水族館が好きだ。
…と言っても、別に魚が好きな訳でもなければ、魚に関する知識がある訳でも無い。
ただ、何となく、あの独特の空間にいると心が落ち着くのだ。
そんな時、本書に出逢った。
本書は水族館の歴史を通史として扱った上で水族館が直面している諸問題をも取り上げているので多くを学ぶ事が出来るが、それ以上に嬉しかったのは、何よりも「何故、私達は水族館が好きなのか」という理由を教えてくれた事である。
本書は、水族館の歴史を辿った「水族館前史」、様々な展示や研究所としての役割に着眼した「モダンでレトロな近代水族館の世界」、日米の水族館を歴史と共に読み解いた「日米の水族館と激動の時代」、水族館のテーマパーク化を論じた「非日常体験を求めて」、そして現代の水族館のあり方に言及した「水族館は境界を超えて」を以って幕を閉じている。
図版や写真も豊富…且つ、具体的な事件や逸話の紹介も充実しているし、また、重い内容も扱いながら、所々に息抜き程度の面白い表現がある上に解り易い例(ディズニーランドと水族館の比較等)を挙げていたりもするので、堅苦しくない所に好感が持てるであろう。
因みに、既に古代に水族館の前身があった事には驚きを覚えたし、また、予想以上に古くから水の循環や照明技術が発達していた事を知ったのも面白い。
更には、水族館史では後発のアメリカが“ディズニーランド的”発想を以って世界をリードしていったのには大いに頷けたし、対して、我が国の地道な努力も興味深かった。
だが、こうした華々しい発展の陰には暗い歴史があった事も忘れてはならない…例えば、大戦時に破壊された水族館の悲劇をダンテ『地獄篇』と対比させている所は衝撃的でもあるし、或いは、シャチがトレーナーを殺傷した痛ましい事件を通して“エンターテイメント”化したショーのあり方を考えさせられたりもする。
また、動物保護問題は重要な課題である一方で、だからと言って実際の生き物を使わない「ヴァーチャル水族館」や「魚ロボット」ともなると、最早、恐ろしくもなって来る。
確かに、動物保護と教育の場だけを考えれば、全てコンピューターで用は足りるかもしれない…だが、それでは一体、私達が大好きな水族館は何処に行ってしまうのだろうか?
そして、もう一つ重く受け止めるべきは、水族館は決して「実際の海の再現」ではない…即ち、著者の言葉を借りるならば、それは「編集された自然」だという事であろうか。
だが、こうした現実を突き付けられる事に依って、水族館の魅力が失せてしまうのかと言えば、答えは、否-何故なら、私達はそれが真実の世界かどうかではなく、仮に虚構の世界であろうとも“癒し”や“娯楽”の場として水族館を楽しむ時代に突入しているからだ。
嘗て『海底二万海里』という小説が大人気を博した。
物語では人間が深海に潜ったが、その深海を陸で再現しようとしたのが水族館でもあり、当時はここに夢やロマンを求めていた…だが、そんな時代が終わり、私達は次なるステップを歩みつつある。
虚構の世界をまるで現実のように演出し、尚且つ動物達を守る…世界の水族館は今、岐路に立たされているのかもしれない。
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水族館の文化史―ひと・動物・モノがおりなす魔術的世界 単行本(ソフトカバー) – 2018/6/25
溝井裕一
(著)
古代から現代までの人と水生生物をめぐる関係を、水族館の変遷から読み解く
ひとが「魚を見ること」にはどんな意味が秘められているのか。
古代の養魚池文化にはじまり、黎明期の水族館のユニークな展示、植民地支配とのかかわり、SF小説や映画の影響、第二次世界大戦中の苦難、展示のストーリー化、さらにはヴァーチャル・リアリティ技術とのハイブリッド化が進む最新の水族館事情など、古今東西の水族館文化を図版とともに概観、ガラスの向こう側にひろがる水の世界へいざなう。 カラー・モノクロ図版を200枚以上掲載!
