著者の本に対する愛に溢れた一冊だ。
日頃手に取らない良書を矢継ぎ早に紹介しながら、
私たちを未知の世界に引きずり込む。
グレン・グールドが死の枕元に置いてあった本は、
聖書と漱石の「草枕」だった、というエピソードに始まり、
孤高のイタリア人写真家の生物写真への執念に唸らされた後、
村上春樹「色彩を持たない・・・」を通じた名古屋論という切り口でうなずき、
志賀直哉を引き合いに城崎温泉に連れられ温泉気分を味わっていると、
吉田戦車が台所で「塩ラッキョウ カレーライス添え」などを作っている。
絵本作家の佐野洋子はガン再発の告知を受けた帰り道に憧れのジャガーを買い
大好きなタバコを吸う。
伝説のSF漫画「AKIRA」で2020年東京オリンピック開催となっており!
読み物としてのサッカーとしてズラタンの破天荒さと優しさを伝え、
老人ホームでは痴呆老人が昔自分が月賦で買ったトラクターの写真を懐かしがっている。
アメリカでは死亡診断書に書かれている死因が3,000種類を超え、
ゴルフのラウンド中に死んだ人は3120人いて、3番と18番ホールが特に多い、
などといった話まである。
最後は柴田元幸によるポールオースター「オギー・レーンのクリスマス・ストーリー」
の朗読に耳を澄ます。
かつて本は1冊を吟味して買い、何度も大切に味わったものだった。
今、大型書店でうず高く積まれたベストセラーを前に
途方にくれ、何か味気なさを感じる一方で、
最近増えている小さな本のセレクトショップは
我々に心地良さと、未知の世界への誘いを解き放す。
本書でも同じ体験ができる味わうことができる。
著者は書籍が流通において「貨幣化」していることや、
ベストセラー偏重の出版広告展開、
また人が本に求めているものも
「考える動機探し」から「答え探し」へ変化していることに
触れようとして、あえて留まる。
本書はあくまでも読書や本へのオマージュなのだ。
「書物というものは、一見どうでも良いと思えるようなことであっても、
それに捧げられた熱を受け入れる器として優れた包容力を持つ。
著者以外の誰かがその本を開くことで、その熱は伝搬する。」
「本を読む人たちだけが共有できる密かな悦びというものは
確かにあると僕は思う。
何かを読むことによって、どこかに引っ張り出され、
未知との遭遇を果たし、
笑ったり、怒ったり、どきどきしたり、
泣いてみたりして。
そしてそんなささやかな感触を自分の中にしまいながら、
日々を過ごす「本を読む人」に何かいいことがおこればいいなと
僕は心から願う。」
と言って締める。
タイトルとは裏腹に
本に対する愛と、
失われつつある読書に対する愛惜に溢れた一冊。
一気通読、最高の読後感でした。

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本なんて読まなくたっていいのだけれど、 単行本(ソフトカバー) – 2014/12/16
幅 允孝
(著)
本というメディアの力を信じ、本と人が出会うための環境づくりを生業とする幅允孝さん。デパート、カフェ、企業ライブラリー、はたまた病院にまで、好奇心くすぐる本棚をつくってきた。漫画、写真集、文学、料理……あらゆるジャンルの本を読み、どうやって人に勧めようかと考えている。図書館のなかにテーマ別の図書館をつくってみよう。ミュージシャン顔負け、朗読の野外フェスを開催。認知症患者が手に取る本は? 地方の温泉街を文学の町として復活!? 幅允孝の挑戦は今日も続く。待望のエッセイ集。
- 本の長さ336ページ
- 言語日本語
- 出版社晶文社
- 発売日2014/12/16
- 寸法18.8 x 2 x 12.8 cm
- ISBN-104794968582
- ISBN-13978-4794968586
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商品の説明
著者について
幅 允孝(はば・よしたか)
1976年愛知県津島市生まれ。BACH(バッハ)代表。ブックディレクター。未知なる本を手にしてもらう機会をつくるため、本屋と異業種を結びつけたり、病院や企業ライブラリーの制作をしている。代表的な場所として、国立新美術館SOUVENIR FROM TOKYOやBrooklyn Parlor、伊勢丹新宿店ビューティアポセカリー、CIBONE、la kaguなど。その活動範囲は本の居場所と共に多岐にわたり、編集、執筆も手掛けている。愛知県立芸術大学非常勤講師。
著書に『幅書店の88冊』『つかう本』。『本の声を聴け ブックディレクター幅允孝の仕事』(高瀬毅・著)も刊行中。
www.bach-inc.com
