聴き始めてすぐに音色の違いに驚いてパンフレットを捲ったところ、ベーゼンドルファー・インペリアルを使用、と。私がこれまで聴いてきたコロリオフの録音(10タイトル以上)で初めてのベーゼン!! 私が知らないだけで、他にもあるのかも知れないが。この人が「たまたまベーゼン」などということがあるはずもないので、狙いすました選択なのだろう。28番にはなるほどぴったりな清澄な響きで、これはもう言うことなしの表現。
だが、ハンマークラヴィーアは?これでいけるのか?ぶち壊しにならないか?とヒヤヒヤ気をもんで聴き進めれば…はぁ、感服しました。
おそらくペダルの使用を控え目に、音の粒立ちを明瞭に、濁りを出さないよう細心の注意を払ったクリーンな演奏はこれまでのハンマークラヴィーアのイメージを一新するほどの衝撃的な感動をもたらしてくれました。こんな風にも表現できるのか!後期作品群の中に(鬼っ子ではなく)しっくりと位置づけられたハンマークラヴィーアなのです。
しかし、それならば何故、この2年後に録音した「後期ソナタ集」でまたスタインウェイに戻ってしまったのか?後期ソナタでならなおさらベーゼンドルファーは活きただろうに。弾き手の感覚は、そんな単純なものではないのかも知れないが…。何度聴き込んでも、それらしい答えは見つからないのです。