日本が世界に誇る創薬はいくつかあるが、まさに「世界で一番売れている薬」であるコレステロールを下げる薬、スタチン(メバロチンやビタバスタチンの一般名)も日本人、遠藤章が50年も前に創り出したもの。遠藤先生のライフヒストリー、そしてスタチンが世に出る(メバロチンの発売は1989年)までの紆余曲折は、まさにサスペンス小説のようにスリリング。
それを活写する山内喜美子さんの「世界で一番売れている薬」、オリジナルは2007年の刊行で2018年に新書になった。今読んでも、研究者や臨床医などすべての登場人物のリアリティにぐいぐい引き込まれ一気に読んだ。
四つのストーリーが交錯する。一つ目は、秋田の田舎から苦学して東北大農学部にすすみ三共に入社して研究人生を歩む遠藤先生の物語。留学先のアメリカで研究ターゲットをコレステロールにさだめたものの帰国した日本ではまだまだそういう時代ではなかった。それでも、ひとと違ったものをやりたいと研究を続け、コレステロール合成に必要なHMG-CoA還元酵素阻害作用をもつ物質を青カビから抽出しML-236として特許を取得(1973)。
二つ目は、三共(に限らないが)の研究体制の問題。年功序列や部門間の軋轢など日本的な組織が新薬開発にブレーキをかけます。まあ、このあたりは、日本人ならわかる、仲間内の足の引っ張り合い。
三つ目は、海外のライバル製薬会社や研究者、そして彼らの特許戦略の巧みさ。そのため、開発者である遠藤先生を擁し、ML-236の特許にを持つにも関わらず、治療薬の特許を独占することができなかった三共。特許における先願主義国と先発明主義国の違いなど、初めて知ったことも多い。
四つ目は、薬害問題などで新薬開発にビビり、臨床治験もままならない日本で、目の前で苦しむ家族性高コレステロール血症の患者のために、リスクをおかしてスタチンを使い続け成果を出すことで社会の流れを変えた臨床医(金沢大学の馬淵先生や大阪大学の山本章先生)達の物語。結局、彼らがNEJMなどに発表した臨床論文が世界を動かした。
四つの物語が錯綜しながら、製剤としてのメバロチンが発売されたのは1989年、ML-236の特許から16年もかかってしまい、すでに遠藤先生は東京農工大に移籍。メバロチンで三共は莫大な利益をあげたが、逃した利益も大きかったはず。まあ、スタチンは日本初のブロックバスターだったわけで、製薬会社自身もそんな創薬が日本でできるとも思っていなかったのはしかたない。
月日は流れ、国内ではすでにメバロチンの特許は切れジェネリック薬も増え、スタチン製剤が世界中で使われていることはご存じのとおりです。だからこそ、ここに至るまでの遠藤先生をはじめとする多くの努力が紡ぎだした物語をぜひ読んでもらいたい。発想から実験、推理、挫折、陰謀・・・すべての要素を丹念に書き込んだ著者もみごと。
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世界で一番売れている薬~遠藤章とスタチン創薬~(小学館新書) Kindle版
世界を救う“奇跡の薬”は日本人が生んだ。
ガードナー国際賞、ラスカー臨床医学研究賞、アルパート賞、ウィーランド賞……海外の著名な医学賞を次々に受賞し、日本人初の全米発明家殿堂入りも果たした農学博士・遠藤章。その遠藤博士が世界で初めて発見したのが、コレステロール値を下げて心疾患や脳梗塞の発症を抑える高脂血症治療薬「スタチン」だ。この“世紀の薬”は、いかに生まれ、どのような運命をたどったのか――。
“ノーベル賞に最も近い日本人”の1人とされる遠藤博士による新薬誕生のドラマから製薬・医学界の熾烈な開発競争までを描く“奇跡の創薬”物語。
本書には、多くの日本人の心に響く遠藤博士の言葉が並んでいる--。
「自分の将来を決めるのは自分だけしかいない」
「挑戦するなら、大きなこと。社会的関心も大きいものから選びなさい。夢はタダだから、大きいほうがいい」
