たいへん読みやすく穏やかな語りで楽しい読書だったが、しかし、内容は深く刺激を受けた。
鈴木氏自身も語っているように、わが国では思想家も流行として消費される傾向が強く、いまはサルトルのサの字も耳にしないぐらいだが、なにしろ若手の研究者だった時代にサルトルやボーボワールと交流があり、来日時には知識人との面談の通訳として駆り出されたぐらいなので、何か時代の空気のようなものを伝えてくれている。
しかも、最初の講演はかつてそこの館長を務めた獨協大の新図書館の落成記念講演、ふたつめは短歌の会「潮音」で行った「散文は歩行、詩はダンス」というヴァレリーのことばに象徴される、いわば本とか、文学をめぐるなるほどという平易な話が語られる。もっとも、ヴァレリーなどと気安くここに書いたぼくは文学にはまったく不案内な人間だけれど、ボードレール、ラマルメ、ランボーからプルーストといった詩人、作家たちに簡潔で見通しの良い記述があって、なんだか少しフランス文学に近づけたような気分。
そしてサルトル。肩のこらない講演でエピソードを語っているけれども、読み終わると、彼の課題は「マルクス主義」と「実存主義」の統合だったのだということがはっきりわかり、「ネコをネコと書くのが文学者の仕事」という半世紀前の彼のことばが、わが国の現在の政治・行政、あるいはジャーナリズムの現状に対するストレートかつ本質的な批判になっていることに感じ入らずにはいられない。
鈴木氏が在日朝鮮人に対する差別の問題に深く関わるようになったのは、ご推察の通りフランスでの研究の中でアルジェリア独立戦争に同時代において関わり、そのような中でサルトルたちがはじめは全く少数者だったにもかかわらず「私はアルジェリア独立運動の側に立つ」という態度を示していたことの影響が大きいだろう。
ぼくにとっては名前しか知らなかった小松川事件や、子ども時代に意味はよくわからなかったけれどインパクトを感じた金嬉老事件が紹介されるが、講演の限られた時間の制約で、極めて簡潔な紹介になっているのが読者にとってま好都合で、優れたサマリーを提供されることになる。
このことについての鈴木氏の結論は明快で、シュレーダー独首相(当時)がドイツ人について語ったのと同様、日本人が日本人として生きていくためには、そのアイデンティティーに前の世代の侵略や植民地支配への反省がしっかり組み込まれていなければならないというものだ。
鈴木氏の平易な落ち着いた語りで展開される講演録を読み進めることで、そのことに大いに納得した。
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余白の声 文学・サルトル・在日 鈴木道彦講演集 単行本 – 2018/3/10
鈴木道彦
(著)
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プルーストの研究家・翻訳家でありサルトリアンでもある、鈴木道彦氏の講演六編を収録。 ボルヘスと図書館の話に始まる講演は、専門のフランス文学、マラルメやヴェルレーヌ、ランボー、そしてプルーストからサルトルへ展開されます。文学のあるべき姿と作家の関係、作家のとるべき態度と社会の関係が語られ、読者はやがて、それら二つの関係が交差する、アンガージュマン文学の成り立ちへと導かれるでしょう。 「なぜフランス文学の泰斗が、在日問題を?」との疑問に応える、“余白を埋める"一冊でもあります。
- 本の長さ224ページ
- 言語日本語
- 出版社閏月社
- 発売日2018/3/10
- 寸法18.8 x 12.8 x 1.6 cm
- ISBN-104904194055
- ISBN-13978-4904194058
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商品の説明
出版社からのコメント
日本とフランス、文学と社会、歴史と責任……六編の講演録が相互に照応し、ゆるやかに共振を始める──〈越境する知識人〉が語る、後世へ向けたマージナル・ノート
著者について
鈴木道彦(すずき・みちひこ) 1929年東京生まれ。1953年東京大学文学部卒業。フランス文学専攻。著書『サルトルの文学』(紀伊國屋書店、1963、精選復刻版、1994)、『アンガージュマンの思想』(晶文社、1969)、『政治暴力と想像力』(現代評論社、1970)、『プルースト論考』(筑摩書房、1985)、『異郷の季節』(みすず書房、1986、新装版、2007)、『越境の時』(集英社、2007)、『マルセル・プルーストの誕生─新編プルースト論考』(藤原書店、2013)、『フランス文学者の誕生 マラルメへの旅』(筑摩書房、2014)ほか。訳書にファノン『地に呪われたる者』(共訳、みすず書房、1968)、ニザン『陰謀』(晶文社、1971)、サルトル『嘔吐』(人文書院、2010)、『家の馬鹿息子』1、2、3、4(共訳、人文書院、1982、1989、2006、2015)、プルースト『失われた時を求めて』全13巻(集英社、1996〜2001)ほか。
登録情報
- 出版社 : 閏月社; 初版 (2018/3/10)
- 発売日 : 2018/3/10
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 224ページ
- ISBN-10 : 4904194055
- ISBN-13 : 978-4904194058
- 寸法 : 18.8 x 12.8 x 1.6 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 519,187位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 474位論文集・講演集・対談集
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2018年5月17日に日本でレビュー済み
2022年1月1日に日本でレビュー済み
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サルトル、プルースト、マラルメ、F・ファノンの訳者・研究者として知られる著者が行なった6回の講演集で、サルトルとアルジェリア問題、在日コリアンへの著者の関心を語った部分が印象的である。世界に植民地を設けたイギリスほどではないにしても、フランスもアフリカ、北米、カリブ海と太平洋、ベトナムなどに植民地を設け、そのつけを第二次大戦後に払ってきたが、今なおマグレブなどからの移民問題が終わったわけではないし、イスラムのテロの可能性もまだ残っている。
アルジェリアは1954年から民族解放戦線の武装反乱が始まり、1962年に独立する。ドゴールのフランスは弾圧するが、サルトルは独立を支持して言論を展開する。そのサルトルに関心をもった著者はやがてサルトルに出会い、その真価を評価する。サルトルがなぜ偉大なのか、本書ではその理由が簡潔に語られている。
アルジェリアは1954年から民族解放戦線の武装反乱が始まり、1962年に独立する。ドゴールのフランスは弾圧するが、サルトルは独立を支持して言論を展開する。そのサルトルに関心をもった著者はやがてサルトルに出会い、その真価を評価する。サルトルがなぜ偉大なのか、本書ではその理由が簡潔に語られている。