多額の遺産を相続した世間知らずの大学教授(キートン)が旅に出る。ドサ回りの劇団と偶然知り合い、女優に恋をした教授は、劇団のスポンサーとなりブロードウェイへ。ところが遺産相続は助手が教授を元気づけるためについた嘘だった・・・
キートンのMGM作品の中でも特に評価の低いもののひとつですが、実際観ると物語はそれほど悪くない。いわば「ファウスト」と「ウィルヘルム・マイスターの修行時代」の下手な映画化といった感じで、キートンの原点である舞台についての話でもあるし、もっと真剣に作り込めばいい映画になった可能性は大いにあります。残念ながらゲーテの高貴さを体現しているのはキートンのみ。結果として俳優たちがただ大騒ぎするだけのファルスになってしまっています。
よく指摘されるのは共演のジミー・デュランテとキートンの相性の悪さ。でもそれはデュランテのせいではありません。気のいい兄ちゃんという感じの魅力があり、70年代に至るまで多くの映画やTVで愛されたのはうなずけます。ただ、彼は「いいコメディアン」だったけれど、キートンは「偉大な、あまりにも偉大なコメディアン」だった・・・
純粋にキートンファンの立場からすると、この映画も一見の価値はあります。すっかり板についたその流暢なセリフまわしを聞いたり、完璧なリアクションに大笑いしたり、学者らしい上品なスーツに身を包んだキートンの美しさに見とれたり。意外なことに体をはったギャグもわりと多い。この頃(1931〜2年)キートンをとりまく状況は最悪になりかけていたはずですが、「撮影に入れば何もかも忘れられた」というキートン自身の言葉通り、いつものように全力ではたらくキートンの姿がここにもあるのです。