本書の著者トーマス・シェリングは2005年にノーベル経済学賞を受賞した。受賞理由は「対立と協力の理解を深めたこと」である。シェリングは4部構成の本書を、対立と協調の分析に充てている。第1部は交渉の「分配的な側面」の分析に焦点をあてていて、その結果を踏まえて第2部ではゲーム理論の拡張を試みる。第3部は戦略の「ランダムな要素」について、第4部は奇襲攻撃についてそれぞれ考察している。
シェリングが注目した交渉の「分配的な側面」は2つある。1つ目は交渉力である。交渉を有利に進めるためには「信憑性のある脅し」が効果的だが、脅しに信憑性を持たせるのは難しい。なぜなら、脅しをかけた側自身が、交渉が失敗した後に脅しを実行する誘因を持たないからである。そこで重要なのが「自らを拘束する力(コミットメント)」である。自らの手を縛り、脅しを実行する際に判断や裁量の余地を可能な限り狭めておけば、脅しに信憑性を持たせることができる。例えば、攻撃の抑止としての脅しでは、「脅す側に最終決定権が完全に委ねられていない」ことが重要である(196ページ)。「交渉では弱さが強さになりうる」(55ページ)のである。
また、脅しを連続する小さな脅しへと分解するのも有効である。例えば「全面戦争の脅し」ではなく「限定戦争の脅し」をかけることで、攻撃を抑止することができる。小さな脅しは実行しやすく、それによって「実際に脅しを実行する」という評判を作り出すことができる。自らの評判に訴えかけることは、コミットメントの強力な方法である(30ページ)。小さな脅しを作るためには、確率的な要素を取り入れる(混合戦略を用いる)ことも有益となる。「全面戦争がおこるかもしれないリスク」(199ページ)がこれにあたる。確率的な要素を取り入れることで、分割不能な対象物を分割可能なものに変えたり、異質なものを同質なものにしたりすることができる(182ページ)。
2つ目は、合意がどうやって形成されるかについてである。シェリングが分析に力を入れたのは「暗黙の交渉」、つまり、当事者がお互いに会話できないような状況である。利害が完全に対立するような交渉を除けば(そして多くの交渉では実際に共通利益があるものだが)、共通利益のために彼らは行動を調整したいと考える。行動を調整するいくつかの手がかりをシェリングは「フォーカル・ポイント」と呼んだ。「類推、先例、偶然の配置、対称的・審美的・幾何学的な形状、詭弁的な推論、そしてだれが当事者であり、お互いについてそれぞれ何を知っているか」(61ページ)などはすべてフォーカル・ポイントである。フォーカル・ポイントによって行動を調整するには、「論理と同じくらいに」「想像力を」扱うことであり(62ページ)、「こうしたゲーム…は論理学者よりも詩人の方がうまく解決することができる」(62ページ)。シェリングが協調したのはいわゆる「男女の争い」タイプのゲームにおいて、フォーカル・ポイントが相対的に不利な結果をもたらすとしても、当事者はしばしばその選択肢をえらぶ。「合意する必要性が潜在的な利益の対立を押しのける」(64ページ)のである。
シェリングの見方では、ゲーム理論はゼロサムゲームの分析において重要な示唆と知見をもたらした。完全な利害対立があるゼロサムゲームにおいて、当事者間での交渉は一切不要である。自分の戦略を相手に予測させないことが何よりも大事であり、当事者は単に「ミニマックス戦略」を選べばよい。このような「反コミュニケーション的」(109ページ)なゲームを分析するならば、「利得の数学的な構造以外の要素」(109ページ)は重要ではない。シェリングによれば、これこそが、伝統的なゲーム理論がゼロサムゲームを上手く分析できた理由である。
その一方で、共通の利益が存在する「調整ゲーム」と「混合動機ゲーム」(非ゼロサムゲーム)の分析には、ゲーム理論はあまり役立たない。このような認識に立った上で、シェリングは、ゲーム理論を2つの方向に拡張することを試みている。1つ目は、脅しやコミュニケーションを明示的に分析することである。この点に関してシェリングは、元のゲームの利得行列を拡大するかたちで、「脅し」や「約束」などの行動を含むゲームを表現できる、と結論している(155ページ)。
2つ目は、「期待の一致」をもたらす明示的・暗黙的な要素をゲームの中で扱うことである。
