カフカは、作家と結婚生活とをいかに両立させるか、あるいは自分が育った西方ユダヤ人社会への反発(=シオニズム運動へのある面での共感)などを、中国人やロシア人に仮託して(或いは中国やロシアから刺激を受けて)作品化している、というような内容であった。当時のヨーロッパでは、ユダヤ人は、中国人やロシア人と似ていると考えられていたらしい。ここで採り上げられるのは、『判決』『万里の長城が築かれたとき』『流刑地にて』などであり、それらの作品は、婚約者フェリーツェとの望ましい関係を模索する中で生まれた。
どうやらカフカは、その特異な性格から(あまりに文人的な、そして女性排除的な面もあって)、西洋近代の市民社会の「父権的秩序」と「異性愛」になじめず、新たなる家庭のあり方(新たなる夫婦関係)を確立したかったようである。
川島氏の論文はおそろしく緻密であり、論理も入り組んでいて、大体のところを理解するのに何度も読み返さなければならなかった。従って、私の理解は中途半端であるが、しかし得たものは大きく、私のカフカ理解は飛躍的に進んだと思う。
なお、カフカのような特異な作家をなぜ読むのかと思われる方もいるかもしれないが、カフカの作品を読むと、たとえ未完成であっても、部分部分がとても精巧に描かれ、しかも、誰も思い付かないような表現がしばしば出てくるのだ。

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カフカの〈中国〉と同時代言説: 黄禍・ユダヤ人・男性同盟 単行本 – 2010/4/2
川島 隆
(著)
カフカが〈中国〉に見たものとは……
カフカがイメージした〈中国/中国人〉は、西洋で表象されてきた「ユダヤ人=東洋人」像につながっている。
カフカ文学に描かれた〈中国〉から、ユダヤ人男性としてのカフカが直面していた「民族問題」と「ジェンダー/セクシュアリティの問題」が浮かび上がってくる――
抽象的に読まれがちなカフカを、同時代の言説と照らし合わせ、「現実」との具体的な関わりで読み直す。
カフカがイメージした〈中国/中国人〉は、西洋で表象されてきた「ユダヤ人=東洋人」像につながっている。
カフカ文学に描かれた〈中国〉から、ユダヤ人男性としてのカフカが直面していた「民族問題」と「ジェンダー/セクシュアリティの問題」が浮かび上がってくる――
抽象的に読まれがちなカフカを、同時代の言説と照らし合わせ、「現実」との具体的な関わりで読み直す。
- 本の長さ294ページ
- 言語日本語
- 出版社彩流社
- 発売日2010/4/2
- ISBN-104779115280
- ISBN-13978-4779115288
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商品の説明
著者について
1976年京都府生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了、博士(文学)。現在、滋賀大学経済学部特任講師。専門はドイツ文学、メディア学。
著書:『非営利放送とは何か 市民が創るメディア』(共著、ミネルヴァ書房、2008年)
著書:『非営利放送とは何か 市民が創るメディア』(共著、ミネルヴァ書房、2008年)
登録情報
- 出版社 : 彩流社 (2010/4/2)
- 発売日 : 2010/4/2
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 294ページ
- ISBN-10 : 4779115280
- ISBN-13 : 978-4779115288
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,141,646位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 126,139位ノンフィクション (本)
- カスタマーレビュー:
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2020年7月4日に日本でレビュー済み
2010年4月7日に日本でレビュー済み
