このベストを聴いて思ったことは、1st.2nd、そしてここには未収録だがepを出した時点では混乱していたんだなということ。それは聴く方もそうだし作っている方もそうだったんじゃないだろうか。
聴く方としてはBiSのヒラノノゾミ、ファーストサマーウイカ、マネージャーの渡辺淳之介とそこにNIGOが加わって一つのものを作るわけだからかなり構えて聴くだろうし、作る側はそういうところも計算ずくでその上にどういうものを作るかということをしないといけないわけで。
さらにコンセプトもネオ80sというあやふやなもの。ネオ80sといいながらデビュー曲が70年代の誰もが知っている曲からタイトルを拝借したところも多少混乱が見てとれる(新曲の「my way」のタイトルもそのバンド関連の曲を意識せずにつけたものではないだろうし、ただこのバンドが80sへの時代の流れを作ったのは確かではあるのだが)。
このネオ80sというコンセプトが最も分かりやすかったのは会員限定のカバーアルバムのアイドルフェラズで、これは全曲80sのカバーだから当然と言えば当然なのだが、この会員限定のミニアルバムはオリジナルでないものの、個人的にはヤスイユウヒのいたいわゆる第一章でのある種の到達点と感じている。オリジナルでないものを自家薬籠中としていることがかえって、ビリーアイドルがただのリバイバルアーティストでないことを示しているのではないだろうか。
特に『bibibibibi』のオーセンティックなロックンロールの路線に直結するような「僕たちのピリオド」、「うわさになりたい」のロカビリー2曲とベストにも収録されたテクノ歌謡「ふられ気分でRock’n’Roll」ではケヴィンマークスによって原曲の良いところをより濃縮し四人の声によってオリジナリティ溢れるものとして完成させている。権利などで難しいだろうが今度は洋楽込みでカバーアルバムの第二弾が聴けたらなどと期待してしまう。80sの洋楽といわゆるアイドルを聴く層がどれくらい重なっているかわからないが、前者だけを聴くような人でも聴き応えのある音になっていることは間違いないと思う。
そして、それまでの混乱を内包しつつ、よりわかりやすい方向性を提示することができたのが、「泣きそうサンデー」をリード曲とする3rdアルバムの『bibibibibi』ということになるだろう。その方向性をネオ80sと言えるのかはわからないが、その後再び有頂天の「bye-bye」のカバーをするというところにやはりこのコンセプトに対して強いこだわりが感じられる。
NIGOの語っていた「俺の80年代はどこかにある!」という思いは『bibibibibi』のシンプルな方向性の呼び水になったのは確かで、もちろんしばらくは今の方向性のまま進んでいってほしいのだが、そこに拘り続けるといつかは先がなくなってしまうようにも思う。逆にネオ80sというテーマなら、この先NIGO自身の80sということにさえこだわらなければ風呂敷の広げかたによっては何でもできるのではないだろうか。
ここで80s周辺で、近くはないかもしれないが個人的にビリーと相関性を感じたジャンル、アーティストを思いついたまま挙げていくと(Amazonレビューではリンクできないので括弧内をコピペして某動画サイトで検索できるので暇な人はどうぞ)。
・テクノポップ
b52s ( The B-52's - "Rock Lobster" (Official Music Video)
devo ( Devo - [I Can't Get No] Satisfaction (Video) )
トムトムクラブ ( Tom Tom Club Wordy Rappinghood 1981 ((Stereo)) )
・パワーポップ、商業的なポップパンク
ブロンディ( Blondie - Heart Of Glass ) 、( Blondie - One Way Or Another )
バングルス( The Bangles - Walk Like an Egyptian )
レヴィロス( The Rezillos - Destination Venus. )
バラクーダス( The Barracudas - Summer Fun (1981) )
トイドールズ、Nikki and the Corvettes
・ネオロカ ロッキーシェイプ(ドゥーワップだが ( Rocky Sharpe & The Replays Rama Lama Ding Dong )
・ニューロマ
アダムアンドジアンツ ( Adam Ant - Goody Two Shoes )
バウワウワウ ( BOW WOW WOW - C30 C60 C90 Go! )
・2トーン マッドネス ( Madness - One Step Beyond )
・ダブ スリッツ ( The Slits - Typical Girls )
他にもoi、ネオモッズ等々色々な音楽が浮かんでくる。
今のところ音楽性的には遠いが、ハードコアだってネオアコ、ファンカラティーナだって、セカンドサマーオブラブとマッドチェスターだって80sなわけだし、グランジもシューゲーザーも始まりは80sに求められるし、ヒップホップ、ハウス、ニューウェーヴ的にはレゲェだってそう言い張ることもできる。さらにロック系のアーティストがラップ調の曲を出したりレゲェを歌ったりしていたこともあったわけで、洋楽だけ見てもこれだけ1980年代には色々な音楽性があった本当に混沌とした時代だったのだろう。
長々と書いてきてつまり何が言いたいかというと、ネオ80sというBILLIE IDLE®のコンセプトには、何でもありという言葉を使わずに何でもありということが示されているのではないかということだ。もちろん上にあげたような安易なジャンル分けなどにとらわれることなく四人のメンバー、NIGO、ケヴィン、渡辺の選択でBILLIE IDLE®がどんな道を進んでいくのか、それを見届けていきたい。
もう一言付け加えると、最後に時系列をずらしヤスイユウヒ作詞の「彼方に」を持ってきているあたり、またiTunes限定ではあるがボーナストラックで「by」の四人バージョンが入っているあたりにやはりこだわりを感じる。