安斎さんは東京大学の原子炉工学の第一期生で、
元の専門は放射線防護学ですが、
序文で題名を「原発事故の理科・社会」とした理由を書いています。
本書で言う「理科」は放射線の健康被害に関しての知識ですが、
著者によると、原発が設置された政治的経済的な経緯に関して、
人々の関心は総じて低く、
そのことは「危険なこと」であると感じられたため、
社会科学的な側面も強調する意味で「社会」と名付けたということです。
同じ著者の最近再発行された「原発と環境」は
放射線に関する部分だけでもかなり詳細で、面白いと思います。
放射線だけに限ると「家族で語る 食卓の放射能汚染」も
解りやすい本です。
この本はとても薄い本なので、結論だけ知りたい場合は、
そういう用途にはよいのかもしれません。
最近再発行された「原発と環境」もそうですが、
安斎さんの本は意外と写真が多いと思います。
しかも、その写真がとても面白いです。
安斎さんは幼少時に福島県に住んでいたらしく、
福島県のある保育園の放射線防護に協力しているようなのですが、
保育園の運動場の写真が載っています。
写真をみるとペットボトルが周囲をぐるりと覆っています。
水がガンマ線などの遮蔽に使えて、美観上も違和感が無いので利用しているようです。
たぶん土を削ったのだろうと思いますが、
写真が状況を物語っています。
あるいは双葉町を写した写真ですが、
「明日の双葉地方をひらく会」というポスターが写っていて、
「われわれの力で原発建設を促進し、豊かな双葉地方を開いてゆこう」と書いてあります。
この本の記述で個人的に注目したのは、
原子力損害賠償法についての解説です。
アメリカでブルックヘブン報告という
最大規模の原子力災害を見積もる報告書が作られました。
それに影響を受けて損害賠償に関する法的規定を定める
プライスアンダーソン法という法律が作られます。
これの問題は、電力会社の賠償責任が有限になるということです。
日本の原子力損害賠償法も同じ問題を背負っています。
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