early evening seemed to him to be brighter and clearer than it had been at noon.
> 「彼は心がくじけないように、エヴァンズに目をやった。そうでもしなければ、このアトリエから逃げ出し、最初に行き当たった貨物船に飛び乗って、その乗組員になっていただろう。だが彼は、万が一しくじったときには、この場に踏みとどまり、全責任を引き受けるのが自分の義務であると心得ていた」
> しかし、夕暮れが真昼より明るいはずはないので、これは現実の光景ではなく、何か別のものの表現であると考えることができる。
> そこで、辞書でlightを見ると、「精神的な光明、啓蒙の光、啓発;真理」(ランダムハウス)という意味が出ている。聖書だな、と見当をつけて調べてみると(略)
宗教的だという指摘は正しいです。Evansという名前の由来はEvangelos福音です。ここは非常に難しく、正しい構文はこうです。
He would have
rushed from the studio
and signed on with the first freighter he bumped into,
had he
not believed
it
his duty to stand by and take the blame
when it should descend on them.
freightは「荷を積む」ですが、より一般に「(意味や責任を)担わせる」という意味があります。the first freighter he bumped intoは限定的用法なので、「最初に行き当たった貨物船に飛び乗って」は間違いで、選んでスルーはありえます。[He would have] had heは「彼は(一人称の)神/自分を得たに違いない」です。[He would have] not believedは「彼は信じていなかったに違いない」です。itは宗教的な啓示です。itが神/自分の義務、すなわち好機に備え責任を負うことだと信じていなかったのですが、単にまだ知らなかっただけです。when節のshouldはshallの過去形です。themはここからはわかりません。宗教的な話だからshallですが、啓示を受けたときにはすでに行動は完了しているということです。「ブッ殺す」と心の中で思ったならッ!その時スデに行動は終わっているんだッ!freighter/brighterだからclearerは陽光だけでなく彼の心境でもあります。 it had been at noonのitはthe lightを受けているので、啓示は光のようなものだとわかります。
💛
> (※グレアム・)グリーン先生は、ハリス編集長に嫌がらせのプレゼントをする。原文では、次のように書かれている。
> Greene presented Harris with a gift to mark the occasion: a rubber [condom] stuffed with smarties.
> ちなみに、rubberのあとに[condom]と説明が入っているのは、イギリス英語でrubberといえば「消しゴム」のことなので、ここではコンドームの意味ですよ、という原著者の注釈。(中略)子供っぽいお祝いのアイテムを、わざわざコンドームに詰めて嫌がらせをしたのである。
原著者なら最初からcondomと書けばいいのです。rubは擦るですが、ゴムはスマーティ(マーブルチョコレート)が入って凸凹しているので、お尻に入れて気持ちEなのです。お口で溶けて尻で溶けないのです。rub/loveで、お尻の処女もrob奪います。mark the occasionは「必需品(古語)を選び出す」です。王様が治めるのがkingdomで、仏語conneが治めるのがconne-domなのです。
💛
翻訳小説です。
> He stood, hesitating, at the gate to the shallow front garden. He knew that his friend's room was the one on the ground floor, on the left-hand side. He remembered that, because his friend has made a joke of the fact that his landlady called his room 'front bottom'; he said it was like something one's nurse would say.
> front bottomは、たいがいの英和辞典に載っているとおり、「女性器」のこと。俗語・幼児語であり、逐語訳は「前のお尻」。男の子なら「おちんちん」だが、その女の子版である。
> 大家さんはそう解釈されるとは思わず、建物の「正面の下」にある部屋のことをfront bottomと呼び、それを彼の友人が冗談に仕立てたわけだ。
友だちの部屋は「一階の左側」だから「正面の下」ではありません。現在時制にするとわかりやすいですが、itのときにナースメイド(子供と外で遊ぶ10代の女の子)がwill say何か言うわけですが、これがfront bottomと似ているのです。a joke of the factは「冗談みたいな事実」です。大家さんは若い未亡人でone's nurseと喩えられ、友だちの部屋でヤリ、そこをfront bottomと呼んでいますが、その手前のthe shallow front gardenはシモーノ・ケ・ボーヴォアールではないのです。the gate to ~以外に正門がある大邸宅で、使用人がいるのでfront bottomに行かないとヤレません。主人公もこれから未亡人とヤルのですが、童貞なので部屋に入るのを躊躇していた、ないしroom膣の場所がわからなかったのです。
💛
最近読んだ本です。
> その本には、「ほっぺたをふくらませ、目をぱちぱちとしばたたかせる」のが癖になっている男が出てくるのだが、語り手は、なぜそんなふうになったのだろうと考えて、次のような冗談をいう。
> A psychiatrist would probably have said that it was due to some accident while he was out with his nurse.
