すごく好き。
自分の想像力の限界を知った。
そんなにコミットしてないぜ、ふふんと思ってても、生まれ育った文化は結構根深く自分の考え方の枷というか枠組みとして存在している。
それが見えるようになる。
これだから、他の国の文物に深く入り込んだ本を読むのは面白いのだ。自分の頭の使ったことのない部分ががんがん刺激される。
遠近法は人を中心に置いた傲慢な描き方で、異端である、とかこんなの考えたこともなかったよ。
「人間の視点」に過ぎないものは、錯覚である…なるほどなあ。確かにそういう考え方はできる。あまりに自明のことに疑いをはさむと、その瞬間自分の思考がぐらっと揺り動かされる。
こういった小説を読むと、自分の文化で縛られた精神で、外側から、他国をジャッジするのが、たいへん不遜で無謀というのがよく分かる。
隣の国のことだって我々は表層しか知らないのだ。言葉を知って(これ大事だと思う)小説を読んで絵を観て映画を見て音楽を聴いて…そうやって初めて、その国の人の心のありようというものに近づけるのだろう。
たとえ、現代というムーブメントが全ての文化を画一化する方向にゆっくりと進んでいるとしても、その土地の地層としての文化を軽視するのはまだ早すぎる。
ところで、絵(絵描き)をテーマにした作品として、ぱっと頭に思い浮かぶのは、モームの『月と六ペンス』、リョサの『楽園への道』、
辻邦夫の『嵯峨野明月記』、最近だと『騎士団長殺し』もそうだった。
少し近い気持ちを覚えたのは『嵯峨野』かな。宗達が角倉与一から絵巻物の下絵を頼まれて、初めて巻物に挑戦するとき、合戦の絵巻などを見て時間も忘れて見入って、そのあと初めて筆を入れるときの緊張感、これまでと全く異なる構図への試行錯誤などをふと思い出した。
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わたしの名は赤〔新訳版〕 (上) (ハヤカワepi文庫) 新書 – 2012/1/25
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- 本の長さ431ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日2012/1/25
- 寸法10.8 x 1.8 x 16 cm
- ISBN-104151200665
- ISBN-13978-4151200663
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- 出版社 : 早川書房 (2012/1/25)
- 発売日 : 2012/1/25
- 言語 : 日本語
- 新書 : 431ページ
- ISBN-10 : 4151200665
- ISBN-13 : 978-4151200663
- 寸法 : 10.8 x 1.8 x 16 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 65,923位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2013年9月30日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
私は池内恵氏「イスラーム世界の論じ方」を読んだのをキッカケに本作を手に取ったのだが、非常に興味深く読んだ。トルコ人作家の作品を読むのも初の体験である。オスマン帝国時代を舞台に、<細密画>(師)及びそれに纏わる殺人事件を扱ったものだが、ミステリ的興趣の方は殆ど無視して良い。コーランによって偶像崇拝を禁じられているが故に、書物の挿絵としか存在を認められない<細密画>に焦点を絞っている点にまず興味をそそられる。更に、絵師個人の様式や創造を許さない<細密画>と西欧(時代設定からしてルネサンス期のイタリア)の写実的絵画との優劣(あるいは融合)をテーマにしている作者の大胆さ(身の危険はないのだろうか?)にも驚かされる。<細密画>における美や伝統とコーランの教えとの間の微妙なバランスの上で成りなっている作品で、本作発表時に欧米で話題になったというのも頷ける。
