(記事内で取り上げられている映画の題名を記載していますので要注意。)
2010年に亡くなられた映画評論家日野康一氏(映画のスチールをメインに数行の解説を添付したカンフー、ホラー、ショッカー映画本を多く執筆された)トリビュートを高々と宣言した序文から解る様に執筆陣が観賞し衝撃を受けた作品中心に編まれたムックです。
執筆陣と本コーナーの記事名を観て、ピンと来た方には大いにお薦め致します。
但し全体を読むとサイレントや30-50年代のユニバーサル・ホラー、英国ハマー・フィルムやAIP、邦画50-60年代は意識的に割愛しながらも、50年代から現在へと連綿と続くモダン・ホラーを時系列的に浮かび上がらせる事にもある程度成功しています。
(本コーナー記載の目次と若干異なっていますが本書内の記述を参照させて頂きました)
第一章 モダン・ホラー前夜 残酷と恐怖の夜明け
1.中原昌也氏:『顔のない眼』とグラン・ギニョール
最近のフレンチ・ホラーに対する苦言含みの孤高の傑作『顔の無い眼(60年)』評。
2.伊藤美和氏:『恐怖の足跡』~死人があとをついてくる
ホラー映画の「あるジャンル」の嚆矢である『恐怖の足跡(62年)』と同分野の映画について取り上げる。
3.柳下毅一郎氏:ウィリアム・キャッスルのホラーシアター 子供のための恐怖映画
ジョー・ダンテ監督が愛情たっぷりに映画『マチネー(93年)』のモデルとしたキャッスル映画について。
『地獄へつゞく部屋(59年)』、『ティングラー/背すじに潜む恐怖(59年)』、『13ゴースト(60年)』、
『ミスター・サルドニカス(61年)』、『大三の犯罪(61年)』
4.中原昌也氏:1968年革命とモダンホラー映画
ポランスキー『ローズマリーの赤ちゃん』を境にモダン・ホラーにシフトした映画界について。
『ヘルター・スケルター』、『生ける屍の夜』も。
特別対談:江戸木純氏×岩本克也氏 『エクソシスト』は教室で事件になった! 映画小僧たちの恐怖映画遍歴
29頁、2段組みの最大ボリュームで語られる少年時代教室で語られたホラー映画に付いての対談。
第二章 1970年代、ショックがいちばん。
5.中原昌也氏『ソドムの市』と『ヤコペッティの大残酷』~フランス恐怖文学が現代に蘇る
小説家でも有る中原氏が西欧文学のスキャンダラスな映画化作品について述べる。
6.結城らんな氏:香港映画のモダン・ホラー。
とてもエグそうな香港の最近ホラー事情。
7.山崎圭司氏」イタリア恐怖映画界の至宝、マリオ・バーヴァが仕掛けた恐怖(ショック)
個人的にティム・ルーカスの大著『Mario Bava:All the Colors of the Dark.』邦訳を強く望んでいる者ですが、バーヴァ後期の傑作『血みどろの入江』以降はスタジオから追い出された彼の意地と苦肉の策であった事が解り大変参考になりました。
8.伊藤美和氏:再評価『悪魔の墓場』
ユーロゾンビ初期の傑作について。フェルナンド・ヒルべックを始めとした少数精鋭のゾンビ俳優にも触れています。
9.岩本克也氏:恐怖!欧州犯罪 恐いユーロ・クライム映画
ホラーではないですが観た後に心にポッカリと穴が空くような殺伐とした印象の映画が多いです。
しかしヘンリー・シルヴァの出演率が高いですね。
10.真魚八重子氏:翔んでる女が堕ちるとき
一般名画とされている「ミスター・グッド・バーを探して(77年)」、『恋の罪(11年)』『追憶(73年)』『ローズ(79年)』に潜む女性の陥穽を。
11.中原昌也氏:さまよえる独身者~『マニアック』再評価
アバタ面の怪名優、ジョー・スピネル(『ロッキー』『ナイトホークス』『スタークラッシュ』『クルージング』執念の怪作をピックアップ。
12.日野康一トリビュート 恐怖!映画スチールの世界。
少年向けの分厚いホラー・怪奇本でスチール重視の映画紹介本を多数執筆していた日野氏へ捧げたスチール&一言評論集。
『生血を吸う女(60年)』、『骸骨面(61年)』、『顔の無い殺人鬼(63年)』、『反発(64年)』『タランチュラ(70年)』、『追想(76年)』、『炎のいけにえ(75年)』、『呪われたジェシカ(71年)』、『見えない恐怖(71年)』、『アンデスの聖餐(76年)』、『太陽の爪あと(67年)』、『ザ・カー(77年)』『革命の河(65年)』、『アンディ・ウォーホールのBAD(77年)』、『魔鬼雨(76年)』