> 「精神科医なら、子守とお出かけしているときに何かあったのだ、と結論づけていたかもしれない」
> という訳が考えられるだろう(「be out with~」は「~と外出する」と解釈した)。精神科医は、なんでもかんでも幼児期のトラウマのせいにする、という冗談でしょうね。
子供と外出するのはナースメイドです。probablyはproveと語源が同じで「論理的にありそう」です(perhapsはper-hapsで「運命的にありそう」)。accidentは偶然やチャンスによるものです。probablyは語り手の論理的な推測と、精神科医がaccidentをさも論理的に語ることの形容を兼ねており、二重の面白味になっています(perhapsだと大して面白くありません)。またitはsome accidentとボカしたアウトなおねショタを確定します。
💛
名作古典ミステリです。
> 登場人物の一人である活発な若い女性が、知り合いの中年男について語っている箇所である。
> He is bald-headed and fastidious … I don't mean he's old-womanish; he's what the men call a good fellow, and he's clever as sin. Bah! Why won't they do something with themselves!
新訳が意味不明だといって著者が訳し直しました。これもお〇ん〇んの話なので意味をつかみにくいのは事実です。
💛
> 主人公の若い女性がボーイフレンドに処女を捧げようとする場面だが(そう、小説版The Spy Who Loved Meは異色作で、女性の一人称で書かれているソフトポルノなのです)、二人が道路わきに駐めておいた自動車に戻ると、警官が駐車違反の取り締まりをしている。そこで、先に車に戻って女主人公を待っていたボーイフレンドが、前述の言い訳をする。
> I said urgently, "Oh, but I can't, Derek! I simply can't! You've no idea how awful I feel about what happened."
> "Oh, that!" his voice was contemptuous. "We got away with it, didn't we? Come on. Be a sport!"
> I said weakly. "Oh, well…"
> "That's my girl!"
> 最初に引用した箇所のすぐあとのところから、会話だけを取り出してみた。警官をうまく追い払い、いよいよボーイフレンドが事に及ぼうとする場面。「私」は警官と会って動揺しているが、そんな「私」を彼はなだめて、その気にさせようとしている。
> Be a aport!
> というのもイギリスっぽいいい方で、本来は「スポーツマンらしくやれ」ということだろうが、a sportには「話のわかる人」という意味もあり、「かたいこというなよ」とか「いい子になれよ」とか「空気読めよ」とか、状況に応じていろいろな訳し方をしなければならない。
> 私は実際に切迫している、つまり、あせっているのです。そこで、urgentlyは「~のように」ではなく、「切迫した、あせった」と訳さなければならない。
> weaklyも同様で、「弱々しく」ではなく、本当に力が抜けて、弱々しい声が出ているのだ。
> 私はあせった。「でも、無理よ、デレク!ほんとに無理!あなたにはわからないでしょうけど、さっきあんなことがあったから、今でも胸がばくばくしているの」
> 「なんだ、あれか!」軽蔑しているような声だった。「でも、うまく逃げられたじゃないか、そうだろう?ほら。かたいこといわずに!」
> 体の中から力が抜けていった。「ええ、それなら……」
> 「そうこなくっちゃ」
simplyにcan't/cuntです。urgentlyは「うるさくせがんで」。彼氏がcontemptuousなのはcuntを連発したからです。We got away with itは「俺たちはitを持ち逃げた」で、盛り上がったところを警官に邪魔されたが、萎えてはいないという意味です。what happendはit、awfulは「すごい」です。Be a sportはmake a sexual playです。グイグイくるので淑やかになったのですが、彼氏は淑やかなのにエロいのが好きなので、「いやん…」「さすが俺の女だ」です。このように一人称女子のsaidにはウソがあるので、ちゃんと「言った」と訳す必要があります。男子はド直(竿)球なのです。
💛
> このあいだ読んだ翻訳ミステリには、
> 「彼はテリアのようなしつこさで事件を追い、事件を噛みちぎって、隠された動機や死体を見つけだした」
> という一節が出てきた。「テリア」はキツネ狩りの猟犬なので、獲物を「噛みちぎる」のは理解できるが、「見つけだす」という訳語とはうまくつながっていない。ちなみに、原文で「噛みちぎる」に相当するのはtear open(ちぎって開く)で、「見つけだす」のほうはspill out(こぼす、さらけだす)である。
> 「彼はテリアのようなしつこさで事件を追い、事件の腹を食い破って、隠された動機や死体を引きずり出した」
テリアはアナグマなどの害獣退治が仕事です。原文は推測ですが
Insistently like a terrier he chased the case, tore open it, spilled out the hidden mind and the dead body.