また、本作の各章は主要登場人物達や<細密画>上に描写される馬、悪魔、金貨等の一人称という体裁になっており、各章が<細密画>の構成要素、作品全体が<細密画>という見立てが成り立つという巧緻な仕掛け。殺人事件と関わりのない、宗教、絵画、美についての論考の章が特に読み応えがある。イスラム教徒(だと思う)によるこうした論考を読むのも初めてだったので。また、コーランの教えには「女は信徒(男)を堕落させる」というのもある。本作のヒロインは稀有の美貌の女として描かれるが、読んでいて余り魅力を感じない。むしろ、周囲の男を悩ませる"災厄の女"として映るのである。作者がコーランの教えに則って執筆しているのか、反発(西欧化)を意図しているのかやはり微妙な線で、その意匠、作品内容共に読者を惑わせる出来となっていると思った。
また、本作の各章は主要登場人物達や<細密画>上に描写される馬、悪魔、金貨等の一人称という体裁になっており、各章が<細密画>の構成要素、作品全体が<細密画>という見立てが成り立つという巧緻な仕掛け。殺人事件と関わりのない、宗教、絵画、美についての論考の章が特に読み応えがある。イスラム教徒(だと思う)によるこうした論考を読むのも初めてだったので。また、コーランの教えには「女は信徒(男)を堕落させる」というのもある。本作のヒロインは稀有の美貌の女として描かれるが、読んでいて余り魅力を感じない。むしろ、周囲の男を悩ませる"災厄の女"として映るのである。作者がコーランの教えに則って執筆しているのか、反発(西欧化)を意図しているのかやはり微妙な線で、その意匠、作品内容共に読者を惑わせる出来となっていると思った。
2020年8月21日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
著者がノーベル賞を取った時から読みたいと思っていた本だった。今まで、本屋や図書館では見つけられずにうっちゃっていた。コロナ禍での自粛生活をきっかけにアマゾン生活を始め、ネットでの購入を活発化した際に、ようやくたどり着いた。
期待に違わず名著である、というのが素直な読書感。
感想をメモしながら読んだのだが、そのほとんどが訳者の後書きに全てが書かれていたので、それを述べることはしないが、少し加えておく。
芸術の在り方についての葛藤と、著者の古典物語についての豊富な知識をベースにミステリーを構築するという一冊(上下だから二冊か?)で何倍も楽しめるものになっている。
それと、今もこのコロナ禍の中でまさに問われている「芸術と権力との関係」というのは永遠の課題に見える。
直前に、瀬戸内寂聴氏の「秘花」を読んでいたのだが、これも能役者と権力者の庇護が主題になっていて、さらに、男色についても同じような文化があったのは驚いた。
期待に違わず名著である、というのが素直な読書感。
感想をメモしながら読んだのだが、そのほとんどが訳者の後書きに全てが書かれていたので、それを述べることはしないが、少し加えておく。
芸術の在り方についての葛藤と、著者の古典物語についての豊富な知識をベースにミステリーを構築するという一冊(上下だから二冊か?)で何倍も楽しめるものになっている。
それと、今もこのコロナ禍の中でまさに問われている「芸術と権力との関係」というのは永遠の課題に見える。
直前に、瀬戸内寂聴氏の「秘花」を読んでいたのだが、これも能役者と権力者の庇護が主題になっていて、さらに、男色についても同じような文化があったのは驚いた。
2020年9月26日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
細密画という新鮮な題材に魅かれて手に取った。
が、東洋と西洋、あるいは伝統と近代の相克というテーマは珍しくないし、絵師の殺人は起きるもののミステリ的な面白さは乏しく、まあノーベル賞を獲った作品にそのあたりの面白さを期待するほうが間違ってたのかも。
が、東洋と西洋、あるいは伝統と近代の相克というテーマは珍しくないし、絵師の殺人は起きるもののミステリ的な面白さは乏しく、まあノーベル賞を獲った作品にそのあたりの面白さを期待するほうが間違ってたのかも。
2013年7月13日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
としてのパムクの面目躍如。訳が「赤」でも「紅」でも、どうでもいい。実際には赤なのだが、日本人には紅の方がいいのかな。これでトルコに行けていれば・・・。96時間 リベンジ という映画があったが、ああいう路地裏と混沌だ。
2012年2月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
