一流のミュージシャンはカテゴリーのことは全く考えていないと思う。(省略)ロバート・グラスパーの音楽を言葉で表現出来るかい?僕には出来ないね。どんなものかはわかっているし、ヒップホップに影響されたジャズであることもわかっているけど、それを何と呼べばいいのかわからないよ。言葉なんかないんだ。(ドン・ウォズ/112頁より)
2010年代のジャズをめぐる音楽の、現在起こっている新しい動きが知りたい方に真っ先に推薦したいシリーズ第四弾となるムック『ジャズ・ザ・ニュー・チャプター4』です。一部にゲスト執筆者が寄稿していますが、基本的にほぼ監修者である柳樂光隆さんのまるごと本と言っても過言ではない、恒例にして圧巻の内容です。ディープなリスナーの誰もが情報の欲しかった気鋭のアーティストのインタビューを大々的に取り上げていて、なおかつ最近リリースされた周辺の注目すべきアーティストや作品が贅沢にも堂々と紹介されてある手際よさに驚きます。
何よりも彼を取り巻く批評の質が極めて高いです。真面目で学究的な色合いが濃厚で、ひたすら地道に最前線にある音楽を分析追求し、それに対して現在の視点を提示する力量は凄く、これだけきちんとしたことを惜しみなく掲載しているのは称賛すべきでしょう。対談や鼎談、そしてアーティストへのインタビューを通して浮かび上がってくるものを見事に処理しています。
まず紹介のアルバムですが、帯には150枚のディスク評とあるように、デヴィッド・ボウイからベッカ・スティーヴンス、アントニオ・ロウレイロなどの話題作をはじめ、或いはコリン・ヴァロンやクレイグ・テイボーン、テオ・ブレックマンといったECMの最新作からの必聴や大傑作も含まれる、新定番~ネオソウル~新ブラジル音楽~ブルーノート2015 - 2017~ジャズとプログラミングミュージックが各章の合間に紹介されています。その中には、本編でインタビューのある宮崎大さん、彼の参加したキリアム・シェイクスピアのように現在ではフィジカルで入手可能な自主制作盤も掲載されています。柳樂さんのディスクレビュー担当分は以下の通りです。
カミラ・メサ『トレーシス』2016
デヴィッド・ボウイ『ブラックスター』2016
シャイ・マエストロ・トリオ『ザ・ストーン・スキッパー』2016
クリストファー・ズアー・オーケストラ『ミュージングス』2016
ニック・ベルチュ『コンティニューム』2016
ウォルフガング・ムースピール『ライジング・グレース』2016
コリー・ヘンリー『ザ・リヴァイヴァル』2016
スナーキー・パピー『ファミリー・ディナー Vol.2』2016
ビラル『イン・アナザー・ライフ』2015
キリアム・シェイクスピア 2015
カート・ローゼンウィンケル『カイピ』2017
リカルド・グリーリ『1954』2016
チャールス・ロイド&ザ・マーヴェルス 2016
グレゴリー・ポーター『希望へのアレイ』2016
ローガン・リチャードソン『シフト』2016
ドクター・ロニー・スミス『エヴォリューション』2016
ネルス・クライン『ラヴァーズ』2016
ロバート・グラスパー・エクスペリメント『アートサイエンス』2016
ヤロン・へルマン『エヴリディ』2015
コモン『ブラック・アメリカ・アゲイン』2016
サンダーキャット『ドランク』2017
ジョセフ・ライムバーグ『アストラル・プログレッションズ』2016
本書にはその他のディスク評など、精鋭18名が執筆に名を連ねています。主なコラムは以下の見出しになります。括弧のないものは柳樂さんによる原稿です。
顕著になってきたレイト70s~80sフュージョン再評価の流れ
拡張される管楽器の可能性 ~進化を促すプレイヤーたちの動き
ヒストリー 2000年前後のネオソウル世代から現在までの流れ(本間翔悟)
カーク・フランクリンとゴスペル/ジャズ/ネオソウルをめぐる考察
現代ジャズの最前線と共振し進化する、ブラジルの注目すべきミュージシャン達(江利川侑介)
ミナス新世代の台頭で浮き上がったエルメートの血脈(高槁健太郎)
ブルーノートが目指すアメリカ音楽の再提示と継承
アルバムレビュー デイ・ブレイクス by ノラ・ジョーンズ
Qティップ/ア・トライブ・コールド・クエスト(原 雅明)
鍵盤楽器に対するアプローチの変化は、ジャズの形をどのように変えてきたのか?