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本書は、カフカが愛読した漢詩集や黄禍論などの「中国言説空間」のなかで、いかに「中国」に強く思い入れ、自己の問題を仮託していたかを論じている。カフカが直面したユダヤ人差別の言説もまた、西洋白人男性とは異なって「肌の黄色い」「東洋的な」人種としてユダヤ人を語っており、そういった民族アイデンティティは、不可分に「ジェンダー、セクシュアルポリティクス」と絡み合っているものであるが、なかでも、ホモソーシャル、女性嫌悪(ミソジニー)、男同士の絆といった側面がカフカの文学という営みを規定しているというのが本書の主張である。従来、カフカが「市民生活と文学」の相容れなさに悩み、「結婚ができない、父親になれない、だが孤独を追求もしきれない」状況それ自体を作品に描いてきたことは指摘されているが、著者は改めてカフカにとって文学とは何だったのか、恋人フェリーツェとの関係は何だったのかを論じ、新しい解釈を提示することに成功している。
本書の最大の美点は、最新の研究状況を反映した学術論文であるということである。汗牛充棟の先行研究を見事に整理し、これまでの議論に欠けている点を的確に指摘し、新たな論拠に基づいて説得力ある説を展開している。高度に抽象化されていると思える作品の中で、実はカフカが驚くほどに同時代人をこき下ろしたりしている事例が満載であり、一般のカフカ愛読者にもぜひ一読されたい面白い読み物となっている。小さい判型の本ながら、人名と事項に分けた二つの詳細な索引がついており、関心に合わせてピンポイントで本書を参照するのに便利である。また、モノクロながら図版も10点ほど収められており、当時のドイツ語圏に流通していた中国イメージがいかに偏見に満ちたものであるかが一目でわかるというだけでも、本書を手にとってパラリとめくってみる価値はある。
本書の最大の美点は、最新の研究状況を反映した学術論文であるということである。汗牛充棟の先行研究を見事に整理し、これまでの議論に欠けている点を的確に指摘し、新たな論拠に基づいて説得力ある説を展開している。高度に抽象化されていると思える作品の中で、実はカフカが驚くほどに同時代人をこき下ろしたりしている事例が満載であり、一般のカフカ愛読者にもぜひ一読されたい面白い読み物となっている。小さい判型の本ながら、人名と事項に分けた二つの詳細な索引がついており、関心に合わせてピンポイントで本書を参照するのに便利である。また、モノクロながら図版も10点ほど収められており、当時のドイツ語圏に流通していた中国イメージがいかに偏見に満ちたものであるかが一目でわかるというだけでも、本書を手にとってパラリとめくってみる価値はある。
2010年4月13日に日本でレビュー済み
序章を読んで、カフカが中国文学(漢詩)を愛読していた、という事実にまず驚かされた。本書のとくに前半では、当時最新の翻訳・紹介を通じてカフカが漢詩の世界に触れ、李白や杜甫に強く感情移入していたことが、事細かに実証されている。
けれども、本書は必ずしもカフカと中国文学の関係を扱った本ではない。「中国」というキーワードを手がかりに、生々しい同時代の政治事件や社会問題(反ユダヤ主義やシオニズムなど)に次々と光があてられ、そうした問題とカフカの作品との意外なつながりが明らかにされてゆく。カフカが政治・社会の問題に抱いていた関心は、深刻な個人的問題(恋愛の悩み)といつもセットになっていて、その悩みから彼の文学は生まれてきたのだ。
「カフカ」といえば、なんとなく非現実的で浮世離れしたイメージがあったのだが、本書を通読して、カフカはカフカなりに、生きにくい時代に必死で生きていたのだなと思う。そのことを念頭に『変身』や『審判』を読み直してみると、また新たな発見がありそうで面白い。
けれども、本書は必ずしもカフカと中国文学の関係を扱った本ではない。「中国」というキーワードを手がかりに、生々しい同時代の政治事件や社会問題(反ユダヤ主義やシオニズムなど)に次々と光があてられ、そうした問題とカフカの作品との意外なつながりが明らかにされてゆく。カフカが政治・社会の問題に抱いていた関心は、深刻な個人的問題(恋愛の悩み)といつもセットになっていて、その悩みから彼の文学は生まれてきたのだ。
「カフカ」といえば、なんとなく非現実的で浮世離れしたイメージがあったのだが、本書を通読して、カフカはカフカなりに、生きにくい時代に必死で生きていたのだなと思う。そのことを念頭に『変身』や『審判』を読み直してみると、また新たな発見がありそうで面白い。