とても面白かった。
しかし、一般的な面白さの定義には当てはまらない部分が多い作品であった。
私以外の読者もこの作品が単純に面白いと言えない人は多いだろう。
読む人によっては駄作にもなりえるだろうし、人生で出会った中での一番の傑作となる人もいるだろう。そのブレが大きい。
そういう意味では万人向けでないと思う。
確実に言えることは、私は今まで小説を読んだ中で一番感情を揺さぶられた。
一度読み始めるとページをめくる手が止まらなかった。
そして読み終えた後、この本からたくさんのものを貰ったと感じた。
もう一度読みたいと思った。今も何回目かを読み進めている途中だ。
だからもう一度書く。この本は面白かったと。
この本を客観的に評価するなら、もの凄くリアルな小説だ。
小説というものは、まぁ必ず登場人物がいると思うのだが、
人が人を書くとどうしても現実にはありえない人物像になってしまう(と思う)。
小説というものは起承転結、オチをつければいけないので、
どうしても都合の良い部分が出てきてしまう。
それが悪いと言っているのではない。小説としてはごく自然なことだし、
魅力的なキャラクターこそが魅力的なストーリーを奏でるのだ。
焦点は、私がこの本については現実味を大きく感じたということだ。
しかし、やはり登場する人間については現実との剥離を感じてしまった。
ただ、ギリギリまで真実味があるように描写されていると思う。
芯の部分は猫の描写だ。これがすごい。
実際に猫を飼った人ならわかるだろうが、猫の仕草と感情表現が如実に表現されている。
勿論、猫の感情が理解できるわけはないので、
作中においても登場人物が猫に対して感じ、想像した思いが描写されているのだが、
自分の飼い猫がそうでなくても、こういう猫いるなと共感する人は多いだろう。
目を閉じればその情景が簡単に想い起せた。
ただ、登場する猫が現実と剥離していないかというとそうではなくて、
猫としておかしいところ、立派すぎるところもあるのだが、
作中にちりばめられたなにげない猫の所作一つ一つがリアリティを感じさせるのだ。
さて、本書は3部構成になっている。
おそらく作者の書きかかった部分は、やはり3章でろう。この章を読まなければこの本を読む意味はない。
では1章2章はどうなのかというと、私は1章と2章があるからこそ、この物語のリアリティを強調されていると考える。
3章は特にメッセージ性が強い。
ただそれは狙ったものではなく、人生の折り返し地点を過ぎた後の、
生きるという行為をただただ純粋に見つめ、思うことを淡々と書くことで
読者が日頃無意識に考えないようにしている、非常に重要だが目を逸らしたくなる真実を考えさせるからだろう。
それに比べると1章と2章はメッセージ性が低い。
勿論、3章に比べればという話で、考えさせられる要素はいくつもある。
表面上穏やかに過ぎる日常の裏で、人間の暗く湿ってドクドクと熱く脈打つような感情を生々しく描写しており、
読者の中にも潜む魔物を再確認させるのだ。
だが、日常は得てして1つの価値観で図ろうとした際には混沌としたものであり、
登場人物たちの思惑は、我々の思考が人それぞれであるように、発散する。
そのため、ストーリー上無価値と思える思考や出来事が多く、結果として2章までのストーリーをうまく飲み込めない人もいるだろう。
私はこの部分にこそ、本書のリアリティの土台があると考える。
本書は猫の一生を書いたものである。ストーリーテラーはそのときに猫と交わる人間だが、
彼らは主人公のようであり、ある意味では脇役のようでもある。
一生は長い。後で記憶に残るのは楽しかったことや悲しかったことだが、
残りの大半は雑多で無価値なものではないだろうか。
逆に言えば、その大半のものがあるおかげで、記憶に残るエピソードはより印象的に感じるのだ。
本書にも同じことが言える。
雑多で意味があるのかわからないエピソードがあるからこそ、
悲しいこと、楽しいこと、憤ること、嬉しいことが際立って観えるのだ。
それが人工的な盛り上がりではなく、自然に心を打つリアリティを作品に与えているのだろう。
さて、最後になったがもう一度書かせてもらう。
この本は人を選ぶ。
まず、最低限ペットを飼って愛を注いだ経験のある人間でなければ、登場人物の感情についてはいけないだろう。
さらに言わせてもらうならば、
ペットを含む家族の最後を見届けたことのある人、または人生が変わるくらいの挫折を経験した人間は
本書を最も楽しむことができるだろう。
だが最も重要なのは、家族への愛である。
その意味の片鱗でも実感し、噛み締めている人は、本書を読んで損はないだろう。
興味のある人はぜひ一読してみることをお勧めする。
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猫鳴り (双葉文庫) 文庫 – 2010/9/16
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購入オプションとあわせ買い
流産した哀しみの中にいる夫婦が捨て猫を飼い始める。モンと名付けられた猫は、夫婦や思春期の闇にあがく少年の心に、不思議な存在感で寄り添ってゆく。まるで、すべてを見透かしているかのように。そして20年の歳月が過ぎ、モンは最期の日々を迎えていた。濃密な文章力で、生きるものすべての心の内奥を描き出した傑作。
- 本の長さ216ページ
- 言語日本語
- 出版社双葉社
- 発売日2010/9/16
- ISBN-104575513784
- ISBN-13978-4575513783
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出版社より
商品の説明
著者について
