本書は
法学者(憲法学・公法学)の
長谷部恭男(はせべ・やすお)氏
(1956-)と
歴史学者(ドイツ近現代史)の
石田勇治(いしだ・ゆうじ)氏
(1957-)による
対談です。
本書の中心は
ワイマール憲法 第48条
【大統領による非常時の緊急措置権】
に基づく
【大統領緊急令】
と
自民党「日本国憲法改正草案」
(2012.4.27決定)における
【緊急事態条項】
の比較・検討であり
類似性と危険性の指摘です。
私は政治や法学の専門家でもなければ
歴史の専門家でもありません。
精神科医フランクル(1905-1997)の
『夜と霧』(みすず書房)
を読んで
ホロコーストに関心をもつようになり
ドイツ第三帝国に関する本を少しく読みました。
歴史上もっとも民主主義的と言われた
ワイマール憲法から
ヒトラーのような独裁者が生まれた
過程を知りたくて
本書を手に取りました。
さらに本書について
少なからぬレヴューが
早々にUpされていますが
プロ/コントラいずれにしても
「Amazonによる購入者」がいない
という稀有な現象を呈しています。
そこでAmazon Customerとして
レヴューを書くことにしました。
結論から申し上げると
1933年1月30日
首相となったヒトラーが
独裁体制を確立するまでの過程
(ドイツ語でMachtergreifung
「(権力)乗っ取り」の意)は
一見
「合法性の装いをとりつくろってはいる」けれど
よく見ると
「完全に合法とは言えない」
もっとよく見ると
「全く合法的ではない」
ということが
本書で詳しく語られています。
例えば
授権法(全権委任法)は
1933年3月23日
国会で成立しました。
これが成立するためには
①国会議員の3分の2以上が出席し
②出席者の3分の2以上が賛成
‥‥が必要です。
ナチ党+国家人民党(連立与党)で
過半数には達していますが
3分の2には届いていません。
本来なら超えられないハードルです。
そこでヒトラーはまず
同年2月27日に起こった
国会議事堂炎上事件を利用します。
翌日、出された
「国民と国家を防衛するための大統領緊急令」
(いわゆる「議事堂炎上令」)によって
共産党の国会議員81人全員の身柄を一斉に拘束。
前もって出席者の母数を減らします。
加えて
社会民主党の国会議員120人のうち
26人が欠席を余儀なくされました。
さらに採決当日
議会運営規則を変更(過半数の賛成で可)し
「議長の認めない理由で欠席する議員は
『出席』とみなす」
としました。
その議長たるや
後の「帝国元帥」(Reichsmarschall)
あの
ヘルマン・ゲーリング(1893-1946)
です。
議場正面にはナチ党党旗(鍵十字)が掲げられ
議場内では武装したSA(突撃隊)隊員たちが
議員を威嚇していました。
こうして
法案の反対者数を減らしつつ
国会の成立要件は確保するという
「悪魔の算術」によって
条件①と②をクリアし
授権法は成立しました。
国会議員総数647。
出席者数538。
賛成票数444。
反対票数94。
反対は
出席した社会民主党員全員のみでした。
後に弾圧される運命になります。
大統領ヒンデンブルグ(1847ー1934)は
まだ生きていましたが
この授権法の成立をもって
ドイツ第三帝国(いわゆるナチスドイツ)
の事実上の成立とみなすことができます。
ナチ党機関紙もそう書きました。
(因みに「ナチ」「ナチス(複数形)」は
「ゾチ」に対抗して作られた蔑称で
法的にはナチ党はNSDAPです)
(第一帝国=神聖ローマ帝国
第二帝国=プロイセン
とみなしたときの第三帝国です)
この授権法には
「政府が制定する法律は
憲法に違反してもよい」
という規定がありました。
それに基づいて
ナチ党のスローガンが
次々と法律化されていきます。
一連の「ナチ法」です。
「ユダヤ人を公務員から追放する法律」
「特定遺伝病の患者を強制断種させる法律」
などです。
後に起こるホロコーストが
ここに芽生えているのが分かります。
なお本書によると
最新の研究で
国会議事堂炎上事件そのものが
ベルリンのSA(突撃隊)の一派が引き起こし