素晴らしい内容です。
これをより徹底して原色で行ったのが監督でもあるジョン・ランディスが編んだ『モンスター大図鑑(13年日本版発売)』であることが改めて解ります。
第三章 1980年代ビデオ時代以降、恐怖映画のビッグバン
13.岡本敦史氏:中断された物語の不気味さ~『トワイライト・ゾーン/超次元の体験』
14.山崎圭司氏:たかが映画じゃないか。ウェス・クレイヴンは現実の恐怖と向き合う
15.伊藤美和氏:邪悪なエド・ウッド イタリア猟奇映画職人、ジョー・ダマトを再評価
16.中原昌也氏:ポール・シュレイダーの怪しい恐さ
17.加藤よしき氏:再評『死霊の罠』
18.高橋ヨシキ氏:デイヴィッド・リンチと『飛び上がるような恐怖』その不気味に煤けた顔に怯える理由
19.岡本敦史氏:押井守は卵を壊す恐怖映画としての『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』
20.恐怖のビデオショップ『ビデオマーケット戦記』
1)継田淳氏: ゴミ輸入ビデオの中から見つけた『とむらいレストラン』
2) 継田淳氏:ドリス・ウィッシュマン監督『ナイト・トゥ・ディスメンバー』で炎上!
3) 継田淳氏:孤高の天才監督・藤原章の『人糞作戦』をリリース!
4)涌井次郎氏:731部隊の蛮行をロシア人監督が追跡!『ナイフの哲学』
5)涌井次郎氏:あまりにエグすぎる変身シーンが伝説となった80年代の忌まわしい未公開作『戦慄!呪われた夜』
6)80年代終わりに突如現れたアメリカン・ニューシネマの残骸『ワイルド・ボーイ(Sonny Boy)』
21.I WANT YOU トラウマ特訓 フルメタル恐怖映画道場(トラウマをさらけ出せ! 私の恐怖映画原体験コレクション)巻中企画
1)屍エージロウ屍氏:お化けにまつわるエトセトラ『サスペリア Part2』(75年)
2)笹ピ あいこ氏:私のトラウマ・モダンホラーは『バンデットQ』(81年)
3)沙さ綺ゆがみ(ささきゆがみ)氏:自己破壊を目指す「ゾンビの墓場」改め『墓地裏の家』(81年)
4)片刃(かたは)氏:生きた匂いが感じられない『ファニーゲーム』(97年)が最高に恐い
5)UE神(ウエシン)氏:切断された指、悪魔の虫に変身する『ファンタズム』(79年)が開いた恐怖の扉
6)花俟良王(はなまつりょお)氏:『ポゼッション』(81年)で込み上げたもの
第四章 恐怖の根源~フォビアの世界 強迫観念を刺激する映画
22.桜井雄一郎氏:『ボディ・スナッチャー』恐怖の変遷
リメイクを含む4作の紹介・比較。
23.ナマニク氏:Don't映画にドン!と挑戦。一世を風靡した恐怖映画「DON’T映画」を全部観る!
1)Don’t Torture a Ducking.(『マッキラー』72年)
2)Don’t Be Afraid of The Dark. (『地下室の魔物』73年)
3) Don’t Look in The Basement.(『ベイスメント院内感染殺人』73年)
4) Don’t Look Now.(『赤い影』73年)
5) Don’t Hang Up.(未公開 74年)
6) Don’t Go Near the Park.(未公開 79年)
7) Don’t Go in the House.(『恐怖の火あぶり』79年)
8) Don’t Answer the Phone! (『レイプ魔の標的』80年)
9) Don’t Go in The Woods Alone! (『陰獣の森』81年)
10) Don’t Go To Sleep. (未公開 82年TVM)
11) Don’t Panic.(『ショック・ザ・ナイトメア/異次元の悪夢』87年)
24.小山 正氏:得体の知れない世界が迫ってくる
『プロフェシー(02)』、『ウィッカーマン(73年)』、『デビルナイト(72年)』、『霊的ボルシェヴィキ(18年)』。
25.黒木あるじ氏:ドキュメンタリーは恐怖だ!