かと思います。誰かわからないのは残念ですが、この水準の作家なら間違いなくhidden mind/dead bodyを対比させます。「犠牲者の」心は死なないのです。また彼の体は疲れ果てても不屈の闘志と思いやりが隠れているのです。犬なので。tear涙とspill outがかかっています。錠前師ではなくケースをこじ開けます。どれも苦痛や困難や地道さを想像させます。
彼はテリアのごとき執念で追った。苦闘が事件の洞を明かし、隠れた心と死んだ体を晒した。
tearから「苦闘」、テリアから「洞」を補い、open itを涙-目の連想で「明かし」としただけです。知られたくない秘密を暴くようなニュアンスや、セ〇クスの隠喩も維持できました。三毛別のヒグマよりはいいと思います。
🐾
> 別の小説には、次のような比喩が出てきた。生まれつき顎が大きい異相の人物を紹介する一文である。
> Some anomalous gene had fired up at the moment of his begetting as a single spark sometimes leaps from banked coals, had given him a giant's chin.
> 「彼の生命が宿されたとき、灰に埋められた石炭がときおり一筋の光を出すように、何か変則的な遺伝子に火がついて、巨人のアゴができてしまったのだ」となる。「隠れた遺伝子」を「灰に埋もれた火」にたとえているのである。
灰に埋めたら酸素がないから火は消えます。積んだ石炭は自然発火することがあり、事故につながります。遺伝子の変異も石炭も積み重ねることで発火するという比喩です。積み重なった変異が表現型(見た目)の断絶的な違いをもたらすことをleapsとかけています。begetは聖書で使われる言葉で、his begettingは「he神が巨人を作った」という意味にもなります。
積み重なった石炭からときおり一閃があるように、何ごとか尋常でない遺伝子が、彼が命を宿すときに光を放ち、巨人の顎(あぎと)を与えたもうた。
ウルトラマンぽいです。理解していれば火にこだわる必要はありません。またこれは経験の蓄積が教養となり、ときどき「itひらめき」があることの隠喩にもなっています。隠喩が理解できるのはまさにこれです。
💛
2010年に発表されたイギリスの小説です。
> As he began to cross the room a floorboard creaked and she looked up. Their eyes met, but only for a second because her hands flew up to her face and covered it as she twisted away. He said her name and she shook her head.
> すでにある翻訳を見ても、(中略)「彼」が二つ、「彼女」が四つ使われている。
> 「彼が部屋の奥に進みはじめると、一枚の床板がきしみを上げ、彼女は顔を上げた。目と目が合ったが、それはほんの一瞬のことで、上に向かって両手が素早く動き、顔を隠したまま、彼女はそっぽを向いた。名前を呼んでみたら、首を横に振った」
> となり、既訳と比べて「彼」も「彼女」も半減した。
起:(女が一人で泣いている)
承:As he began to cross the room a floorboard creaked
転:and she looked up.
結:Their eyes met, but only for a second
起:because her hands flew up to her face and covered it as she twisted away.
承:He said her name
転:and she shook her head.