共産主義者ルッベは犯人にしたてあげられただけ
であることが明らかになってきたそうです。
(ヒトラーの自作自演だとする主張は
当時からありましたが
証拠は隠蔽され真相不明でした)
このように
ヒトラーによる
独裁体制確立(授権法成立)は
暴力的であったとは言えるが
とても合法的とは言えないことが
本書を読むと理解できます。
もし
ナチスの「手口」だけを
踏襲(「ふしゅう」にあらず)して
反省することがないのであれば
600万とも700万とも言われる
ユダヤ人
シンティ・ロマをはじめとする少数民族
アーリア人の心身障碍者(T4計画)の方々の
怨念・ルサンチマンに
思いをいたすとき
そのことが自体が人間にとって
未曾有(「みぞうゆう」にあらず)の
不幸なのではないかと考えてしまいます。
またヒトラーが利用した
「3つの道具」を端的に指摘したのは
本書が初めてではないかと思います。
つまり
①大統領「緊急令」
②私設軍隊 つまり
SA(突撃隊 Sturmabteilung)と
SS(親衛隊 Schutzstaffel)
③大衆宣伝組織(プロパガンダ)
‥の3つです。
暴力(Gewalt)を背景に
怒涛のようなプロパガンダのもと
頻繁(「はんざつ」にあらず)に
乱発される「緊急令」が
いかに強力であったのか
想像を超えているように感じます。
簡単にまとめると
①ワイマール憲法は第48条で
大統領による
「非常時の緊急措置権」を定めていた。
②それに基づいて
大統領「緊急令」を出すことができた。
③特に
国会議事堂炎上事件の翌日に出された
大統領緊急令は
「議事堂炎上令」と呼ばれる。
④議事堂炎上令を最大限に利用して
「授権法(全権委任法)」を成立させた。
⑤授権法によって
一連のナチ法を成立させた。
⑥また授権法によって
ワイマール憲法を無力化・形骸化・死文化させた。
⑦結局
危機に対応するための「委任独裁」である
「緊急令」が
ヒトラーの「主権独裁」にすりかわっていた。
‥‥という時系列になります。
年表のように書きますと
①1933年1月30日 ヒトラーが首相となる。
②1933年3月23日 授権法(全権委任法)成立。
③1933年7月14日 ナチ党以外の政党禁止。
④1934年8月2日 ヒンデンブルグが死亡。
ヒトラーが総統(=首相+大統領)となる。
‥‥本書指摘の通り
①→② = 50日
①→③ = 半年
①→④ = 1年半
です。
まさに
「ある日、気がついたら
ワイマール憲法が
ナチ憲法になっていた」
というスピードです
もっと端的に申すならば
「ある日、気がついたら
ヒトラーが歩く憲法になっていた」
のが実態に近いかもしれません。
上記のように
本書は第1章で
ヒトラーが政権をとり独裁体制を築く
までの歴史を語ります。
第2章以下は次の通りです。
第2章 なぜナチズムは支持を得たのか。
(1章と2章で戦前を振り返ります)
第3章 戦後のドイツで
「緊急事態条項」はどう扱われたのか。
第4章 現在、各国で
「緊急事態条項」はどうなっているのか。
ドイツのほか、フランス、アメリカ
そして日本の
自民党「憲法改正草案」を検討します。
第5章 ドイツが「負の遺産」を乗り越えて
現在の民主主義を確立した歴史を振り返ります。
本書は対談という形式ですが
決して平易な内容ではないと思います。
時間的(歴史的)にも
空間的(地理的)にも
膨大な内容を対象としています。
第1章だけでも1冊の本となる内容です。
加えて
法学や歴史学のロジックやパラダイムに
慣れているほうが読みやすいようです。
一般書というよりは
専門書に近い本に感じました。
本書から
「歴史を反省して歴史から学ぶ」
という姿勢を
読み取っていただけると
いいのではないかと思います。
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ナチスの「手口」と緊急事態条項 (集英社新書) 新書 – 2017/8/19
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自民党が狙う緊急事態条項の正体!
ここからナチ独裁は始まった!
