(以下は2017.12.16に書かれたものです)
近く新版が出るらしいので,それに先んじて旧版を読破.
あくまでクーデター対策のために出された本だが,クーデター実行者の立場に立って,これが成功するためにはどのようにすればよいのかを考察するという,一種の逆説的表現による一冊.
戦略論で顕著だが,著者はどこまでも逆説が御好みらしい.
その考察の範囲は,クーデターのための戦略目標,戦術,さらにはクーデター後の処理に到る広いもの.
本書執筆のために過去事例を著者は多く収集しており,具体性に富む.
シリアの事例が挙げられることが比較的多いように見えるのは,それだけクーデターが繰り返されており,執筆当時としては目立った存在だからか?
▼
中身は具体的であるが故に,興味深い部分ばかり:
・クーデター向きの体制,不向きな体制(p.22, 32-58)
・「革命という言葉は一定の人気を獲得した.
革命と称しているクーデターも多い」(p.25)
・「先進国の政治構造は極めて柔軟性に富み,クーデターの対象になりにくい.
ただ,特定の"一時的"要素が制度を弱体化し,その基本的健全性を失わせれば別である.
これらの一時的要素の内,最も一般的なものとして次の要素が挙げられる.
a) 大規模な失業ないしインフレを伴った,長期の厳しい経済的危機
b) 長年にわたる巧くいかない戦争,または軍事的ないし外交的な大敗北
c) 多党制の下における慢性的な不安定性」(p.34)
日本における民主党政権末期も,かなり際どいところまで来ていたのではないだろうか?
・「クーデターの本質は,国家内の主要な意思決定中枢部の権力を握り,これを通じて国家全体を掌握することである」(p.59)
・「普通の革命家が破壊しようとするその勢力を味方につけることによって,"新しい現状"を作り出せば,我々は権力の座につけることになる.
根本的に社会を変革したいのなら,政権を握ってからやればよい.
ありきたりの革命より,このほうがよほど効果的だし,苦労も少なくて済む」(p.68)
事実,史実を見ても,革命の"収支"はマイナスであるケースの方が圧倒的に多し.
・「公然とクーデターの動きを始めてから安全に権力を掌握するまでの過渡期は,クーデターの全過程で最も重要な時期である.
一方では,国家機構に対する支配を強めながら,他方では,その国家機構を使って国家全体への支配を強めていくという,矛盾した2つの仕事を同時にやっていかなくてはならない」(p.69)
・軍の扱いはどのようにすれば良いのか?(p.70-106)
・クーデター側の「各部隊の規模は小さく,高度の機動性を備え,しかも行動段階の司令部というものが存在しないので,反対勢力から見れば,兵力を集中投入すべき特定の目標が見当たらないことになる.
その結果,政府側の数の上の優位は霧のごとく消え去り,個々の襲撃目標地点ではクーデター側の小部隊が局地的な優位を握ることになる.
クーデターを成功させるカギは,この点にあると言えよう」(p.175)
・「我々の目的は親衛隊を軍事的に壊滅することではなく(なぜなら我々はクーデター成功後,彼らの幹部と政治的取引ができる),決定的な数時間の間だけ,その機動性を奪っておけばそれでよい」(p.177)
・警察の扱いは?(p.107-118)
・秘密機関の扱いは?(p.118-124)
・「ここでいう"政治勢力"が圧力団体であろうと,政党であろうと,他の組織であろうと,それは大した問題ではない.
重要なのは,その集団が政府の組織に参与する能力を持ち,さらに政府の決定に影響を与える能力を備えているということである」(p.128)
・政治諸勢力の中立化は,どのように行えばよいのか?(p.131-139,153-171)
・シリアに於いて「アラウィ人を国家元首に据えるとなれば,そう簡単に世論が納得するわけはなかった.
ジャジドはこの問題を次のような形で解決した.
つまり,一方で各部族のバランスを考えながら厳選した内閣をこしらえ,もう一方では彼自身の率いる"国家革命評議会"をこしらえて,政策決定の実権を確保したのである」(p.136)
この手法の模倣は,ほかにも幾つかあったようなおぼろげな記憶が.
・「諸々の理由から,政府の要人が必ずしも見かけ通りでないということも忘れてはならない.
罪のなさそうな文相が有力な学生民兵を牛耳っていたり,労相が強力な労働者民兵を牛耳っていたりするケースがあるからだ.