『ジ・エンパイヤ・イン・アフリカ(06年)』、『ビルマVJ 消された革命(08年)』、『くすぐり(16年)』、『イカロス(17年)』、『人間蒸発(67年)』
25.てらさわホーク氏:エロいと思ったら怖かった~青少年の心に消えない傷を刻んだ映画たちについて~
『白蛇抄(83年)』、『メイク・アップ(77年)』、『スキャンダル・愛の罠(85年)』『ポゼッション(81年)』
26.真魚八重子氏:見えない恐怖 放射能描写に感じる不安
『キッスで殺せ』『ミッション・インポッシブル/フォールアウト』、『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』にスチールと冒頭で触れ、『ナイトブレーカー(89年TVM)』、『K-19(02年)』、『ザ・デイ・アフター(83年TVM)』、『テスタメント(83年)』を大きく取り上げています。
27.山崎圭司氏:本当に怖い奴は「絶対に謝らない」
ジョエル・エルガートン監督・製作『ザ・ギフト(15年)』
スウェーデンの鬼才、リューベン・オストルンド監督『フレンチアルプスで起きたこと(14年)』、『ザ・スクェア 思いやりの聖域(17年)』
27.岡本敦史氏:活劇派監督が描く「怖い女」
イーストウッドとアルドリッチが監督(出演)した怖い映画について。
『白い肌の異常な夜(71年)』、『恐怖のメロディ(71年)』、『ダーティーハリー4(83年)』、『何がジェーンに起こったか?(62年)』、『甘い抱擁(68年)』、『女の香り(Legend of Lylah Clare. 68年)』
28.日本の若手ホラークリエイター・アンケート「あのシーンが、怖かった」
1)朝倉加葉子氏『スウィートホーム(89年)』
2)うぐいす祥子氏『魔夏少女(87年TVM)』
3)大畑創氏『蛇の道(98年)』
4)加藤麻矢氏『屋根裏部屋の花たち(87年)』
5)坂元裕吾氏『ウォーリーを探さないで(ネットでみたフラッシュ映像)』
6)佐藤周氏『リング0~バースデイ~(00年)』
7)内藤瑛亮氏『4人の食卓(03年)』『ザ・ブルード/怒りのメタファー(79年)』、『ミザリー(90年)』
29.山崎圭司氏:不毛の時代だったのか?新たな黄金期だったのか?90年代恐怖映画を改めて検証する。
ホラースターのポップアイコン化とサイコホラーとメジャースタジオによるホラー映画の台頭と衰退、そして波が有ろうがその国境を越えた普遍性から決してホラーは無くならないで有ろうと。
30.キシオカタカシ氏:世紀末~ハイ・コンセプト・ホラーの誕生
99年の『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』から現代の最新ホラー映画事情と明るい未来を洞察。
スプラット・パックと言われたイーライ・ロス、ジェームズ・ワン・リーワネル、『パラノーマル・アクティビティ(07・09年)』のジェイソン・ブラム、復活したナイト・シャマラン、マンブルゴアのアダム・ウィンガード、ネット発表の短編から長編劇映画監督に上りつめたアンディ・ムスキエティ(『MAMA(13年)』『IT/イット(17年)』、ジョン・クラシンスキー監督『クワイエット・プレイス』とジョーダン・ピール監督『ゲットアウト』、アリ・アスター監督『ヘレディタリー(11月公開予定)』等を縦断的に取り上げています。
最後に
再び『ヘレディタリー 継承(18年11月公開予定)』推し。
・執筆者紹介(難しい読みの方が多かったので仮名を振って頂き助かりました)
・編集後記
執筆陣を拝見する我が国のホラー映画が本編集部とソフト制作会社や輸入盤店、小説家、一部クリエイター、評論家によってささやかに鼓舞されているジャンルの様な気が致しますがそこから世界と繋がるのも又痛快かなと思わせる一冊でした。
ホラー映画に限らず、恐怖・サスペンス映画ファンの方には大いにお薦めです。
一般的にはホラーと見なされない分野から恐怖を掴み取った記事が個人的には気に入りました。
この路線で「攻撃」『プラトゥーン』『カジュアリティーズ』『地下水道』『プライヴェート・ライアン』『炎628』と言った戦争映画の恐怖特集も編んで頂けると幸甚です
次は『サスペリア』で丸々一冊やるとの事で楽しみです。

無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
別冊映画秘宝怖い、映画 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝) ムック – 2018/10/19
オーソドックスな映画ガイドにはもうウンザリだ!