自民党が、ながらく憲法に加えることを狙ってきた緊急事態条項。災害・テロ発生時への対策だというのが表向きの説明だ。しかし、首相に権限を集中させ、国民の権利を制限するこの条項に別の意図はないのか。
じつはヒトラー独裁の始まりは、ワイマール憲法に書かれた同様の条項だった。
憲法学界の重鎮が、ナチ・ドイツ研究の最先端をいく歴史家とこの条項の危うさを徹底的に解明する。
[著者情報]
長谷部恭男(はせべ やすお)
早稲田大学法学学術院教授。東京大学法学部教授等を経て、二〇一四年より現職。日本公法学会理事長。全国憲法研究会代表。主な著書に『憲法とは何か』(岩波新書)、『憲法の論理』(有斐閣)など。
石田勇治(いしだ ゆうじ)
東京大学大学院総合文化研究科教授。専門はドイツ近現代史。マールブルク大学Ph.D.取得。ベルリン工科大学客員研究員、ハレ大学客員教授を歴任。 主な著書に『ヒトラーとナチ・ドイツ 』(講談社現代新書)など。
ここからナチ独裁は始まった!
自民党が、ながらく憲法に加えることを狙ってきた緊急事態条項。災害・テロ発生時への対策だというのが表向きの説明だ。しかし、首相に権限を集中させ、国民の権利を制限するこの条項に別の意図はないのか。
じつはヒトラー独裁の始まりは、ワイマール憲法に書かれた同様の条項だった。
憲法学界の重鎮が、ナチ・ドイツ研究の最先端をいく歴史家とこの条項の危うさを徹底的に解明する。
[著者情報]
長谷部恭男(はせべ やすお)
早稲田大学法学学術院教授。東京大学法学部教授等を経て、二〇一四年より現職。日本公法学会理事長。全国憲法研究会代表。主な著書に『憲法とは何か』(岩波新書)、『憲法の論理』(有斐閣)など。
石田勇治(いしだ ゆうじ)
東京大学大学院総合文化研究科教授。専門はドイツ近現代史。マールブルク大学Ph.D.取得。ベルリン工科大学客員研究員、ハレ大学客員教授を歴任。 主な著書に『ヒトラーとナチ・ドイツ 』(講談社現代新書)など。
- 本の長さ256ページ
- 言語日本語
- 出版社集英社
- 発売日2017/8/19
- 寸法10.6 x 1.3 x 17.3 cm
- ISBN-104087208966
- ISBN-13978-4087208962
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商品の説明
著者について
長谷部 恭男(はせべ やすお):早稲田大学法学学術院教授。東京大学法学部教授等を経て、2014年より現職。日本公法学会理事長。全国憲法研究会代表。主な著書に『憲法とは何か』(岩波新書)『憲法の論理』(有斐閣)など。
石田 勇治(いしだ ゆうじ):東京大学大学院総合文化研究科教授。専門はドイツ近現代史。マールブルク大学Ph.D.取得。ベルリン工科大学客員研究員、ハレ大学客員教授を歴任。主な著書に『ヒトラーとナチ・ドイツ 』(講談社現代新書)など。
石田 勇治(いしだ ゆうじ):東京大学大学院総合文化研究科教授。専門はドイツ近現代史。マールブルク大学Ph.D.取得。ベルリン工科大学客員研究員、ハレ大学客員教授を歴任。主な著書に『ヒトラーとナチ・ドイツ 』(講談社現代新書)など。
著者について
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1956年生まれ。1979年東京大学法学部卒業。学習院大学法学部助教授・同教授等を経て、1995年より現職。現在、東京大学大学院法学政治学研究科教授。専攻、憲法学
(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『ケースブック憲法 第4版 (ISBN-10: 4335305095)』が刊行された当時に掲載されていたものです)
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2017年10月1日に日本でレビュー済み
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2023年8月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ナチスが如何に合法的に独裁体制を作り上げたのか、その手口を
知ることは、本当の意味で大切なことだと思います。
憲法学者とドイツ近現代史学者のタッグは実に上手い組み合わせ
だったと思います。緊急事態条項の危険性を充分理解できました。