ベース・ギターとシンセ・ベースの新たな可能性(唐木 元)
会心作『レジーナ』に見るグラウンドアップのレーベル哲学
次に、柳樂さん自らが行ったインタビューは以下の通りです。ごく一部で原さん(※)や本間さん、通訳と同席し、行った日時は特に附されていません。因みに、サンダーキャットをフィーチャーした最新号の、CDジャーナルに掲載のカート・ローゼンウィンケル『カイピ』の記事は同インタビューから編集されていますが、本書はより詳細な内容になっています。
ロバート・グラスパー
カリーム・リギンス ※
ロイ・ハーグローヴ
レイラ・ハサウェイ
ビラル
クリスチャン・マクブライド
マックスウェル
ミュージック・ソウルチャイルド
ジル・スコット
デリック・ホッジ
ジェイムス・ポイザー
宮崎 大
カート・ローゼンウィンケル
ペドロ・マルチンス
アントニオ・ロウレイロ
ドン・ウォズ
イーライ・ウルフ
リオーネル・ルエケ
バッドバッドノットグッド
ニーボディ&デイデラス
ジェイムスズー ※
ロバート・グラスパー(2016年12月)
フレッド・ハーシュ
ダヴィ・ヴィレイジェス
ビッグユキ
宮川 純
ベッカ・スティーヴンス
今回のジャズ・ザ・ニュー・チャプター(JTNC)シリーズでは、原雅明~高橋アフィさんを迎えた巻頭鼎談「アプローチの変化から探る<ジャズ>の現在地点」と並んで、アメリカ音楽をもっと知るためのトークセッション「フィラデルフィアから紐解くブラック・アメリカの“今”」と題する大和田俊之さんとの対談が非常に面白いです。グラスパーのゴスペル的な要素について、宮川純さんの話も一読すべきでしょう。またグラスパーが語るレニー・トリスターノの魅力を受けて、柳樂さんがグラスパー以降のジャズピアノの聴き方としてトリスターノの重要性で締め括り、他にもリオーネル・ルエケの独創的な音楽スタイル、ビッグユキの圧巻のベース観など、読者にとって新鮮な記事が各所に見つかるように思います。わけても、宮崎大さんの語る、チャック・トリースのフィラデルフィアの都市伝説まで話題にするくだけた入りやすさが良いです。
ディアンジェロとかがやってる、もたってるドラムのビートあるじゃないですか。J・ディラっぽかったりもするんですけど、あれは実はそいつが作ったっていう伝説がフィリーにはあります。(79頁より)
本書の音楽はいずれも演奏や音楽自体がひとつの思想を具現化したものであり、わからない要素に満ちています。ここでは、今の彼らに何が起こっているのか、音源だけでは理解できない事柄の手がかりが掴める貴重な発言から裏話まで諸々が集録されています。それらに何らかの付加価値を見いだせるとき、読者にとって大変頼りになるムックに編集されていると思います。冒頭の引用に抗って、如何に伝えるかを試行錯誤してきたJTNCです。幅広い音楽ファンへ、より言葉を尽くした、表現の更なる精度と信頼の獲得に向かって、今後もシーンを牽引していって欲しいと思います。

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Jazz The New Chapter 4 (シンコー・ミュージックMOOK) ムック – 2017/3/8
柳樂 光隆
(監修)
R&B、ヒップホップ、ゴスペル、ブラジル音楽、フォーク etc. と反応し進化と拡大を続けるジャズの現在地点!