1976年愛知県津島市生まれ。BACH(バッハ)代表。ブックディレクター。未知なる本を手にしてもらう機会をつくるため、本屋と異業種を結びつけたり、病院や企業ライブラリーの制作をしている。代表的な場所として、国立新美術館SOUVENIR FROM TOKYOやBrooklyn Parlor、伊勢丹新宿店ビューティアポセカリー、CIBONE、la kaguなど。その活動範囲は本の居場所と共に多岐にわたり、編集、執筆も手掛けている。愛知県立芸術大学非常勤講師。
著書に『幅書店の88冊』『つかう本』。『本の声を聴け ブックディレクター幅允孝の仕事』(高瀬毅・著)も刊行中。
www.bach-inc.com
登録情報
- 出版社 : 晶文社 (2014/12/16)
- 発売日 : 2014/12/16
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 336ページ
- ISBN-10 : 4794968582
- ISBN-13 : 978-4794968586
- 寸法 : 18.8 x 2 x 12.8 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 492,933位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 14,775位エッセー・随筆 (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2015年2月14日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2019年5月30日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
"人が本屋さんに来ない昨今、書物が人の生活に近づいていく必要を僕はつよく感じていた。"著名なブックディレクターである著者の各誌での連載を加筆修正した本書は、様々なテーマで本がセットリスト風に紹介されていて、多重なレイヤーで、読書の魅力を紹介してくれる。
個人的にも、読書する一人として、また著者と同じく"広い意味での本"をどうやって【忙しい現代人】に近づけていくかを試行錯誤している本屋の一人として、優しく肩の力を抜いて"本を読むのは、いつか芽の出るかわからない遅効の種を蒔くようなこと。"と伝えてくる本書には何だか勇気づけられるような、そんな心地よい読後感でした。
読書が好きで、つい誰かに本をオススメしたくなる誰かに。またブックディレクターという仕事に関心のある誰かにもオススメ。
個人的にも、読書する一人として、また著者と同じく"広い意味での本"をどうやって【忙しい現代人】に近づけていくかを試行錯誤している本屋の一人として、優しく肩の力を抜いて"本を読むのは、いつか芽の出るかわからない遅効の種を蒔くようなこと。"と伝えてくる本書には何だか勇気づけられるような、そんな心地よい読後感でした。
読書が好きで、つい誰かに本をオススメしたくなる誰かに。またブックディレクターという仕事に関心のある誰かにもオススメ。
2014年12月30日に日本でレビュー済み
ブックディレクター幅充孝氏の本の紹介本。
とにかく登場する本のジャンルが半端なくて凄い!
あしたのジョー、村上春樹からセバスチャン・サルガドの写真集、ジョナサン・サフラン・フォアの穴あき本「Tree of codes」まで、あらゆる分野を網羅している。
日常生活の1場面を織り込みながら、それらに触れている。本に興味がない人でも楽しめるかも知れない。
ほほう、と思ったのは、本の紹介とは無関係のp292「電子書籍の使い心地」という小文。
電子書籍に対するニュートラルな姿勢。出版社側の都合でなく、読み手が主役であるべきだと述べた上で、電子書籍で読み終えた本でも、再読したい本は紙の本で買い直している。「もの」としての本があると安心するので、近い将来、紙の本棚が「神棚」かするかも知れないという下りが興味深い。
とにかく登場する本のジャンルが半端なくて凄い!
あしたのジョー、村上春樹からセバスチャン・サルガドの写真集、ジョナサン・サフラン・フォアの穴あき本「Tree of codes」まで、あらゆる分野を網羅している。
日常生活の1場面を織り込みながら、それらに触れている。本に興味がない人でも楽しめるかも知れない。
ほほう、と思ったのは、本の紹介とは無関係のp292「電子書籍の使い心地」という小文。
電子書籍に対するニュートラルな姿勢。出版社側の都合でなく、読み手が主役であるべきだと述べた上で、電子書籍で読み終えた本でも、再読したい本は紙の本で買い直している。「もの」としての本があると安心するので、近い将来、紙の本棚が「神棚」かするかも知れないという下りが興味深い。