16世紀イスタンブルで細密画家が殺される話とカラとシェキュレという男女の恋愛の話と画家たちの権謀術数の話が一人称多視点で語られる小説。その視点も人間だけでなく絵具や馬なども喋る独特の構成で驚く。
以上のように主筋傍筋入り乱れる展開ですが、あまり複雑にならず、平明で読みやすいのがいい所。一応推理小説風に創作されてるけど著者パムクの主眼はあくまでこの当時人気があり寵愛された細密画家を描くことに集約されているように思えました。訳者あとがきによるとイスラム圏では偶像崇拝にあたるので絵画などは敬遠されていたそうですが、本の挿絵のようなものはかなり尊ばれていたというのはよく伝わってきます。題名の「赤」というのも本全体を象徴している(殺人の赤い血、絵具の赤)ようにも思えます。
カラとシェキュレの恋愛模様も飽きずに読め、時代や地域が違っても人間の本質は変わらないということを考えさせてくれます。
小説と書きましたが、物語あるいは説話のように雄大さを感じました。「真夜中の子供たち」と「薔薇の名前」足して2で割ったような印象をうけました。
あまり読まない地域の話なのでカタカナの固有名詞が人名か地名かその他か区別し難いほかはとてもおもしろかったです。
何度も繰り返し読めるスケールの大きい傑作。パムクの作品は全部読もうと思います。
以上のように主筋傍筋入り乱れる展開ですが、あまり複雑にならず、平明で読みやすいのがいい所。一応推理小説風に創作されてるけど著者パムクの主眼はあくまでこの当時人気があり寵愛された細密画家を描くことに集約されているように思えました。訳者あとがきによるとイスラム圏では偶像崇拝にあたるので絵画などは敬遠されていたそうですが、本の挿絵のようなものはかなり尊ばれていたというのはよく伝わってきます。題名の「赤」というのも本全体を象徴している(殺人の赤い血、絵具の赤)ようにも思えます。
カラとシェキュレの恋愛模様も飽きずに読め、時代や地域が違っても人間の本質は変わらないということを考えさせてくれます。
小説と書きましたが、物語あるいは説話のように雄大さを感じました。「真夜中の子供たち」と「薔薇の名前」足して2で割ったような印象をうけました。
あまり読まない地域の話なのでカタカナの固有名詞が人名か地名かその他か区別し難いほかはとてもおもしろかったです。
何度も繰り返し読めるスケールの大きい傑作。パムクの作品は全部読もうと思います。
2019年8月13日に日本でレビュー済み
感想を書くのがとてもむずかしい小説です・・なんというか、香り高く、強烈な印象を残すものの、どう書けばいいか戸惑うくらいに複雑というか。
この1998年の作品はパムク氏の代表作とされているそうで、2006年にノーベル文学賞を受賞されているそうです。
時代は1591年、オスマン帝国の最盛期スレイマン大帝が崩御してから25年、やや下り坂が見えてきた時代の首都イスタンブルが舞台です。とはいってもオスマン帝国自体は1923年まで存続するので、頂点を過ぎたあたりといっていいでしょうか。隣国のペルシャ、サファーヴィー朝との戦いに倦んで、国内で増えてきた珈琲店や神秘主義の宗教集団を、不寛容なイスラム過激派ヌスレト派が襲撃したりして、町には不穏な空気がたちこめています。余談ですが、珈琲店が襲撃されたというのは”目や胃を破壊し、理性を曇らせて信仰心を見失わせる、西洋人も珈琲に毒されていった、悪魔の飲物”と思われていたらしく、当時、排斥されていたのはアルコールだけではなかったのが興味深いです。
繰り返し出てくる主題は、細密画絵師たちの芸術に対する真摯な懊悩です。そもそもイスラムでは偶像を描くことが禁止されています。いろいろと説があるようですが、魂を持った生き物すべての絵を描くことはいけない、なぜかといえば、すべては神の創造物であり、その創造物のひとつである人間が、神の作ったものを描くことは不遜・・・みたいな発想だそうです。ここまで説明されても、それの何がいけないのか日本人にはわかりにくいと思いますが・・・。なので、絵を描くことそのものを職業にしている自分たちは異端ではないのか?という後ろめたさが、この作品に登場する絵師たちにも常につきまとっています。
また、古い時代から受け継いできた技法、ヘラートやタブリーズの天才画家の手法、つまりは平面的、類型的な描き方という意味のようですが、それを神の視点とみなし、そしてこの頃にベネチアから入ってきた遠近法の手法を異端とみなしていたようです。けれど皇帝から注文された絵画は遠近法で描くようにと命じられる、絵師によっては割り切る者もおり、罪悪感が消えない者もいる、小説の中ではその心情がこんなふうに表現をされています。
