既視感を覚えました──ユーザを知らずにデザインされたウェブサイトの「不都合な真実」について、ヤコブ・ニールセンが繰り返し警告していた時代を。
もちろん、今は「ユーザビリティ」が主題になる時代ではありません。しかし、もし（高齢の）ユーザが「かすむ目」「遠い耳」「震える手」で使うとすれば、果たして現代のウェブサイトやスマホアプリは「使用可能」と言えるのでしょうか？
高齢化は先進国が抱える共通課題です。そして、特に日本は深刻な状況で、65歳以上の高齢者は人口の28%、本書が定義する50歳以上ならば46%に達しています。つまり、少なくとも四分の一、多めに見れば約半分のユーザは高齢者なのですが、製品開発の現場で「高齢者のペルソナ」を定義することは稀でしょう。今も「不都合な真実」は続いています。
本書は、そんな高齢化時代における「シニア・ユーザビリティエンジニアリング原論」です。
1章～2章は本書の導入部です。特に2章で高齢者像を「6体のペルソナ（本書の表紙の人々）」として紹介しているのがユニークです。
3章～9章が本書の中核部です。各章（視覚・聴覚・運動能力など）は①加齢による変化の解説②これは×、これは〇というデザインの例示③シニア向けデザインガイドラインの提示──という構成になっています。
本書の後半は、10章はシニアを対象とした調査・テストの方法、11章はケーススタディ、12章は総まとめ、となっています。
本書を読むと、シニア向けUI開発の方法は、ニールセン等が提唱したユーザビリティエンジニアリング（またはUCD/HCD）と同じであることが分かります。つまりシニア向けデザインガイドラインの活用と、シニアを対象とした調査・テストの実施です。
本書の第一著者は『Mind in mind（邦題：UIデザインの心理学）』のジェフ・ジョンソン、そして訳者は元・ユーディットで現・清泉女学院の榊原さんです。4色カラー印刷の紙面と、訳者による充実した「訳注」が嬉しい1冊です。
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