「期待の一致」による行動の調整が求められるゲームでは、ゲームに関する詳細が結果に影響を与える(111ページ)。それどころか、「人々が…正しいプレイをするためには、影響されるべきだ」(102ページ)とさえ言える。混合動機ゲームを分析するにあたっては、過度に抽象化して数理分析に特化すべきではないとシェリングは警告する。数理分析において捨象された文脈にこそ、結果がどうなるのかを知る手がかりがあるからである。規範理論の命題は、事前的考察に基づく純粋に分析的な方法から導き出すことはできない。そこには「数理構造以上の何か」がある(167ページ)。
奇襲攻撃の問題とは、いわゆる「囚人のジレンマ」である。戦争回避に大きな利益があるのに、相手から攻撃を仕掛けられる恐怖から先制攻撃してしまう。そして相手も同じ状況に直面している(215ページ)。さらに、奇襲攻撃への恐怖感が引き起こす「非合理的」な攻撃の確率が小さいうちはよいが、ある値をこえると攻撃回避から攻撃開始へと変わってしまう。「わずかなうたがいが、期待を増幅させていく」のである(216〜218ページ)。ここで注意すべきは、「同時決定」は本質的な問題ではなくて、逐次行動にしても結論は変わらない(225ページ)。実際、「ゲーム結果は手番の数から影響を受けない」(226ページ)のである。十分な反撃力が奇襲攻撃の問題を解決する。つまり、「軍縮は自体を安定的にいない」し、軍拡が必ずしも状況を不安定かさせることにはならないのである(245ページ)。これが「安定した『恐怖の均衡』」である(248ページ)。
本書の内容についていくつかコメントを述べたい。まず、本書にはいくつもの利得行列が出てくるが、これらは必ずしも(現在の)ゲーム理論でいう戦略形ゲームを意味しているわけではない。利得行列はあくまでゲームの「結果」だけを表す道具として使われている。実際に、シェリングは同時手番だけでなく、逐次手番のゲームも分析している。
次に、第5章においてシェリングは、元のゲームの利得行列を拡大することで「脅し」などを表現できると提案した。そしてこの提案は実際に現在のゲーム理論で実現されている。シェリングには十分にゲーム理論の道筋が見えていたと言えよう。
最後に、補遺Aでは、限定戦争において核兵器が使用される可能性について論じている。核兵器に対しては世界的な嫌悪があるという「政治的事実」に言及した上で、シェリングは「核兵器を他の兵器と区別するのは、核兵器は他と違うという強力な伝統である」(268ページ)と主張している。つまり、伝統がフォーカル・ポイントとなって「核兵器が使用されない」という均衡が実現しているのだ、ということである。しかし、個人的には、やはり核兵器は他の兵器と実際に違うのではないかと思える。後遺症が違うからである。細菌兵器などが生物兵器禁止条約で禁止されているのと同じだと思うのだがどうだろうか。
「本格的なミステリはすべてクリスティによって書き尽くされてしまった」と言ったのはたしかアシモフだったと思うが、やや大げさに言えば、ゲーム理論の重要なエッセンスはすべて本書に示されている(邦訳のタイトルはまさにそのことを示している)。シェリングの凄さを十分に感じさせられる本である。前書きにあるように、(ノーベル賞に値するアイディアを記した)「2つの章は、私がゲーム理論を知るようになる以前に書かれたもの」ならば、なおさらであろう。せっかく日本語で読めるのだから、ぜひ多くのひとに読んでもらいたいと思う。
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紛争の戦略―ゲーム理論のエッセンス (ポリティカル・サイエンス・クラシックス 4) 単行本 – 2008/3/25
トーマス・シェリング
(著),
河野 勝
(翻訳)
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2005年ノーベル経済学賞受賞・シェリングの主著Strategy of Conflictを,わかりやすい日本語訳でついに完訳! 戦略的意思決定のメカニズムを解き明かした,いまも色あせない社会科学の古典。
本書は,ゲーム理論を用いて戦略的意思決定のさまざまな問題を解き明かした古典的名著である。核抑止,限定戦争,奇襲攻撃といったなまなましい国際政治上の問題をつきつめて分析すると同時に,交渉,コミットメント,脅し,約束など,人間社会に普遍的な問題についても,いくつもの重要な知見を提供する。