「今の時代、お金が大事といいますが、人が本当に生きる喜びや価値を見出せるのは、使命感を持って世の中のためになることをやった時。私は、日本の会社や日本のためというより、世界中で必要とされているからやろうと考えて挑戦してきました」
「人のいやがることに、大きな発見があることが多い」
ガードナー国際賞、ラスカー臨床医学研究賞、アルパート賞、ウィーランド賞……海外の著名な医学賞を次々に受賞し、日本人初の全米発明家殿堂入りも果たした農学博士・遠藤章。その遠藤博士が世界で初めて発見したのが、コレステロール値を下げて心疾患や脳梗塞の発症を抑える高脂血症治療薬「スタチン」だ。この“世紀の薬”は、いかに生まれ、どのような運命をたどったのか――。
“ノーベル賞に最も近い日本人”の1人とされる遠藤博士による新薬誕生のドラマから製薬・医学界の熾烈な開発競争までを描く“奇跡の創薬”物語。
本書には、多くの日本人の心に響く遠藤博士の言葉が並んでいる--。
「自分の将来を決めるのは自分だけしかいない」
「挑戦するなら、大きなこと。社会的関心も大きいものから選びなさい。夢はタダだから、大きいほうがいい」
「今の時代、お金が大事といいますが、人が本当に生きる喜びや価値を見出せるのは、使命感を持って世の中のためになることをやった時。私は、日本の会社や日本のためというより、世界中で必要とされているからやろうと考えて挑戦してきました」
「人のいやがることに、大きな発見があることが多い」
- 言語日本語
- 出版社小学館
- 発売日2018/8/8
- ファイルサイズ1930 KB
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登録情報
- ASIN : B07G41HYG7
- 出版社 : 小学館 (2018/8/8)
- 発売日 : 2018/8/8
- 言語 : 日本語
- ファイルサイズ : 1930 KB
- Text-to-Speech(テキスト読み上げ機能) : 有効
- X-Ray : 有効にされていません
- Word Wise : 有効にされていません
- 付箋メモ : Kindle Scribeで
- 本の長さ : 191ページ
- Amazon 売れ筋ランキング: - 359,067位Kindleストア (Kindleストアの売れ筋ランキングを見る)
- - 427位小学館新書
- - 17,545位歴史・地理 (Kindleストア)
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2018年8月29日に日本でレビュー済み
ここ数年ノーベル賞候補に挙げられる「動脈硬化のペニシリン」こと、スタチンの発明者・開発者である遠藤章博士。しかしその評価が固まるまでには、アメリカの製薬会社の策略や自身が所属していた日本の製薬会社の無知等により散々翻弄されたものだった。コレステロール値を劇的に下げ、副作用もほとんどない「世紀の薬」、「奇跡の薬」と言われるスタチンの発見は1973年である。1985年には「コレステロール代謝の諸発見」によりブラウンとゴールドスタインにノーベル賞が授与された。しかしこの二人の研究成果には遠藤博士のスタチンの提供が不可欠であった。何故遠藤博士は受賞者からはずされたのか?ノーベル賞委員会の最も重視する点は誰が一番最初に原理・原則を発明、発見したのか?という点にあるはずである。ともあれスタチンの発見から今年で45年。2008年にはラスカー賞、去年(2017年)はガードナー国際賞を受賞され、ノーベル賞への道は開けた。ノーベル賞は生存者にしか与えられない。失礼ながら遠藤博士のお年を考えると博士のご健康を祈らずにはいられない。日本政府に一言。遠藤博士は文化功労者ではあるが文化勲章は授与されていない。ノーベル賞を取ったら途端に文化勲章を授与するというようないつものドタバタ受賞はやめて、今年の文化勲章受章者には初めから遠藤博士を入れておくべきだ。