本書はネオリアリズムの旗手、ジョン・ミアシャイマーと『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』を共著したスティーヴン・ウォルト(ハーヴァード大学教授)による単著の本格的な邦訳であり、新進気鋭の地政学者である奥山真司氏監訳本の第2弾である。
スティーヴン・ウォルトは国際関係論の理論家と言われるネオリアリズムの重鎮ケネス・ウォルツの3大弟子の一人として名高く、すでに欧米では非常に高い評価を受けている国際関係論の理論家である。
内容はというと「第1章」では、現代の世界ではアメリカはかつてないほどのパワーが集中して不均衡な状態になっていることを指摘し、アメリカのリーダーは逆にこのチャンスに乗じて優位な立場をさらに強化・拡大しようと野心を燃やし、自己中心的とも言える政策を追求していることを説明し、「第二章」では、なぜ他国がこのような状況やアメリカの政策を危ぶんでいるのかを解説し、アメリカが支配的な世界国家として世界に君臨し続ける限り、常に海外からの不満の矛先が向けられるのだと説いている。また「第三章」では、他国がアメリカに力の面では全く対抗できない場合でも、アメリカの優位を制限・反抗するための様々な戦略の形を説明し、アメリカが他国の利益を脅かせば、この反抗の動きも一層活発化することを警告している。「第四章」では、アメリカ以外の国々がアメリカの優位を受け入れて、それを自分たちの国益になるように積極的に活用しようと決めた際に、一体どのような戦略を使ってくるのかを検討しており、ここでは国内政治(アメリカ)への「浸透(ペネトレーション)」としてのロビー活動としてイスラエルの例に多くの紙面を割いていることからも『イスラエル・ロビー』へと発展していく思考の過程が垣間見える。そして最後の「第五章」ではリアリストという視点から、自国の「右派からの自重論」を提唱している。
『イスラエル・ロビー』は本書の続編という位置づけになるのではなく、あくまで原著の副題から想像できるように「アメリカの優位をどう活かすのか」という、もう少し広範囲な問題を取り扱う意識で書かれたという。
学術書という体裁をとってはいるものの極めて提言書としての色彩が強い内容だ。リアリストの理論以外にも他学派の論理も大いに取り上げ、縦横無尽に現代アメリカに対する反応や数々の「戦略」を紹介しており、とくに国内政治への「浸透」戦略などは外交下手な日本の政治家に一読してもらいたい内容になっているのだが、ミアシャイマー『大国政治の悲劇 米中は必ず衝突する! 』のようなダイナミックな歴史的検証に乏しく、また紙面の都合から本文の一部と訳注が省かれていることは惜しむべきところであろう。
ただ、奥山真司氏の流麗かつこなれた訳文のおかげで、学術書とはいえスラスラと読めてしまう不思議な吸引力を持っていることは確かだ。

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米国世界戦略の核心: 世界は「アメリカン・パワー」を制御できるか? 単行本 – 2008/3/1
- 本の長さ371ページ
- 言語日本語
- 出版社五月書房
- 発売日2008/3/1
- ISBN-104772704701
- ISBN-13978-4772704700
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登録情報
- 出版社 : 五月書房 (2008/3/1)
- 発売日 : 2008/3/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 371ページ
- ISBN-10 : 4772704701
- ISBN-13 : 978-4772704700
- Amazon 売れ筋ランキング: - 842,856位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 376位アメリカのエリアスタディ
- - 5,282位政治入門
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2012年8月18日に日本でレビュー済み
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2008年3月26日に日本でレビュー済み
ネオリアリストの代表格であるスティーブン・ウォルトの翻訳書がこうして出版されたことは大変喜ばしい。原著も2005に出版されているので、ポスト・イラク戦争の現在にもしっかりと対応している。
本書のおおざっぱな構成は、1「アメリカの優位について」2「他国がアメリカを手なずける戦略について」3「アメリカが取るべき大戦略とはなにか」である。
本書で最も示唆に富むのは2であるだろう。さすが『同盟の起源(Origin of Alliance)』などで、同盟に関する優れた研究を残しているだけある。ソフトバランシングや、脅威均衡、などの概念に日本語で触れられるのは本書くらいであるだろう。
アメリカに対する戦略の一例としての、各国がアメリカでの「ロビー活動」の記述も有名である。しかし、こちらは最近の共著『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』を見たほうがより包括的で、最新の議論を得られると思われる。
また最後に著者はアメリカが「オフショア・バランサー」(地域覇権国が出現しそうな場合にのみ介入する)となるべきだと述べている。しかし、これは世論に人気がない、非伝統的な脅威に対応できない、など相対化されるべき問題点を抱えている。そのあたりは邦書であれは山本吉宣『「帝国」の国際政治学』の1章、久保文明『アメリカ外交の諸潮流』あたりを参照されたい。
評価については、訳はスムーズに読めていい。しかし、タイトルが原題を離れて仰々し過ぎるのと、本文が一部削除されているので星4つ。削除した脚注部分は出版社のウェブページにアップするなど、厳しい出版事情の中で努力は見られるのだが、もう少し学術書に対する敬意がいると思う。
本書のおおざっぱな構成は、1「アメリカの優位について」2「他国がアメリカを手なずける戦略について」3「アメリカが取るべき大戦略とはなにか」である。
本書で最も示唆に富むのは2であるだろう。さすが『同盟の起源(Origin of Alliance)』などで、同盟に関する優れた研究を残しているだけある。ソフトバランシングや、脅威均衡、などの概念に日本語で触れられるのは本書くらいであるだろう。
アメリカに対する戦略の一例としての、各国がアメリカでの「ロビー活動」の記述も有名である。しかし、こちらは最近の共著『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』を見たほうがより包括的で、最新の議論を得られると思われる。
また最後に著者はアメリカが「オフショア・バランサー」(地域覇権国が出現しそうな場合にのみ介入する)となるべきだと述べている。しかし、これは世論に人気がない、非伝統的な脅威に対応できない、など相対化されるべき問題点を抱えている。そのあたりは邦書であれは山本吉宣『「帝国」の国際政治学』の1章、久保文明『アメリカ外交の諸潮流』あたりを参照されたい。
評価については、訳はスムーズに読めていい。しかし、タイトルが原題を離れて仰々し過ぎるのと、本文が一部削除されているので星4つ。削除した脚注部分は出版社のウェブページにアップするなど、厳しい出版事情の中で努力は見られるのだが、もう少し学術書に対する敬意がいると思う。