絶対に認めてはいけないことだと思います。
知ることは、本当の意味で大切なことだと思います。
憲法学者とドイツ近現代史学者のタッグは実に上手い組み合わせ
だったと思います。緊急事態条項の危険性を充分理解できました。
絶対に認めてはいけないことだと思います。
2023年7月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
読んで知って良かったと思います。
2022年9月27日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
タイトルの「手口」?という言葉から、ちょっとエキセントリックな論調だろうか??と身構えて読み始めましたが、それは杞憂で、終始冷静な視点を感じられる書籍でした。
その場で口頭で話すことは、どうしてもざっくりしてしまいがちだというのはよくわかるので
淡々と受け止めますが、日本の(2022年9月時点で)副総理の「(ヒトラーの)手口をまねしたらどうか」の発言を切り口に、過去の事実を照らし合わせて、どこが説明不足なのか、どう理解するのが現実に即しているかの、わかりやすい説明があり、大変納得できました。
本書の前半は、緊急時に対応するような憲法や法律が制定されたことのある
ドイツ、フランス、アメリカといった各国の事情について、歴史的にどのようなことが起き
今に至るのか、緊急事態条項の乱用、失敗ともいえるドイツでの事例…
ナチ党で何が起きたのかについての説明がありました。
歴史から学び、同じ失敗を繰り返さないことは、とても大なことだと思います。
そのうえで、では日本で緊急事態条項が本当に必要なのか、
どうしても作らなければならない場合はどのような歯止めが必要なのか、
終始冷静に、丁寧に語られた書籍だと思いました。
草案の時点で垣間見える、改憲派の思考の本質を捉えるのに、大変役立ちました。
対談形式により、ではこういう場合は?この点が問題となり得ますね
と、ポイントとなる部分に関して補足が入り、注目すべき点だというのがわかりやすかったです。
ただ一方的な説明文を読むよりも、私には読みやすく、普段法律に触れることの少ない私にも
最後まで読み切れそうです。
日本が検討している緊急事態条項は様々な抜けが多いこと、
また、日本が戦後、半植民地状態であることも併せて学ぶと、理解が深まるのではないかと思いました。
私もまだまだ知らない事が多いですが、不勉強(失礼)な日本国民による国民投票と併さると
取り返しのつかない物になる可能性があることを知ることが出来て、良かったなと思います。
近隣の図書館には緊急事態条項に関する書籍がないようでしたので、
本書を寄贈しようと思います。
その場で口頭で話すことは、どうしてもざっくりしてしまいがちだというのはよくわかるので
淡々と受け止めますが、日本の(2022年9月時点で)副総理の「(ヒトラーの)手口をまねしたらどうか」の発言を切り口に、過去の事実を照らし合わせて、どこが説明不足なのか、どう理解するのが現実に即しているかの、わかりやすい説明があり、大変納得できました。
本書の前半は、緊急時に対応するような憲法や法律が制定されたことのある
ドイツ、フランス、アメリカといった各国の事情について、歴史的にどのようなことが起き
今に至るのか、緊急事態条項の乱用、失敗ともいえるドイツでの事例…
ナチ党で何が起きたのかについての説明がありました。
歴史から学び、同じ失敗を繰り返さないことは、とても大なことだと思います。
そのうえで、では日本で緊急事態条項が本当に必要なのか、
どうしても作らなければならない場合はどのような歯止めが必要なのか、
終始冷静に、丁寧に語られた書籍だと思いました。
草案の時点で垣間見える、改憲派の思考の本質を捉えるのに、大変役立ちました。
対談形式により、ではこういう場合は?この点が問題となり得ますね
と、ポイントとなる部分に関して補足が入り、注目すべき点だというのがわかりやすかったです。
ただ一方的な説明文を読むよりも、私には読みやすく、普段法律に触れることの少ない私にも
最後まで読み切れそうです。
日本が検討している緊急事態条項は様々な抜けが多いこと、
また、日本が戦後、半植民地状態であることも併せて学ぶと、理解が深まるのではないかと思いました。
私もまだまだ知らない事が多いですが、不勉強(失礼)な日本国民による国民投票と併さると