結:(男女が合う)
lookedとshookがかかっています(upするのはheadです)。「結」はThey metでしょう。itは涙で女は隠すが、男はmetして美しい女の「それ」を知るのです。roomを膣の隠喩とすると違った解釈になりますが、They(〇子と〇子) metは変わりません。よくできています。なんにせよ訳から「彼」「彼女」を減らすとそのぶん手掛かりが失われます。
💛
ハンフリー・カーペンターが書いた作曲家ベンジャミン・ブリテンの伝記です。
> Benjamin Britten's mother was 'determined that he should be a great musician.' recalls his childhood friend Basil Reeve. 'Quite often we would talk about 3 B's … Bach, Beethoven and Brahms, and the fourth was Britten.'
> 「ベンジャミン・ブリテンの母親は、『息子を絶対に音楽家にすると決めていた』と、ブリテンの子供時代の友人、バジル・リーヴは回想する。『よく一緒に話したのは、3Bと呼ばれる作曲家――バッハ、ベートーヴェン、ブラームスのことだった。四番目がブリテンだ』」
偉大な音楽家はhe神様がbe生むものです。determinedも人間ではなく神様が決めたことです。fourth/forthで辞書順もまた運命ですが、幼馴染は何度も聞かされて閉口していました。
ベンジャミン・ブリテンの母親は「彼の運命は偉大な音楽家だと信じていました」と、幼馴染のバジル・リーヴは回想する。「よく3Bの話になったものです。バッハ(Bach)、ベートーベン(Beethoven)、ブラームス(Brahms)、なら4番目はブリテン(Britten)だわって」
he/バッハ(音楽の父)、should be/ベートーベン(運命)、a great musician/ブラームスに対応させました。熊嵐よりいいと思います。
🐾
エリザベス・ボウエンのThe Heat of the Dayです。
> That Sunday, from six o'clock in the evening, it was a Viennese orchestra that played. The season was late for an outdoor concert; already leaves were drifting on to the grass stage―here and there one turned over, crepitating as though in the act of dying, and during the music some more fell.
> 「その日曜日、夕方の六時から演奏したのは、ウィーンのとある管弦楽団だった。野外音楽界には遅い季節で、すでに芝生のステージに木の葉が舞い落ちていた――あちらこちらで木の葉がかさこそ音をたて、まるで死ぎわの仕草のようだったが、音楽のあいだにもさらに落ちていた」
> 悩んだすえにこう訳してみたが、orchestraという簡単な言葉にしても、「オーケストラ」「楽団」「管弦楽団」と複数の候補の中から選ばないといけないし、during the musicも「音楽のあいだ」にするか「演奏中」にするかで迷うことになる。とにかく、晩夏か初秋の野外コンサートの空気感が行間から漂ってくるように訳さないと小説を訳したことにはならない。
> うまく訳せなかったのは、crepitatingという単語。オックスフォード英語辞典によれば「To make a cracklin sound」という意味らしいので、「かさこそ音をたて」と訳したが、医学用語では「捻髪音(肺を聴診したときに聞こえる異常な呼吸音)」だそうで、この「ほのめかし」は作者が意図したものだろう。つまり、この言葉から、病気や死のイメージが喚起され、the act of dyingにつながる。
1948年の作品で、第二次世界大戦のロンドン大空襲下の公園が舞台です。小説はしばしば戦争を隠喩でのみ描いていますが、価値の本体です。寒いイギリスでも晩夏や初秋に落葉はないと思いますが、まあそれはいいです。ナチスから逃れて疲弊の極みですが素晴らしい演奏でした。it~that構文と関係代名詞の両方に解釈できますが、playedは「煌めいた」と掛かっており、itはそのキラキラしたものです。落ち葉は観客の隠喩にもなっており、最後は「死を看取るかのごとくすすり泣きながら、あちこちで人が心を揺さぶられていた。音楽のさなかに涙までも落ちた」です。落ち葉はまた空襲の隠喩でもあり、「死に臨み息も絶え絶えに、あちこちで人が倒れていた。音楽のさなかにさらに爆弾が落ちた」です。The season was late for an outdoor concertは夜に屋外で演奏すると敵機に見つかるということでもあり、決死の葬儀だったのです。ジョンブル魂を直に描くのはダサいのです。
💛
> たとえば、最近読んだある翻訳小説に出てきた次の描写がそうだ。一人称の語り手(男)が隣人の家族について語っているところで、「ソフィア」はその家の主婦であり、二人の男の子の母でもある。
> They have two sons. One of them, very clever, is serving out the last of his stretch at a school called Wellington; Sophia does not mind having a son at school―although she manages to give the impression that he is at prep school―but she is a little cross at the existance of the older son who is what is called grown-up.