毎号重版を続ける話題のムック、第4弾が遂に登場! 今や現代の音楽シーンを左右する一大潮流となった“ジャズ"の最突端で今、何が起きているのかを、詳細なテキストと計150枚のディスク評で徹底検証。
ジャズを活性化したネオソウルとの蜜月を改めて紐解く一方、ジャズを触媒として生まれた新たな潮流にも目を向け、脈打ち続けるジャズの「今」を深く掘り下げます。
●巻頭鼎談:ジャズの現在地点(原雅明×高橋アフィ×柳樂光隆)
●黒人音楽の現在を語る(大和田俊之×柳樂光隆)
●何故、フィラデルフィアなのか? 縁のアーティスト8名の証言を手がかりに、ネオソウルとジャズの化学反応を生んだ音楽都市の真相に肉薄
●現代ジャズを通過して生まれた“新しいブラジル音楽"
●ドン・ウォズ、イーライ・ウルフが語る“新生ブルーノート"の軌跡
●他にも「ジャズ・ミーツ・プログラミング」「ピアノ/オルガン・ジャズ再考」「ベッカ・スティーヴンスとスナーキー・パピー周辺」など、多角的な考察が満載
毎号重版を続ける話題のムック、第4弾が遂に登場! 今や現代の音楽シーンを左右する一大潮流となった“ジャズ"の最突端で今、何が起きているのかを、詳細なテキストと計150枚のディスク評で徹底検証。
ジャズを活性化したネオソウルとの蜜月を改めて紐解く一方、ジャズを触媒として生まれた新たな潮流にも目を向け、脈打ち続けるジャズの「今」を深く掘り下げます。
●巻頭鼎談:ジャズの現在地点(原雅明×高橋アフィ×柳樂光隆)
●黒人音楽の現在を語る(大和田俊之×柳樂光隆)
●何故、フィラデルフィアなのか? 縁のアーティスト8名の証言を手がかりに、ネオソウルとジャズの化学反応を生んだ音楽都市の真相に肉薄
●現代ジャズを通過して生まれた“新しいブラジル音楽"
●ドン・ウォズ、イーライ・ウルフが語る“新生ブルーノート"の軌跡
●他にも「ジャズ・ミーツ・プログラミング」「ピアノ/オルガン・ジャズ再考」「ベッカ・スティーヴンスとスナーキー・パピー周辺」など、多角的な考察が満載
- 本の長さ176ページ
- 言語日本語
- 出版社シンコーミュージック
- 発売日2017/3/8
- 寸法25.7 x 18.2 x 2 cm
- ISBN-104401643615
- ISBN-13978-4401643615
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登録情報
- 出版社 : シンコーミュージック (2017/3/8)
- 発売日 : 2017/3/8
- 言語 : 日本語
- ムック : 176ページ
- ISBN-10 : 4401643615
- ISBN-13 : 978-4401643615
- 寸法 : 25.7 x 18.2 x 2 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 533,232位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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1979年島根県出雲市生まれ。
出雲高校~東京学芸大学卒。
珍屋レコード、ディスクユニオンへの勤務を経て、2000年代末から音楽評論家。DJ・選曲家、ラジオ・パーソナリティ。
ジャンルを問わず幅広い音楽に関するテキストを中心に新聞、雑誌、ウェブメディアなどに執筆。専門はジャズ。
現在進行形のジャズを紹介したガイド・ブック『Jazz The New Chapter』シリーズや、マイルス・デイビスを再考した『Miles Reimagined』の監修。共著に後藤雅洋、村井康司との鼎談集『100年のジャズを聴く』。ライナーノーツも多数。
『Jazz The New Chapter』のコンピレーション、ジャズの名門ブルーノートの公式コンピレーション『All God's Children Got Piano』、スナーキー・パピーのマイケル・リーグが運営するレーベルの公式コンピレーション『Ground UP×CORE PORT』など、選曲も多数。
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