スティーヴン・ハフ(Stephen Hough 1961-)のピアノ、ブライデン・トムソン(Bryden Thomson 1928-1991)指揮、イギリス室内管弦楽団の演奏によるヨハン・ネポムク・フンメル(Johan Nepomuk Hummel 1778-1837)の以下の2曲を収録。
1) ピアノ協奏曲 第2番 イ短調 op.85
2) ピアノ協奏曲 第3番 ロ短調 op.89
1986年録音の当ディスクは1987年のグラモフォン賞を受賞している。きわめて価値の高い、意義深い録音だったわけだが、それは、この録音によって、それまで忘れられていた作曲家「フンメル」の評価が見直され、その作品群の再興に結びついたからだ。
フンメルはハンガリーの作曲家で、ウィーンでモーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart 1756-1791)の指導を受け、1787年にドレスデンでデビュー。1804年から11年までハイドン(Franz Joseph Haydn 1732-1809)の代理としてエステルハージ侯の楽長を務めた後に、1816年からはシュトゥットガルト、1819年からはヴァイマールの宮廷楽長を務めた人物。当時の最高のピアノの巨匠として尊敬され、作曲家としてもべートーヴェン(Ludwig van Beethoven 1770-1827)の唯一のライバルと称されるほどであった。しかし、彼の死後、彼の名はハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンという巨星の群れに隠れ、その作品もほとんど顧みられる機会を失い、かろうじてピアノ独奏曲「ロンド・ファボリ Rondo favori op.11」が取り上げられる以外は、オーストリアでその教会音楽が用いられているくらいがせいぜいであった。
しかし、フンメルの音楽は再興した!彼の音楽は、150年もの雌伏の期間を経て、再び人々に聴かれるようになった。その転轍の役目をになった象徴的録音が当アルバム。
このアルバムを聴くと、フンメルと言う作曲家は、モーツァルトとショパン(Frederic Chopin 1810-1849)を繋ぐ存在であることが良くわかる。フンメルを聴いて、はじめて音楽史の重要な流れの一つを把握することが出来ると言っていい。フンメルの作品は精妙な技術が施されているが、そこで紡がれる豊かなメロディは、たくみな和声法と対位法によって、古典的な気品をまとっている。このメロディは、ロマン派の到来を予感させる情緒的なものであるため、多くの人がショパンを連想するだろう。事実、ショパンはフンメルの第2協奏曲にインスパイアされて、自身のピアノ協奏曲の作曲にまい進したと言う説がある。この曲を聴けば、なるほどと思う。また、その情感たっぷりのメロディが、鮮やかな展開によって消化され、再現部に帰結していく部分の美しさ、その解決の完璧さは、古典派の模範といってもよいほど。これは名曲といっていいものではないだろうか。そうでないとしても、これほど情緒豊かで、心を動かすような音楽というものは、多くの人に愛聴されるのに相応しいだろう。ちょうど、ショパンの協奏曲のように。。。
演奏の素晴らしさにも言及したい。ハフのピアニズムはこれらの楽曲の古典的様式美と浪漫的抒情性の双方を確立するもので、その力強い響きとスケールの大きさ、強弱の豊かさ、ペダルの効果を駆使した広大さによって、威風を持って奏でられる。フンメルの作品において、ピアノとオーケストラの関係性は、モーツァルトに類似するが、旋律は、より発色の必要な浪漫性を持っている。だから、その楽曲の性格を活かすためには、メロディを存分に歌わせて欲しい。ハフは、楽器としてのピアノの持つ能力を、惜しみなく投入している。古典の枠だけ意識し、ささやかに弾いてしまうと、フンメルはあまり面白くない気がする。ショパンへの布石を明確に意識させ、時としてそれを凌駕するくらいの勢いが欲しいのだ。ハフはその点を見事に表現した。だからこそ、聴いていて、これほど強い力を感じるのである。
オーケストラも好演で、第2番の第1楽章の悲劇性を持った弦の輝かしい肉厚な響き、第3番第2楽章冒頭の金管の柔らかな提示、さらに第2主題の痛切な美しさなど、聴きどころを挙げるとキリがないほど。
当盤は、同時代の巨星群にか隠れながらも、まぎれもない本物の輝きを放つフンメルという恒星の存在を証明した画期的録音といっていいと思う。
プライム無料体験をお試しいただけます
プライム無料体験で、この注文から無料配送特典をご利用いただけます。
非会員 | プライム会員 | |
---|---|---|
通常配送 | ¥410 - ¥450* | 無料 |
お急ぎ便 | ¥510 - ¥550 | |
お届け日時指定便 | ¥510 - ¥650 |
*Amazon.co.jp発送商品の注文額 ¥2,000以上は非会員も無料
無料体験はいつでもキャンセルできます。30日のプライム無料体験をぜひお試しください。
Piano Concerti
この商品を買った人はこんな商品も買っています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
曲目リスト
1 | Piano Concerto in a Minor Op. 85: I. Allegro Moderato |
2 | Piano Concerto in a Minor Op. 85: II. Larghetto |
3 | Piano Concerto in a Minor Op. 85: III. Rondo: Allegro Moderato |
4 | Piano Concerto in B minor Op. 89: I. Allegro Moderato |
5 | Piano Concerto in B minor Op. 89: II. Larghetto |
6 | Piano Concerto in B minor Op. 89: III. Finale: Vivace |
登録情報
- メーカーにより製造中止になりました : いいえ
- 製品サイズ : 14.81 x 12.7 x 1.09 cm; 94.12 g
- メーカー : Chandos
- EAN : 0501468285072, 0095115850725
- オリジナル盤発売日 : 1992
- SPARSコード : DDD
- レーベル : Chandos
- ASIN : B000000AFD
- 原産国 : アメリカ合衆国
- ディスク枚数 : 1
- Amazon 売れ筋ランキング: - 280,211位ミュージック (ミュージックの売れ筋ランキングを見る)
- - 10,348位室内楽・器楽曲
- - 15,137位交響曲・管弦楽曲・協奏曲
- - 78,895位輸入盤
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2013年12月16日に日本でレビュー済み
2014年5月4日に日本でレビュー済み
Chandos30周年のボックスセットに収められているCDで聴いていますが、確かに素晴らしい曲であり、見事な演奏であって、聴く度に引きずり込まれてしまいます。オケにあまり色彩のないショパンの協奏曲と比べると、フンメルに軍配を上げたくなるほどで、長く忘れられていたことが奇怪と言うほかありません。歴史のバイアスと常識の縛りから自由になって、フンメルをもっと聴いてみたいと思っています。
追記:このCDを聴き始めて4年以上たちました。今もしばしば聴いています。深い味わいのある曲で飽きません。フンメルの他の曲もいろいろ聴き、すっかりフンメルファンとなりました。この隠れた大作曲家の存在と素晴らしさを教えてくれたこのCDに感謝です。
追記:このCDを聴き始めて4年以上たちました。今もしばしば聴いています。深い味わいのある曲で飽きません。フンメルの他の曲もいろいろ聴き、すっかりフンメルファンとなりました。この隠れた大作曲家の存在と素晴らしさを教えてくれたこのCDに感謝です。
他の国からのトップレビュー