それ以上に重要なのは,実際の権力は国家の強制手段を牛耳る閣僚たちの特別な閣内集団の手に握られているということである」(p.137)
・「主なマスコミを抑えることは死活的重要性を持つ課題」(p.140-144)
これはたとえクーデターでなくとも重要と思われ.
・都市への出入り口の管理の重要性;
「クーデター実行中,政府派の軍隊や,我々の息のかかっていない軍の部隊が突然姿を見せるようなことがあると,たとえそれが小部隊でも,我々の計画は全て水泡に帰してしまう恐れがある」(p.144-151)
・「官僚や大衆に,クーデターの実在と権力とを実際に示す必要があるということは,我々が常に忘れてはならない要素の一つである」(p.151-153)
・象徴的なビルを占拠することによる,形勢を傍観している連中の支持を取り付けることができるという効果(p.152)
・「叛乱政党」とは?(p.163-165)
・「戦争では,戦闘経験に基づいて作戦を変更し,兵器を取り換え,諸計画を練り直し,兵員を再訓練することができる.
しかしクーデターでは,作戦上のフィードバックは時間的に許されるものではない」(p.174)
一種の一発勝負の賭けだな.
・「クーデターのタイミングは,軍部および警察組織への浸透の度合いに基づいて決められるべきもので,その浸透の度合いが十分な段階に達した時に,クーデターは直ちに決行されねばならない.
このことは,クーデター決行の日時を予め指定し,これを我がほうの各チームに知らせることはできないという意味である」」(p.181)
・情報が増えれば雑音も増えるので,「情報と"雑音"の量が処理能力を上回るポイントで,これ以上情報が入ってくると,個々の情報に対する[諜報機関の]注意力は減殺されてしまう」(p.181-186)
これが現実に起きたのが,9.11テロに対する情報収集.
・襲撃目標のカテゴリー分けは?(p.186-192)
・「クーデターの遂行段階では,情勢を不安定にさせることが目的となるが,遂行後の努力は全て情勢の安定化,秩序の回復に向けられなければならない」(p.193-207)
クーデターではないが,これに失敗したのが日本の民主党政権と言えよう.
・「政治的持久の水準」とは?(p.210-216)
▼
本書はクーデターに限って論じているが,一般的な政権交代においても通じる点が多いような印象.
新版が待たれる.
【関心率70.54%:全ページ中,手元に残したいページが当方にとってどれだけあるかの割合.当方にとっての必要性基準】

無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
この商品を見た後にお客様が購入した商品
ページ: 1 / 1 最初に戻るページ: 1 / 1
カスタマーレビュー
星5つ中3つ
5つのうち3つ
2グローバルレーティング
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2015年7月25日に日本でレビュー済み
ルーマニア生まれで東ヨーロッパの諸大学で経済学を講義し、後にイギリスに帰化した学者による著作です。この本は「少数グループで政府をくつがえし、その国家を支配するにはいかにするか」という実用的かつ物騒なテーマをもつ。クーデターを可能にする歴史的背景や社会・経済的条件をあげながら、図表と統計を使って
A どんなふうに軍事力と警察力と情報機関がクーデターを挫折させるか
B どうしたら国家組織の決定的要素を破壊できるか
C 活動的な組織のどの部分を麻痺・中立化させ、どんな性格の政治的人物を取り除けばいいか
というクーデターの技術を、まるで「素人でもできる料理」のように解説している。ジョークではなく、ごく真面目な態度で述べられるのがまた怖い。
この本が出版された頃は、過去10年間のうち46カ国で73回もクーデタが起き、ルトワックの調べでは過去23年間に70カ国以上でそれは成功しているという。革命と戦争があいついだ20世紀らしい書物ともいえる。
A どんなふうに軍事力と警察力と情報機関がクーデターを挫折させるか
B どうしたら国家組織の決定的要素を破壊できるか
C 活動的な組織のどの部分を麻痺・中立化させ、どんな性格の政治的人物を取り除けばいいか
というクーデターの技術を、まるで「素人でもできる料理」のように解説している。ジョークではなく、ごく真面目な態度で述べられるのがまた怖い。
この本が出版された頃は、過去10年間のうち46カ国で73回もクーデタが起き、ルトワックの調べでは過去23年間に70カ国以上でそれは成功しているという。革命と戦争があいついだ20世紀らしい書物ともいえる。