とってもとっても興味深い内容だった。
「ソ連の崩壊後にロシアがＮＡＴＯ入りを希望していた」などの話はまったく初耳だった。「ウクライナがソ連時代に人工的に造られた国」であるということも、多くの人々は知らないと思う。
トランプ大統領の誕生に関して、私はトランプさんの保護貿易主義が何よりも心配だが、英国で学んだ友人は「ネオコンの時代が過ぎ去って嬉しい・・・」と大喜びしている。
東郷氏が言っている「外交の基本」すなわち「徹底的に相手の発想の文脈に入り込んで考えるという基本が米国のリーダーには足りない」ことがよくわかる。
また、西欧の知識人がロシアを見下しているように感じられているという何とも言えない雰囲気も、言われてみるとよくわかる。思えば、ドストエーフスキーの小説にもそんな雰囲気が出ている。
一番印象的だったのは、P160のドイツ首相ビスマルクの言葉「ロシアの力を破壊するには、ひとつの国家の中でウクライナとロシアを戦わせること。ウクライナのエリート層から裏切り者を見つけて育成してウクライナ人達の意識を変えさせて、ウクライナがロシアを憎むようにし向け、あとは勝手に崩壊させる(要約)」。
バイデンやその側近(ネオコン)がそこまで考えていたかは分からないが、ロシアの指導者層がそのような懸念を持っていることはよく分かったし「プーチンがウクライナの指導者層をネオナチと呼ぶことの意味」がよくわかった。
日本や欧米の報道を見ていると、プーチンがネオナチの脅威を語ることに「何という現実離れしたデマゴーグだろう」としか思えなかったが、このビスマルクのことばの引用を見ると、プ―チンの懸念がよくわかる。
著書内には、ロシア正教を含む正教の流れとカトリックやプロテスタントの西方教会の確執のことが書いてある。今回の戦争でひや水を浴びせられたが、最近の神学のレベルでは、東方教会、とくにロシア正教に対する評価がとっても高まっている現実がある。
私自身、ラテン化された西方教会での神学、とくに法律論的な義認論中心の神学にはどうしても馴染めないものがあり、東方教会の正教の「より根源的な神のエネルギーにあずかる神学」の方が馴染める。多くの日本人も正教の神学の方がより心の奥に届くのではないだろうか。正教の神学の流れをもっと好意的に理解するべきであろう。
ただ、どちらにしても、ウクライナの方々のロシア人嫌悪がどんどん激しくなって、同時に、多くの東欧諸国（ハンガリーは別として）がロシアの脅威を本当に切実に感じているということは決して否定できない事実だ。
ロシアが、今回の「特別軍事作戦」を「欧米諸国の攻撃に対する大祖国戦争と捉えている」という感じはわかったが、現実のウクライナの人々（たとえウクライナ語圏が中心と言われようとも）が、ロシアの脅威や圧政に苦しんでいたという事実は、私のウクライナ出身の友人からも昔から聞いていた。そのウクライナ語圏の人々の「うめき」が忘れられることのない、まさに外交の原点に立ち返る解決策が生まれることを心より願っている。
このような素晴らしいご本を出版してくださったご労苦に、心よりの感謝を申し上げたい。
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