「厭な映画」「謎の映画」「鬱な映画」に続く、映画史のはらわたを覗く禁断の映画特集!
改めて振り返るモダン・ホラー50年の歴史!
目次
第一章 モダン・ホラー前夜 残酷と恐怖の夜明け
『顔のない眼』とグラン・ギニョール映画
死人が追いかけてくる
恐怖のギミック王ウィリアム・キャッスル
1968年、恐怖映画の幕開け
大型対談:江戸木純×岩本克也 映画小僧たちの恐怖映画体験記
第二章 1970年代、ショックがいちばん!
『ソドムの市』と『大残酷』~パゾリーニとヤコペッティ、イタリアの2大巨頭が挑んだ衝撃作
70年代香港モダン・ホラー
ホラー・マイスター、マリオ・バーヴァ、晩年の試行錯誤
日本初のカニバル・ゾンビ映画だった『悪魔の墓場』再評価
残酷! ユーロ・クライム
"翔んでる女"が堕ちるとき
80年代へのブリッジ、孤独な殺人者『マニアック』再評価
恐怖ビジュアル特集 怖い映画スチール
第三章 ビデオ・ブーム以降、加速する恐怖映画
突然、断ち切られる恐怖~『トワイライト・ゾーン』第一話について
これは実話である! 虚構と実際の隙間を突くウェス・クレイヴンの恐怖表現
イタリア残酷職人、ジョー・ダマトも再評価
三島由紀夫に憧れたポール・シュレイダーと『キャット・ピープル』
日本で最初のスプラッター映画『死霊の罠』再見
デイヴィッド・リンチと「飛び上がるような恐怖』
押井守『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』の恐怖表現
新宿の伝説的ビデオショップ、ビデオマーケット20年戦記
トラウマをさらけ出せ! 私の恐怖映画原体験コレクション
第四章 映画恐怖症~なぜかわからないが、とても怖い
人が人でなくなる! 『ボディ・スナッチャー』シリーズを検証
一世を風靡した恐怖映画「DON'T映画」を全部観る!
言葉にならない不気味な映画
ドキュメンタリーこそ最強のホラー
エロいと思ったら怖かった映画
見えない恐怖~放射能はいかにして映画で描かれたか
謝らない人間は怖い
イーストウッドとアルドリッチ~活劇映画人は女性を怖がる
若手クリエイター・アンケート~私を戦慄させた「恐怖映画」その瞬間
90年代、ホラー映画は本当に死んだのか?
世紀末~ハイ・コンセプト・ホラーの誕生
「厭な映画」「謎の映画」「鬱な映画」に続く、映画史のはらわたを覗く禁断の映画特集!
改めて振り返るモダン・ホラー50年の歴史!
目次
第一章 モダン・ホラー前夜 残酷と恐怖の夜明け
『顔のない眼』とグラン・ギニョール映画
死人が追いかけてくる
恐怖のギミック王ウィリアム・キャッスル
1968年、恐怖映画の幕開け
大型対談:江戸木純×岩本克也 映画小僧たちの恐怖映画体験記
第二章 1970年代、ショックがいちばん!