本書は,ゲーム理論を用いて戦略的意思決定のさまざまな問題を解き明かした古典的名著である。核抑止,限定戦争,奇襲攻撃といったなまなましい国際政治上の問題をつきつめて分析すると同時に,交渉,コミットメント,脅し,約束など,人間社会に普遍的な問題についても,いくつもの重要な知見を提供する。
- ISBN-104326301619
- ISBN-13978-4326301614
- 出版社勁草書房
- 発売日2008/3/25
- 言語日本語
- 本の長さ321ページ
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商品の説明
著者について
著者紹介
トーマス・シェリング
1921年カリフォルニア州オークランド生まれ。1951年ハーバード大学で経済学Ph.Dを取得。イェール大学,ランド研究所,ハーバード大学を経て,現在、メリーランド大学教授。2005年,ゲーム理論の分析を通じて対立と協力の理解を深めたとして,ノーベル経済学賞を受賞。
監訳者紹介
河野 勝
1962年生まれ。1994年スタンフォード大学政治学博士(Ph.D)。早稲田大学政治経済学術院教授。Japan’s Post war Politics, Princeton University Press, 1997; 『制度』(東京大学出版会、2002年)ほか。
トーマス・シェリング
1921年カリフォルニア州オークランド生まれ。1951年ハーバード大学で経済学Ph.Dを取得。イェール大学,ランド研究所,ハーバード大学を経て,現在、メリーランド大学教授。2005年,ゲーム理論の分析を通じて対立と協力の理解を深めたとして,ノーベル経済学賞を受賞。
監訳者紹介
河野 勝
1962年生まれ。1994年スタンフォード大学政治学博士(Ph.D)。早稲田大学政治経済学術院教授。Japan’s Post war Politics, Princeton University Press, 1997; 『制度』(東京大学出版会、2002年)ほか。
登録情報
- 出版社 : 勁草書房 (2008/3/25)
- 発売日 : 2008/3/25
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 321ページ
- ISBN-10 : 4326301619
- ISBN-13 : 978-4326301614
- Amazon 売れ筋ランキング: - 258,914位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 1,363位政治入門
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2018年1月3日に日本でレビュー済み
2009年5月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本書は、ノーベル章を受賞したトーマス・シェリングの古典と言われる著作です。
おそらく、もともとの著作が長文、かつ、難解な本であったらしく、邦訳になり、読みやすく訳したとありますが、それでもちょっと読みにくいです。
私自身の基礎的な知識が欠如している部分があるのかもしれませんが、ゲーム理論の専門用語や数学的知識という部分だけでなく用語についてわかりにくいものが多かったです。
その他の部分については、他の方が書かれたレビューのとおりでした。
アメリカのタブーでもあえて論じるという知的な意欲作だと思います。
おそらく、もともとの著作が長文、かつ、難解な本であったらしく、邦訳になり、読みやすく訳したとありますが、それでもちょっと読みにくいです。
私自身の基礎的な知識が欠如している部分があるのかもしれませんが、ゲーム理論の専門用語や数学的知識という部分だけでなく用語についてわかりにくいものが多かったです。
その他の部分については、他の方が書かれたレビューのとおりでした。
アメリカのタブーでもあえて論じるという知的な意欲作だと思います。
2008年6月16日に日本でレビュー済み
ノーベル経済学賞を最近受賞したシェリングの主著。