取り返しのつかない物になる可能性があることを知ることが出来て、良かったなと思います。
近隣の図書館には緊急事態条項に関する書籍がないようでしたので、
本書を寄贈しようと思います。
2022年4月9日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ワイマール憲法には強力な緊急事態条項があったため、ナチスの独裁に繋がったという説明に基づき、自民党の改憲案を批判するという内容です。ドイツの政治史(第一次世界大戦〜戦後)も気軽に概観できる良書です。
・独裁の良い面は「決められる政治」なので、政治家も国民も、主権独裁(憲法をひっくり返す)の誘惑に駆られることがある
・緊急事態条項を入れるならその発動を管理する必要があり、三権分立の中では司法がその役割を果たさないといけないが、統治行為論で司法は重大な政治問題から距離をおくし、最高裁判事も内閣が人事権を持つため、そのあたりが変わらないと緊急事態条項は危険。
・戦争犯罪の歴史と向き合わないと、憲法の理念を深化させるのは難しい。
・独裁の良い面は「決められる政治」なので、政治家も国民も、主権独裁(憲法をひっくり返す)の誘惑に駆られることがある
・緊急事態条項を入れるならその発動を管理する必要があり、三権分立の中では司法がその役割を果たさないといけないが、統治行為論で司法は重大な政治問題から距離をおくし、最高裁判事も内閣が人事権を持つため、そのあたりが変わらないと緊急事態条項は危険。
・戦争犯罪の歴史と向き合わないと、憲法の理念を深化させるのは難しい。
2021年6月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
世界的な歴史認識をもって、緊急事態条項とは、過去のデータについて考える。
ヨーロッパ諸国の中でも、同様に条項事変を分析する。
ヨーロッパ諸国の中でも、同様に条項事変を分析する。
2021年8月8日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
自民党の緊急事態条項が危険ということは直感的に感じていましたが、本書を読んで具体的に理解できました。
・緊急事態の対象が曖昧。議会の承認を選ずに内閣が閣議で決定できる。
・120日間、議会を停止して、好き勝手できる。
この120日の間にナチスの手口にならって、以下のようにすれば、憲法(の中にある国民主権・基本的人権)を骨抜きにして独裁・強権政治を確立できます。
・事件をでっちあげて、政権に批判的な政党・人物を投獄する。メディアに検閲導入
・憲法発議要件を緩和して改憲案を通過。国民投票に持ち込む
・政権に批判的な言説は封鎖した上で国民投票を実施
・改憲成立
決して、民意の圧倒的多数がナチスを選んだわけではないこと、時代背景(イデオロギー対決が激しく国会が機能~妥協案の成立~しなくなっていたこと)や党利党略が招いた結果であることも理解できました。
その他、戦後の加害歴史を直視することについても、ドイツも戦後すぐではなく、ナチス戦犯の時効議論をきっかけに、当時の若い世代(法曹界や党派を超えた国会議員など)を中心に進んだことが解説されていて興味深かったです。
・緊急事態の対象が曖昧。議会の承認を選ずに内閣が閣議で決定できる。
・120日間、議会を停止して、好き勝手できる。
この120日の間にナチスの手口にならって、以下のようにすれば、憲法(の中にある国民主権・基本的人権)を骨抜きにして独裁・強権政治を確立できます。
・事件をでっちあげて、政権に批判的な政党・人物を投獄する。メディアに検閲導入
・憲法発議要件を緩和して改憲案を通過。国民投票に持ち込む
・政権に批判的な言説は封鎖した上で国民投票を実施
・改憲成立
決して、民意の圧倒的多数がナチスを選んだわけではないこと、時代背景(イデオロギー対決が激しく国会が機能~妥協案の成立~しなくなっていたこと)や党利党略が招いた結果であることも理解できました。
その他、戦後の加害歴史を直視することについても、ドイツも戦後すぐではなく、ナチス戦犯の時効議論をきっかけに、当時の若い世代(法曹界や党派を超えた国会議員など)を中心に進んだことが解説されていて興味深かったです。
2022年2月13日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
対談形式でとてもわかりやすく、しかも問題点は何処なのか明確に指摘されています。お薦めの一冊。