『ソドムの市』と『大残酷』~パゾリーニとヤコペッティ、イタリアの2大巨頭が挑んだ衝撃作
70年代香港モダン・ホラー
ホラー・マイスター、マリオ・バーヴァ、晩年の試行錯誤
日本初のカニバル・ゾンビ映画だった『悪魔の墓場』再評価
残酷! ユーロ・クライム
"翔んでる女"が堕ちるとき
80年代へのブリッジ、孤独な殺人者『マニアック』再評価
恐怖ビジュアル特集 怖い映画スチール
第三章 ビデオ・ブーム以降、加速する恐怖映画
突然、断ち切られる恐怖~『トワイライト・ゾーン』第一話について
これは実話である! 虚構と実際の隙間を突くウェス・クレイヴンの恐怖表現
イタリア残酷職人、ジョー・ダマトも再評価
三島由紀夫に憧れたポール・シュレイダーと『キャット・ピープル』
日本で最初のスプラッター映画『死霊の罠』再見
デイヴィッド・リンチと「飛び上がるような恐怖』
押井守『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』の恐怖表現
新宿の伝説的ビデオショップ、ビデオマーケット20年戦記
トラウマをさらけ出せ! 私の恐怖映画原体験コレクション
第四章 映画恐怖症~なぜかわからないが、とても怖い
人が人でなくなる! 『ボディ・スナッチャー』シリーズを検証
一世を風靡した恐怖映画「DON'T映画」を全部観る!
言葉にならない不気味な映画
ドキュメンタリーこそ最強のホラー
エロいと思ったら怖かった映画
見えない恐怖~放射能はいかにして映画で描かれたか
謝らない人間は怖い
イーストウッドとアルドリッチ~活劇映画人は女性を怖がる
若手クリエイター・アンケート~私を戦慄させた「恐怖映画」その瞬間
90年代、ホラー映画は本当に死んだのか?
世紀末~ハイ・コンセプト・ホラーの誕生
- 本の長さ255ページ
- 言語日本語
- 出版社洋泉社
- 発売日2018/10/19
- ISBN-104800314577
- ISBN-13978-4800314574
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
登録情報
- 出版社 : 洋泉社 (2018/10/19)
- 発売日 : 2018/10/19
- 言語 : 日本語
- ムック : 255ページ
- ISBN-10 : 4800314577
- ISBN-13 : 978-4800314574
- Amazon 売れ筋ランキング: - 112,799位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2018年10月21日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2019年1月7日に日本でレビュー済み
様々な映画評論家・研究者・ライターが雑多な「怖い、映画」について筆をとったコラム集です。
一口に「怖い」映画といっても、取り上げられているジャンルや様式は様々です。四肢や頭部が引きちぎられる凄惨なスプラッター映画や底冷えがする幽霊譚といったホラー映画はもちろんのこと、共産主義の浸食をSFに仮託した作品や、見えない放射能汚染への不安を描いた物、女性の社会進出に対するマチズモのむなしい抵抗噺など多岐にわたります。しかも解題される作品は映画史に未来永劫残るであろうと確信できるものもあれば、時代の徒花(あだばな)としてすでに忘れられてしまったB級作品も多種混じっています。
禍々しい残虐映画については私も鑑賞経験がさほどないので、論考の多くはなかなかついていくことができませんでした。ですが、中には思わず膝を打ったり大きく頷いたりする文章もありました。
イタリアの監督パゾリーニの『 ソドムの市 』(1975年)とヤコペッティの『 大残酷 』(1974年)を論じた中原昌也氏の文章は、両作品が描いた衝撃映像が今やテレビとネットの動画にあふれる時代へと変遷してきたことへと筆を進めます。「70年代の過激は21世紀の日常になったのだ。これを恐怖と呼ばずして、何が恐怖なのか?」と結ぶ文章は、入館料を支払った上でなければ視聴がかなわなかった、劇場の中だけに留めおくことができた恐怖が、社会へと無制限に滲み出していることを巧みに指摘しています。