ゲーム理論を発展させ、国際政治学において「よい均衡」を模索している。
本書が書かれてから半世紀近くたってやっと邦訳が出たが、中身は今読んでも決して色あせていない。
まず、ゲーム理論が軽視していた、非ゼロサムゲームを徹底的に開拓、分析していく。
ゼロサムゲームとは、敵の敗北が、そしてそれのみが自分の勝利となるようなゲームである。
要するに潰しあいである。
これに対し、非ゼロサムゲームとは、自分と相手がともに勝利することが出来る。
このゲームでは、協力が非常に重要な位置を占める。
非ゼロサムゲームでは、いかに自分に有利な条件で相手に協力させるかがカギとなる。
そして、直感に反することだが、自分が情報や能力を欠いていることが、逆に自分の勝利を導くのだ。
例えば、自分が相手に譲歩する能力を欠いているとすれば、そして、どちらかが譲歩せざるを得ない状況だとすれば、相手はやむを得ず譲歩することとなり、私にとってよりよい条件での協力になるだろう。
そして、このような「割のいい協力」を得るために、あえて自分の選択肢を減らすのが「コミットメント」である。約束や脅しに加えて、コミットメントも重要な手段である。
自分の選択肢を先に狭めることで、相手に仕方がなく譲歩をさせる、これが非ゼロサムゲームでの勝利への道である。
ところが、相手が自分の意図を読み違えたり、非合理的な行動をとったり、誤作動を起こしたりした場合には、コミットメントは逆に自分の首を絞める。
そして、こうした間違いのおきうるゲームでは、確率が現れることとなる。
この確率の存在は、良くも悪くも働きうる。
確率による脅し(例えば、お前がもし〜しなかったら、半分の確率で〜する)は、脅しを弱め、破壊的な帰結を免れるようにも使える。
しかし一方で、お互いが武器を持って向き合い、どっちが先に撃つか、といった状況では、確率は疑心暗鬼につながり、悲劇的結末を導く。
つまり、「自分が先制攻撃をしよう、と相手が思っているから相手は先制攻撃するだろう、と私が思って先制攻撃するだろう、と相手が思っているから・・・」と不安に陥り、結果互いに先制攻撃しようとしてしまう。
この最初の「自分が先制攻撃をしよう、と思っている」の部分は、「自分が(撃ちたくないのに)誤って撃ってしまう」に置き換えても、同様の結果となってしまう。
さて、現実の国際政治では、東西の奇襲攻撃に対するにらみ合いになっている。
上述の「先制攻撃するのでは・・・」の疑心暗鬼がおきうるのだ。むしろ起きているといってもいい。
では、この状況をどう改善するか。
まず、奇襲攻撃をされても、相手に攻撃し返すだけの設備があるならば、お互いに攻撃を控えるだろう。
だから、奇襲に対する反撃システムの構築と、反撃システムを攻撃する兵器の削減・軍縮は、よい均衡へと向かわせる。
また、奇襲の感知システムの感度も重要である。
上記の事実は、単純な軍縮がむしろ逆効果であったり、軍拡が平和を生んだりすることもあるということを示している。
むろん、かといって安易な軍拡に走ることは厳しく戒めている。
ゲーム理論の初心者でも、ゲーム理論のおいしいところはしっかりとわかる。
難解な用語もあまり出てこないので、この分野に詳しくなくても読めるだろう。
ゲーム理論を発展させ、国際政治学において「よい均衡」を模索している。
本書が書かれてから半世紀近くたってやっと邦訳が出たが、中身は今読んでも決して色あせていない。
まず、ゲーム理論が軽視していた、非ゼロサムゲームを徹底的に開拓、分析していく。
ゼロサムゲームとは、敵の敗北が、そしてそれのみが自分の勝利となるようなゲームである。
要するに潰しあいである。
これに対し、非ゼロサムゲームとは、自分と相手がともに勝利することが出来る。
このゲームでは、協力が非常に重要な位置を占める。
非ゼロサムゲームでは、いかに自分に有利な条件で相手に協力させるかがカギとなる。
そして、直感に反することだが、自分が情報や能力を欠いていることが、逆に自分の勝利を導くのだ。
例えば、自分が相手に譲歩する能力を欠いているとすれば、そして、どちらかが譲歩せざるを得ない状況だとすれば、相手はやむを得ず譲歩することとなり、私にとってよりよい条件での協力になるだろう。
そして、このような「割のいい協力」を得るために、あえて自分の選択肢を減らすのが「コミットメント」である。約束や脅しに加えて、コミットメントも重要な手段である。