”遠近法の知識を用い、西欧の名人たちの様式に追随するのは悪魔の誘惑。”
”最後の挿絵には、死せる定めの人間の顔が西欧人の手法で描かれているんだ。絵じゃなくて本物を見たと錯覚するような顔がね。今に、異教徒どもが教会でするようにその絵に額づく輩まで出るかもしれないね。遠近法というのは、細密画にあるべき神の視点を犬のそれにまで貶めるだけじゃない、既知の様式と異教徒どもの技術や様式が混ざり合って、僕たちの純潔は汚され、連中の奴隷に成り下がってしまう。”
”汚らしい野良犬の目を借りて遠近法を用いている。「モスクは後ろの方にあったから」などと言い訳して、蝿とモスクを同じ大きさに描いて、信仰につばを吐きかけている。”
現代で私たちが当たり前としている遠近法を使った絵画にここまで嫌悪感を持つことはなかなか理解しがたいですが、当時の、そしてイスラムの見方というのはそういうものだったのでしょう。
一見イスラム色が強い小説のように見えますが、作者はアメリカに長期で滞在しコロンビア大学で客員教授をされていたということ、それでなくても現代のトルコは世俗主義の方が強く、描きたかったのはイスラム思想的なものではなく、個人的な感想ですが、芸術と人間だったような気がします。
現在のアフガニスタンやイラン、中央アジアにあった古い王朝とその栄華の話が何度も登場し、画家の名前、その手法と特徴などが述べられ、中国から地中海にかけて、深い交流があったことが伺われます。また、描かれる主題は主にペルシャの伝説や神話、叙事詩、恋愛詩であるところを見ると、文化的にはペルシャ文化がこのあたりを席巻していたことがわかります。絵に関して言えば、中国から龍の絵や水墨画なども伝わり、美女の顔を目が釣りあがった中国風の細い目で描くことがよくあったとか、オスマン帝国の絵師たちが様々な手法を取り入れていたことも述べられています。
これらに加えて、画家たちの人間的な側面、虚栄心、出世欲、当時普通だったらしい男色の恋心のこと、一応の主人公である絵師カラといとこのシェキレの恋愛と、結婚までに至る問題、そしてシェキレの父親で有名な絵師でもあったおじ上と絵師”優美”の殺人事件、皇帝がその解決をカラとその上司であるオスマン棟梁に命じたことなどが平行して進みます。ヒロインのシェキレに関しては、絶世の美女として描かれていますが、あまり聡明だとは思えず、行動も意味不明で打算的、卑怯なところもあり、そんなに魅力的な女性だろうか?と思ってしまいました。
歴史や美術に関する記述がかなりの割合を占めるので、それらに興味のない人は途中でいやになってしまうかもしれません。殺人事件を追及するミステリとしても読め、そのあたりは結構はらはらしますが、そちらの方は合間合間に進むので、ミステリ目当てだけで購入すると途中で息切れしてしまうかも。
この本に関しては、先にあとがきを読んでしまうのもありだと思います。ネタばれにはなっていませんし、物語の背景になる当時のイスタンブルとオスマン帝国全体の様子、歴史、細密画に関して、そして作中でひんぱんに登場するペルシャ文学作品についても、詳しく説明されています。
この1998年の作品はパムク氏の代表作とされているそうで、2006年にノーベル文学賞を受賞されているそうです。
時代は1591年、オスマン帝国の最盛期スレイマン大帝が崩御してから25年、やや下り坂が見えてきた時代の首都イスタンブルが舞台です。とはいってもオスマン帝国自体は1923年まで存続するので、頂点を過ぎたあたりといっていいでしょうか。隣国のペルシャ、サファーヴィー朝との戦いに倦んで、国内で増えてきた珈琲店や神秘主義の宗教集団を、不寛容なイスラム過激派ヌスレト派が襲撃したりして、町には不穏な空気がたちこめています。余談ですが、珈琲店が襲撃されたというのは”目や胃を破壊し、理性を曇らせて信仰心を見失わせる、西洋人も珈琲に毒されていった、悪魔の飲物”と思われていたらしく、当時、排斥されていたのはアルコールだけではなかったのが興味深いです。
繰り返し出てくる主題は、細密画絵師たちの芸術に対する真摯な懊悩です。そもそもイスラムでは偶像を描くことが禁止されています。いろいろと説があるようですが、魂を持った生き物すべての絵を描くことはいけない、なぜかといえば、すべては神の創造物であり、その創造物のひとつである人間が、神の作ったものを描くことは不遜・・・みたいな発想だそうです。ここまで説明されても、それの何がいけないのか日本人にはわかりにくいと思いますが・・・。なので、絵を描くことそのものを職業にしている自分たちは異端ではないのか?という後ろめたさが、この作品に登場する絵師たちにも常につきまとっています。