真魚八重子氏が「翔んでる女が堕ちるとき」と題して綴る文章では、『 ミスター・グッドバーを探して 』(1977年)、『 追憶 』(1973年)』そして『 ローズ 』(1979年)の3本を取り上げて、男に伍して社会に活動の場を求めようとする女たちを、日本の世間が「翔んでる女」と半ば(以上に)揶揄して眺めていたことを端的に指摘し、なおかつ、この3本の作品でそうした女たちが保守的な男たちの「封建的メンタル」と軋轢を生み、そのメンタルに敗れていく物語であることもまた言い当てているのです。
ただ、真魚氏は結論部分で「ここで挙げた映画は、その過渡期に現れた作品である。女性解放が強い形を作り始めて、創作においても自由な女性への罰は正しい行為ではないという認識ができるまでの束の間、翔んでる女はたたき落されたのだ」と記しています。私はこのくだりを読みながら、70年代を現在への「過渡期」とみなすのは少し楽観的すぎるのではないかと危惧を感じました。自分の居場所を「翔んでる女」に侵食されたと感じる男は今も厳然と存在しています。だからこそハリウッドはその匂いを敏感にかぎ取って、常に女を懲罰の対象とする男の愚かさを描き続けています。例えば最近の例でいえば、『 シンクロナイズドモンスター 』(2016年)がSFの形態をとったマチズモ批判の映画であることを、映画評論家の町山智浩氏はその著書『 「最前線の映画」を読む 』(インターナショナル新書)の中で見事に読み解いていますし、昨2018年公開の映画『アリー/ スター誕生』もまた、成功をつかんだ女性に嫉妬する夫の話として3度目のリメイクが行われたくらいですから。
てらさわホーク氏が記す『エロいと思ったら怖かった』は、『 白蛇抄 』、『 メイク・アップ 』、『 スキャンダル・愛の罠 』、『 ポゼッション 』、の4本を論じています。氏がずっと以前に家族から隠れるようにしてテレビやレンタルビデオで見たこの4本には性描写は確かにあるものの、監禁やストーキング、蛸状怪物との性行為など異常事態へと物語が進展していきます。青年のエロティシズムへのあこがれを大いに打ち砕いたさまを氏は軽妙洒脱な文章で綴っていて、なかなか読ませます。
ただ、こちらも結論部分で氏は「セックスが人を狂わせるのか、あるいはもともと狂った人がセックスのおかげでより狂っていくのか、そこは判然としない」と記していますが、これにも私は疑問を感じました。性行為と狂気は因果関係にあるとみなすものではなく、表裏一体のものだと私は思うのです。先日スティーヴン・キングの『 死の舞踏: 恐怖についての10章 』(ちくま文庫)を読んで、ホラー作品とはアポロン的秩序とディオニュソス的混乱とのせめぎ合いを人間に意識させるものだという視座を得ただけに、狂気の世界を描くホラーもセックスもアポロン的世界に対するディオニュソス的な破壊行為だと私は認識するようになっています。ですから、ホラーとセックスとが強烈な親和関係にあるのは無理からぬことだと思うのです。
こんな風に「怖い、映画」についてさらなる思索を私に促してくれる有益な一冊でした。
.
一口に「怖い」映画といっても、取り上げられているジャンルや様式は様々です。四肢や頭部が引きちぎられる凄惨なスプラッター映画や底冷えがする幽霊譚といったホラー映画はもちろんのこと、共産主義の浸食をSFに仮託した作品や、見えない放射能汚染への不安を描いた物、女性の社会進出に対するマチズモのむなしい抵抗噺など多岐にわたります。しかも解題される作品は映画史に未来永劫残るであろうと確信できるものもあれば、時代の徒花(あだばな)としてすでに忘れられてしまったB級作品も多種混じっています。
禍々しい残虐映画については私も鑑賞経験がさほどないので、論考の多くはなかなかついていくことができませんでした。ですが、中には思わず膝を打ったり大きく頷いたりする文章もありました。
イタリアの監督パゾリーニの『 ソドムの市 』(1975年)とヤコペッティの『 大残酷 』(1974年)を論じた中原昌也氏の文章は、両作品が描いた衝撃映像が今やテレビとネットの動画にあふれる時代へと変遷してきたことへと筆を進めます。「70年代の過激は21世紀の日常になったのだ。これを恐怖と呼ばずして、何が恐怖なのか?」と結ぶ文章は、入館料を支払った上でなければ視聴がかなわなかった、劇場の中だけに留めおくことができた恐怖が、社会へと無制限に滲み出していることを巧みに指摘しています。
真魚八重子氏が「翔んでる女が堕ちるとき」と題して綴る文章では、『 ミスター・グッドバーを探して 』(1977年)、『 追憶 』(1973年)』そして『 ローズ 』(1979年)の3本を取り上げて、男に伍して社会に活動の場を求めようとする女たちを、日本の世間が「翔んでる女」と半ば(以上に)揶揄して眺めていたことを端的に指摘し、なおかつ、この3本の作品でそうした女たちが保守的な男たちの「封建的メンタル」と軋轢を生み、そのメンタルに敗れていく物語であることもまた言い当てているのです。