自分の選択肢を先に狭めることで、相手に仕方がなく譲歩をさせる、これが非ゼロサムゲームでの勝利への道である。
ところが、相手が自分の意図を読み違えたり、非合理的な行動をとったり、誤作動を起こしたりした場合には、コミットメントは逆に自分の首を絞める。
そして、こうした間違いのおきうるゲームでは、確率が現れることとなる。
この確率の存在は、良くも悪くも働きうる。
確率による脅し(例えば、お前がもし〜しなかったら、半分の確率で〜する)は、脅しを弱め、破壊的な帰結を免れるようにも使える。
しかし一方で、お互いが武器を持って向き合い、どっちが先に撃つか、といった状況では、確率は疑心暗鬼につながり、悲劇的結末を導く。
つまり、「自分が先制攻撃をしよう、と相手が思っているから相手は先制攻撃するだろう、と私が思って先制攻撃するだろう、と相手が思っているから・・・」と不安に陥り、結果互いに先制攻撃しようとしてしまう。
この最初の「自分が先制攻撃をしよう、と思っている」の部分は、「自分が(撃ちたくないのに)誤って撃ってしまう」に置き換えても、同様の結果となってしまう。
さて、現実の国際政治では、東西の奇襲攻撃に対するにらみ合いになっている。
上述の「先制攻撃するのでは・・・」の疑心暗鬼がおきうるのだ。むしろ起きているといってもいい。
では、この状況をどう改善するか。
まず、奇襲攻撃をされても、相手に攻撃し返すだけの設備があるならば、お互いに攻撃を控えるだろう。
だから、奇襲に対する反撃システムの構築と、反撃システムを攻撃する兵器の削減・軍縮は、よい均衡へと向かわせる。
また、奇襲の感知システムの感度も重要である。
上記の事実は、単純な軍縮がむしろ逆効果であったり、軍拡が平和を生んだりすることもあるということを示している。
むろん、かといって安易な軍拡に走ることは厳しく戒めている。
ゲーム理論の初心者でも、ゲーム理論のおいしいところはしっかりとわかる。
難解な用語もあまり出てこないので、この分野に詳しくなくても読めるだろう。
2008年5月28日に日本でレビュー済み
発刊されてから結構年数が経ってからの訳本です。本書はゲーム理論を駆使して、戦略紛争などを如何にして起こり、解決に向かうのかを分かり易く説明してくれています。数式なども極力無いので、数学が苦手な人も読むことが出来ます。下準備として、ゲーム理論の入門書などを読んでおいた方がより良く理解できると思います。今では経済学のみならずあらゆる分野で応用されているゲーム理論。そして、紛争や争いを考察した本書は素晴らしいです。
2018年2月28日に日本でレビュー済み
ゲームの理論の本は数式ときってはきれない関係にあるため、読んでいるといきなり数式の羅列に出会い面食らうが、本書はそのようなことがなく、読みやすい。
2012年1月28日に日本でレビュー済み
内容は素晴らしいが訳が酷い。偏見を承知で言うが、主に訳しているのが学生で、監訳者はあまり監査せず、さらに関わった人間が文系のみということで、このような酷い訳になったと思われる。
著者の意思を表現できていない、なら訳者の意思はというと、それも表現できていない。一文一文、輪読のようにメモ的に訳した感じがする。
とりあえず、監訳者だけでなく出版社も、ちゃんと監査して本を出して欲しい。(多分、訳に関係してた人が、文系と知ったか理系モドキしかいなく、仮定や設定を論理立てて語れる理系がいなかったのかな・・・)
何度も言うが、内容は素晴らしいし面白い。これを読んで、訳者たちの理系知識の乏しさや内容自体のレベルの高さに感化され、政治経済などの数理モデルを構築できる真の理系が育ってくれることを願う。
著者の意思を表現できていない、なら訳者の意思はというと、それも表現できていない。一文一文、輪読のようにメモ的に訳した感じがする。
とりあえず、監訳者だけでなく出版社も、ちゃんと監査して本を出して欲しい。(多分、訳に関係してた人が、文系と知ったか理系モドキしかいなく、仮定や設定を論理立てて語れる理系がいなかったのかな・・・)
何度も言うが、内容は素晴らしいし面白い。これを読んで、訳者たちの理系知識の乏しさや内容自体のレベルの高さに感化され、政治経済などの数理モデルを構築できる真の理系が育ってくれることを願う。