> 大事なのは、語り手が学校を刑務所に見立ててserving out(服役する)やstretch(刑期)という言葉を使っているところ。それも含めてわかりやすく訳せば次のようになるだろう。
> 「一家には息子がふたりいる。ひとりはとても頭がよくて、ウェリントンとかいうところで刑期の最後の一年を務めている。そんな高校生の息子がいてもソフィアは気にしていないが――ただし、人にはまだ小学生だと思わせている――上の子にはちょっと腹が立っている。もう成人しているから、ごまかしようがないのだ」
> このソフィアさん、自分を若く見せたい(成人した子供がいるとは思われたくない)中年の主婦なのである。
賢い弟がいるのは英国のウェリントンカレッジではなく、シドニーのWellington Correctional Centreです。犯罪のエリートには刑務所など小学校の義務教育にすぎないと言っています。兄はチンピラで、「立派なワル」だと言っているのはソフィアだけですが、crossは「どっちつかずのもの」で、チンピラはどうにもならないのです。
💛
> たとえば、19世紀のロンドンを舞台にしたある歴史ミステリに、こんな一節が出てきた。
> It was not the best position on the bus, but it was preferable to the knifeboard upstairs. Common courtesy threatened to deprive him of his seat before long; there was sure to be some shopgirl late for work waving the driver down in Kew or Turnham Green. But he had privately resolved to see the small boy sitting on his mother's lap first.
> 状況を説明すれば、「彼」は警官で、運よく普通の座席に座ることができてほっとしているが、空席はなく、隣では行儀の悪い幼い男の子が席を一つ占領している、という場面である。
> 最後のセンテンスのhe had privately resolved to see ~だが、このseeは「見る」ではなく、「~すればよいと思う。~になるのを望ましいと思う」(リーダーズ)のseeだろう。
> 「乗合馬車の中の一番いい席ではなかったが、屋根席よりはましだった。ほどなく、礼儀上その席を譲ることになりそうな懸念が生じた。仕事に遅刻しそうなどこかの女店員が、御者に手を振って、キュウやターナム・グリーンから乗り込んでくるに違いないからである。だが彼は、あの男の子がまず母親の膝に乗るべきだと密かに断じていた」
最後の文は「彼はまず男の子を母親の膝に乗せようと決めた」です。警官なので他の客を立たせるわけにはいかないが、行儀の悪さは指導できるのに、思うだけのシャイなところが面白味です。警官が乗合馬車に乗るのは勤務時間外、つまり早朝か夕方です。同じ早朝に乗った店員が遅刻のはずはないから夕方で、some shopgirl late for workは商売女です。警官だから商売女は時間にルーズだとよく知っているのです。
文章は非常に明確で分かりやすく、すんなり頭に入っていき、とても読みやすかっです。
本の中で、翻訳作業中に作者が実際に使用している英和辞典、参考書、イギリスの文化を理解する上で参考になる本など多く紹介されおり、非常に参考になりました。
内容は、購入前に思っていたことは違いましたが、読み終えてみると、この本を通して学んだ事が多く、非常に満足しています。
作中に翻訳家の心得も書いてあるので、これから翻訳家を目指す方には一度読まれることをお勧めします。
ただ一つ引っかかったのは、「あとから知ったが~を使う人はだいたいホモセクシャルであるらしい」「だから、おねえ言葉で訳さなければならなかった」という部分。
その登場人物が女性のような(おカマのような)仕草であることが文中で記されているならおねえ言葉は非常に適切な翻訳となるでしょうが、そうでなければホモセクシャル=おねえ言葉というのはあまりに短絡的で無知ではないでしょうか。章の終わりのちょっとした文章ですし、ほとんど冗談のようなエピソードとして取り上げているのだと思いますが…。
英語圏の文化に詳しく、ブロークバック・マウンテンにも触れている筆者がそのような偏見を抱いていることは非常に残念です。