また、古い時代から受け継いできた技法、ヘラートやタブリーズの天才画家の手法、つまりは平面的、類型的な描き方という意味のようですが、それを神の視点とみなし、そしてこの頃にベネチアから入ってきた遠近法の手法を異端とみなしていたようです。けれど皇帝から注文された絵画は遠近法で描くようにと命じられる、絵師によっては割り切る者もおり、罪悪感が消えない者もいる、小説の中ではその心情がこんなふうに表現をされています。
”遠近法の知識を用い、西欧の名人たちの様式に追随するのは悪魔の誘惑。”
”最後の挿絵には、死せる定めの人間の顔が西欧人の手法で描かれているんだ。絵じゃなくて本物を見たと錯覚するような顔がね。今に、異教徒どもが教会でするようにその絵に額づく輩まで出るかもしれないね。遠近法というのは、細密画にあるべき神の視点を犬のそれにまで貶めるだけじゃない、既知の様式と異教徒どもの技術や様式が混ざり合って、僕たちの純潔は汚され、連中の奴隷に成り下がってしまう。”
”汚らしい野良犬の目を借りて遠近法を用いている。「モスクは後ろの方にあったから」などと言い訳して、蝿とモスクを同じ大きさに描いて、信仰につばを吐きかけている。”
現代で私たちが当たり前としている遠近法を使った絵画にここまで嫌悪感を持つことはなかなか理解しがたいですが、当時の、そしてイスラムの見方というのはそういうものだったのでしょう。
一見イスラム色が強い小説のように見えますが、作者はアメリカに長期で滞在しコロンビア大学で客員教授をされていたということ、それでなくても現代のトルコは世俗主義の方が強く、描きたかったのはイスラム思想的なものではなく、個人的な感想ですが、芸術と人間だったような気がします。
現在のアフガニスタンやイラン、中央アジアにあった古い王朝とその栄華の話が何度も登場し、画家の名前、その手法と特徴などが述べられ、中国から地中海にかけて、深い交流があったことが伺われます。また、描かれる主題は主にペルシャの伝説や神話、叙事詩、恋愛詩であるところを見ると、文化的にはペルシャ文化がこのあたりを席巻していたことがわかります。絵に関して言えば、中国から龍の絵や水墨画なども伝わり、美女の顔を目が釣りあがった中国風の細い目で描くことがよくあったとか、オスマン帝国の絵師たちが様々な手法を取り入れていたことも述べられています。
これらに加えて、画家たちの人間的な側面、虚栄心、出世欲、当時普通だったらしい男色の恋心のこと、一応の主人公である絵師カラといとこのシェキレの恋愛と、結婚までに至る問題、そしてシェキレの父親で有名な絵師でもあったおじ上と絵師”優美”の殺人事件、皇帝がその解決をカラとその上司であるオスマン棟梁に命じたことなどが平行して進みます。ヒロインのシェキレに関しては、絶世の美女として描かれていますが、あまり聡明だとは思えず、行動も意味不明で打算的、卑怯なところもあり、そんなに魅力的な女性だろうか?と思ってしまいました。
歴史や美術に関する記述がかなりの割合を占めるので、それらに興味のない人は途中でいやになってしまうかもしれません。殺人事件を追及するミステリとしても読め、そのあたりは結構はらはらしますが、そちらの方は合間合間に進むので、ミステリ目当てだけで購入すると途中で息切れしてしまうかも。
この本に関しては、先にあとがきを読んでしまうのもありだと思います。ネタばれにはなっていませんし、物語の背景になる当時のイスタンブルとオスマン帝国全体の様子、歴史、細密画に関して、そして作中でひんぱんに登場するペルシャ文学作品についても、詳しく説明されています。
2013年6月10日に日本でレビュー済み
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上記、下巻と同様。
以前、藤原書店発行の和久井路子訳を読む努力をしたが、あまりにも翻訳がこなれておらず遂に最後まで読まずに諦めた。 今回の新訳はさすがに良くこなれた文章となっており、著者の意図したところが、よく伝わって来た。翻訳者、宮下氏の感謝。
以前、藤原書店発行の和久井路子訳を読む努力をしたが、あまりにも翻訳がこなれておらず遂に最後まで読まずに諦めた。 今回の新訳はさすがに良くこなれた文章となっており、著者の意図したところが、よく伝わって来た。翻訳者、宮下氏の感謝。