1948年大阪府生まれ。主婦、僧侶、会社経営などを経て2004年『九月が永遠に続けば』で第5回ホラーサスペンス大賞を受賞。圧倒的な筆力が選考委員に絶賛される。他の著書に『彼女がその名を知らない鳥たち』『アミダサマ』『痺れる』がある。
登録情報
- 出版社 : 双葉社 (2010/9/16)
- 発売日 : 2010/9/16
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 216ページ
- ISBN-10 : 4575513784
- ISBN-13 : 978-4575513783
- Amazon 売れ筋ランキング: - 43,472位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 316位双葉文庫
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著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2015年12月24日に日本でレビュー済み
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三部構成なのだが、二部でモンが子猫の死骸をさらって食べる?のはどういう意味を持たせているのか。行雄がどうだというのか?作者がここで何を言いたいのか理解できなかった。一部で猫を捨てにいき、三部で飼うことになった猫の死を看取る。アリヤマアヤメに関しては素っ気なさすがすぎと感じた。でも猫に感情移入していないところに好感を持てたし、全体として気持ちよく読ませてくれました。
2022年5月26日に日本でレビュー済み
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自分の猫が虹の橋を渡ってから半年を過ぎこの本と出合いました。三部構成の内第一部と第二部を読んでいる途中何度も読むのを挫折しそうになりましたが、この第三部が凄かった。描写があまりにも浮かんできてこんなに泣いたことは猫が死んで以来かもしれません。救いがあった、第三部に出てくる獣医がマリア様に思えてくる。ここに出てくる「自然」という言葉の意味が素晴らしい。この本が映画化されたらたぶん見に行くと思うけど、第一部と第二部を映像化するのは難しいのではないかと思う。河瀬直美監督あたりが撮ると面白いと思うけど。読むのは辛かったけど第一部と第二部あっての第三部なんだろうな。
2018年5月5日に日本でレビュー済み
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「ユリゴコロ」で沼田まほかる作品に興味が湧き購入しました、三部作構成になってますが物語は全て繋がっています、三部作とも主役は猫の「モン」だと感じました、しかしストーリーは全く違います、相容れない3つの話の中に作者のメッセージが込められていて、読み終わった後に何かを得られる物語だと思います、が、一度読んだ感想ではそのメッセージがよくわかりませんでした(読解力無さすぎ!)
しかしまほかるさんの表現力の豊かさと細かい描写は感動ものです、どの描写も目を閉じれば光景が浮かんできます、特に三部では「モン」が天寿をまっとうしこの世を去りますが第1部で生まれたばかりの子猫で登場する「モン」が年老い、そして次第に弱り身体の自由が効かなくなる中で飼い主の心の葛藤とその飼い主の気持ちを分かっているかのような「モン」の行動、そして「モン」が静かに息をひきとる所で物語は終わりますが、猫を飼ったことの無い私でも最後は涙が出ました、それほど描写が細かく繊細でわかりやすいのです、ただ最後までこの物語のメッセージがわからなかった点が残念に思います、猫を通し我々人間に何を伝えたかったのか、この世はなんなのかもう一度読んでメッセージを受け取りたいと思います。
しかしまほかるさんの表現力の豊かさと細かい描写は感動ものです、どの描写も目を閉じれば光景が浮かんできます、特に三部では「モン」が天寿をまっとうしこの世を去りますが第1部で生まれたばかりの子猫で登場する「モン」が年老い、そして次第に弱り身体の自由が効かなくなる中で飼い主の心の葛藤とその飼い主の気持ちを分かっているかのような「モン」の行動、そして「モン」が静かに息をひきとる所で物語は終わりますが、猫を飼ったことの無い私でも最後は涙が出ました、それほど描写が細かく繊細でわかりやすいのです、ただ最後までこの物語のメッセージがわからなかった点が残念に思います、猫を通し我々人間に何を伝えたかったのか、この世はなんなのかもう一度読んでメッセージを受け取りたいと思います。
2016年9月27日に日本でレビュー済み
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好みの問題だと思いますが私はあまり好きな本ではありませんでした
2014年11月8日に日本でレビュー済み
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猫鳴りとは、猫がごろごろとのどを鳴らす状態のことでした。
モンと名付けられた猫にまつわる、三者三様の世界なのですが、
とにかく重いです。
重いというよりも濃いのかな?
濃いというより達観?
後半のモンの死に至るまでの時間の濃さは・・・
たぶん、猫と暮らさないとわからないかもと思います。
たかが猫、されど猫。
ちょっと消化するまで時間のかかりそうな小説でした。
モンと名付けられた猫にまつわる、三者三様の世界なのですが、
とにかく重いです。
重いというよりも濃いのかな?
濃いというより達観?
後半のモンの死に至るまでの時間の濃さは・・・
たぶん、猫と暮らさないとわからないかもと思います。
たかが猫、されど猫。
ちょっと消化するまで時間のかかりそうな小説でした。