ただ、真魚氏は結論部分で「ここで挙げた映画は、その過渡期に現れた作品である。女性解放が強い形を作り始めて、創作においても自由な女性への罰は正しい行為ではないという認識ができるまでの束の間、翔んでる女はたたき落されたのだ」と記しています。私はこのくだりを読みながら、70年代を現在への「過渡期」とみなすのは少し楽観的すぎるのではないかと危惧を感じました。自分の居場所を「翔んでる女」に侵食されたと感じる男は今も厳然と存在しています。だからこそハリウッドはその匂いを敏感にかぎ取って、常に女を懲罰の対象とする男の愚かさを描き続けています。例えば最近の例でいえば、『 シンクロナイズドモンスター 』(2016年)がSFの形態をとったマチズモ批判の映画であることを、映画評論家の町山智浩氏はその著書『 「最前線の映画」を読む 』(インターナショナル新書)の中で見事に読み解いていますし、昨2018年公開の映画『アリー/ スター誕生』もまた、成功をつかんだ女性に嫉妬する夫の話として3度目のリメイクが行われたくらいですから。
てらさわホーク氏が記す『エロいと思ったら怖かった』は、『 白蛇抄 』、『 メイク・アップ 』、『 スキャンダル・愛の罠 』、『 ポゼッション 』、の4本を論じています。氏がずっと以前に家族から隠れるようにしてテレビやレンタルビデオで見たこの4本には性描写は確かにあるものの、監禁やストーキング、蛸状怪物との性行為など異常事態へと物語が進展していきます。青年のエロティシズムへのあこがれを大いに打ち砕いたさまを氏は軽妙洒脱な文章で綴っていて、なかなか読ませます。
ただ、こちらも結論部分で氏は「セックスが人を狂わせるのか、あるいはもともと狂った人がセックスのおかげでより狂っていくのか、そこは判然としない」と記していますが、これにも私は疑問を感じました。性行為と狂気は因果関係にあるとみなすものではなく、表裏一体のものだと私は思うのです。先日スティーヴン・キングの『 死の舞踏: 恐怖についての10章 』(ちくま文庫)を読んで、ホラー作品とはアポロン的秩序とディオニュソス的混乱とのせめぎ合いを人間に意識させるものだという視座を得ただけに、狂気の世界を描くホラーもセックスもアポロン的世界に対するディオニュソス的な破壊行為だと私は認識するようになっています。ですから、ホラーとセックスとが強烈な親和関係にあるのは無理からぬことだと思うのです。
こんな風に「怖い、映画」についてさらなる思索を私に促してくれる有益な一冊でした。
.
2018年10月19日に日本でレビュー済み
「怖い映画」とはまた、大きく出たな。ここまでだだっ広いテーマにどう向き合うのか。…と思ったら、
「主人公が死んでいるのに気づかない映画総ざらい」(まあ王道ですね)
「これまで日本で公開された外国ホラー映画についての思い出話」(事実の羅列じゃないか)
「この有名アニメ、実は恐怖映画という側面もあるんですよ」(ふむふむ)
「エロいと思ったら怖かった映画」(これは面白い)
など玉石混交の軽いエッセイがぎゅうぎゅうに詰まったとりとめのない1冊でした。
扱われている映画が定番名作などでなく、ホラーやスプラッタに限っていないのも面白い。
各編短く深堀されているわけでもありませんが、モノクロであれ写真が豊富なのはいい。
もう少し安くても、とは思いつつも買ってよかったです。
「主人公が死んでいるのに気づかない映画総ざらい」(まあ王道ですね)
「これまで日本で公開された外国ホラー映画についての思い出話」(事実の羅列じゃないか)
「この有名アニメ、実は恐怖映画という側面もあるんですよ」(ふむふむ)
「エロいと思ったら怖かった映画」(これは面白い)
など玉石混交の軽いエッセイがぎゅうぎゅうに詰まったとりとめのない1冊でした。
扱われている映画が定番名作などでなく、ホラーやスプラッタに限っていないのも面白い。
各編短く深堀されているわけでもありませんが、モノクロであれ写真が豊富なのはいい。
もう少し安くても、とは思いつつも買ってよかったです。
2018年10月29日に日本でレビュー済み
「悪趣味ビデオ」や「スラッシャー伝説」を編集した山崎圭司氏による最新作! しかもテーマはホラー映画となれば期待も高まるというもの。その期待に十分応える内容でした!