goodLuck
5つ星のうち5.0
Stephan Hough ...
2023年5月7日にドイツでレビュー済みAmazonで購入
... und die HUMMELschen Klavierkonzerte passen gut zusammen, sehr angenehme Interpretation des jungen Pianisten, sehr kaufenswert!

HCL RYLAND
5つ星のうち5.0
Recommended
2021年2月14日に英国でレビュー済みAmazonで購入
This is a beautiful recording of two of Hummel's piano concertos

colson
5つ星のうち5.0
C'est bien dommage qu'un tel compositeur soit si peu connu,
2020年1月12日にフランスでレビュー済みAmazonで購入
Quelle belle évasion que la musique...

robert judge
5つ星のうち5.0
ALL TIME HOUGH WINNER !!!!!!!!!
2016年1月23日にカナダでレビュー済みAmazonで購入
ABSOLUTELY BRILLIANT PERFORMANCES OF THESE HUMMEL CONCERTI THAT SHOULD BE PERFORMED OCCASIONALLY DESPITE THEIR REQUIREMENTS OF A VIRTUOSIC TECHNIQUE WHICH STEPHEN HOUGH HAS IN SPADES ! IF YOU LIKE STEPHEN HOUGH YOU WILL LOVE THESE PERFORMANCES.

Robert D. Harmon
5つ星のうち5.0
A Musical Genius Unheard Today
2014年8月21日にアメリカ合衆国でレビュー済みAmazonで購入
After nearly 60 years of listening to classical music, I have distilled my experiences to determine which genre and period I like best: the piano concerto in the late classical/early romantic period, and I can't praise Hummel's music highly enough. He lived with, and was taught by Mozart for two years tuition free, received further instruction from Clementi, and was also a student of Joseph Haydn. Beethoven was a fellow-student, and the two became friends, though Hummel's music went in a different direction than Beethoven's. Hummel, while extremely versed in the disciplined and clean style of his teachers (as heard in his early work), became an important bridge between the Classical and Romantic periods, by challenging and stretching traditional forms in his ouevre for piano. Chopin was an admirer of Hummel's piano concertos, and was influenced in his own work by what he heard.
Hummel's music was justly celebrated and admired during his lifetime. Beethoven particularly esteemed his friend's work. His melodies and sweeping lyricism are infectious, and his keyboard technique is matched by his orchestration in these, and the other six piano concertos he wrote (and those written for other instruments).
Although famed while alive, after his death his music was looked upon as too old-fashioned, and fell out of favor. Thanks to the enormous undertaking by Chandos and Stephen Hough (and also Howard Shelley) we can enjoy his music which is seldom, if ever, heard in concert halls.
Hummel's music was justly celebrated and admired during his lifetime. Beethoven particularly esteemed his friend's work. His melodies and sweeping lyricism are infectious, and his keyboard technique is matched by his orchestration in these, and the other six piano concertos he wrote (and those written for other instruments).
Although famed while alive, after his death his music was looked upon as too old-fashioned, and fell out of favor. Thanks to the enormous undertaking by Chandos and Stephen Hough (and also Howard Shelley) we can enjoy his music which is seldom, if ever, heard in concert halls.