フランスの残酷文化と『顔のない眼』を論じる中原昌也氏の論考から、読者をぐんぐんとモダンホラー映画(本書において若干その定義は曖昧だと思いますが)の世界に引きずり込む構成。江戸木純氏と岩本克也氏の30ページを超える対談は『エクソシスト』から始まるホラー映画ブームを生きた証言集として読み応えがあります。『空飛ぶ十字剣』の残酷スチールまで掲載されていて驚きました。『グレートハンティング』に興奮が盛り上がるところも微笑ましい。
また途中に入っている「日野康一トリビュート」ではメジャー、マイナー問わずに、映画スチールの禍々しい魅力を提示。未見の作品も多々あり、興味深かった。
岡本敦史氏の『うる星奴ら2/ビューティフル・ドリーマー』が実は恐怖映画だったとの論考も読ませます。確かに不気味な描写があったと記憶が刺激されます。
この本の最大の魅力は、ホラー映画が得体のしれないものとして劇場に現れた時の興奮の記憶、まだ見たことのないホラー映画への怪しい期待を刺激された時代への郷愁にあるのかもしれません。日野康一トリビュート、そしてライターの皆さんにトラウマ映画を強引に語らせるコーナー(ハートマン軍曹がちゃんと登場します!)。自分の知らない映画への興味の掻き立て方。読んでいて楽しく、ちゃんと怖い、1冊です。
おそらく自分と同世代の山崎氏の敏腕ぶりが嬉しい。70年代から80年代にかけてホラー映画にどっぷりだった世代には郷愁を、若い世代にはショックと残酷を提示するという意味では、立派な「ガイド本」になっていると思います。
フランスの残酷文化と『顔のない眼』を論じる中原昌也氏の論考から、読者をぐんぐんとモダンホラー映画(本書において若干その定義は曖昧だと思いますが)の世界に引きずり込む構成。江戸木純氏と岩本克也氏の30ページを超える対談は『エクソシスト』から始まるホラー映画ブームを生きた証言集として読み応えがあります。『空飛ぶ十字剣』の残酷スチールまで掲載されていて驚きました。『グレートハンティング』に興奮が盛り上がるところも微笑ましい。
また途中に入っている「日野康一トリビュート」ではメジャー、マイナー問わずに、映画スチールの禍々しい魅力を提示。未見の作品も多々あり、興味深かった。
岡本敦史氏の『うる星奴ら2/ビューティフル・ドリーマー』が実は恐怖映画だったとの論考も読ませます。確かに不気味な描写があったと記憶が刺激されます。
この本の最大の魅力は、ホラー映画が得体のしれないものとして劇場に現れた時の興奮の記憶、まだ見たことのないホラー映画への怪しい期待を刺激された時代への郷愁にあるのかもしれません。日野康一トリビュート、そしてライターの皆さんにトラウマ映画を強引に語らせるコーナー(ハートマン軍曹がちゃんと登場します!)。自分の知らない映画への興味の掻き立て方。読んでいて楽しく、ちゃんと怖い、1冊です。
おそらく自分と同世代の山崎氏の敏腕ぶりが嬉しい。70年代から80年代にかけてホラー映画にどっぷりだった世代には郷愁を、若い世代にはショックと残酷を提示するという意味では、立派な「ガイド本」になっていると思います。
2020年10月16日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
商品(本),無事届きました。思ったより状態が良く,満足しています。ありがとうございました。