<目次>
はじめに ガラスのむこうの「海」
第1章 水族館前史
1 古代人の水族「観」
2 中世ヨーロッパにおける水族「観」
3 「紙の水族館」あらわる――近世~近代ヨーロッパの博物学
コラム1 日本神話における水界と水族のイメージ
コラム2 中国・日本における藻魚図と本草学
コラム3 金魚文化の隆盛
第2章 モダンでレトロな近代水族館の世界
4 「アクアリウム」の誕生
5 帝国の水族館
6 夢の水族館つき実験所
コラム4 海の教会――ハンブルク動物園つき水族館
コラム5 英国軍艦「チャレンジャー」の航海
第3章 日米の水族館と激動の時代
7 星条旗のもとで――アメリカ水族館物語
8 陸にあがった「龍宮城」――日本人と水族館
9 激動の時代の水族館
コラム6 浦島太郎と龍宮
第4章 非日常体験を求めて――「テーマアクアリウム」の世紀
10 新しい展示、新しい海のイメージ
11 「海洋パーク」と「テーマアクアリウム」の出現
12 日本における「テーマアクアリウム」の発展
13 「体験消費の場」としての水族館
コラム7 水族館を経営するシミュレーションゲーム『テーマアクアリウム』
コラム8 沖縄国際海洋博覧会と海洋開発
コラム9 ショッピングモールのような水族館
第5章 水族館は境界をこえて――生きもの展示の未来
14 動揺する水族館
15 水族飼育をめぐる攻防――じっさいにあった事件が語ること
16 「ハイブリッド水族館」への道
注/図版出典一覧/主要参考資料・URL一覧
あとがき
ひとが「魚を見ること」にはどんな意味が秘められているのか。
古代の養魚池文化にはじまり、黎明期の水族館のユニークな展示、植民地支配とのかかわり、SF小説や映画の影響、第二次世界大戦中の苦難、展示のストーリー化、さらにはヴァーチャル・リアリティ技術とのハイブリッド化が進む最新の水族館事情など、古今東西の水族館文化を図版とともに概観、ガラスの向こう側にひろがる水の世界へいざなう。 カラー・モノクロ図版を200枚以上掲載!
<目次>
はじめに ガラスのむこうの「海」
第1章 水族館前史
1 古代人の水族「観」
2 中世ヨーロッパにおける水族「観」
3 「紙の水族館」あらわる――近世~近代ヨーロッパの博物学
コラム1 日本神話における水界と水族のイメージ
コラム2 中国・日本における藻魚図と本草学
コラム3 金魚文化の隆盛
第2章 モダンでレトロな近代水族館の世界
4 「アクアリウム」の誕生
5 帝国の水族館
6 夢の水族館つき実験所
コラム4 海の教会――ハンブルク動物園つき水族館
コラム5 英国軍艦「チャレンジャー」の航海
第3章 日米の水族館と激動の時代
7 星条旗のもとで――アメリカ水族館物語
8 陸にあがった「龍宮城」――日本人と水族館
9 激動の時代の水族館
コラム6 浦島太郎と龍宮
第4章 非日常体験を求めて――「テーマアクアリウム」の世紀
10 新しい展示、新しい海のイメージ
11 「海洋パーク」と「テーマアクアリウム」の出現
12 日本における「テーマアクアリウム」の発展
13 「体験消費の場」としての水族館
コラム7 水族館を経営するシミュレーションゲーム『テーマアクアリウム』
コラム8 沖縄国際海洋博覧会と海洋開発
コラム9 ショッピングモールのような水族館
第5章 水族館は境界をこえて――生きもの展示の未来
14 動揺する水族館
15 水族飼育をめぐる攻防――じっさいにあった事件が語ること
16 「ハイブリッド水族館」への道
注/図版出典一覧/主要参考資料・URL一覧
あとがき
- 本の長さ368ページ
- 言語日本語
- 出版社勉誠出版
- 発売日2018/6/25
- 寸法14.8 x 2.5 x 21 cm
- ISBN-104585222103
- ISBN-13978-4585222101
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商品の説明
著者について
溝井裕一(みぞい・ゆういち)
関西大学文学部教授。博士(文学)。専門は西洋文化史、ひとと動物の関係史、ドイツ民間伝承研究。主な著書に、『動物園の文化史―ひとと動物の5000年』(勉誠出版、2014年)、『ファウスト伝説―悪魔と魔法の西洋文化史』(文理閣、 2009年)、編著に『グリムと民間伝承―東西民話研究の地平』(麻生出版、2013年)、共編著に、『想起する帝国―ナチス・ドイツ「記憶」の文化史』(勉誠出版、2016年)などがある。
関西大学文学部教授。博士(文学)。専門は西洋文化史、ひとと動物の関係史、ドイツ民間伝承研究。主な著書に、『動物園の文化史―ひとと動物の5000年』(勉誠出版、2014年)、『ファウスト伝説―悪魔と魔法の西洋文化史』(文理閣、 2009年)、編著に『グリムと民間伝承―東西民話研究の地平』(麻生出版、2013年)、共編著に、『想起する帝国―ナチス・ドイツ「記憶」の文化史』(勉誠出版、2016年)などがある。
登録情報
- 出版社 : 勉誠出版; A5版 (2018/6/25)
- 発売日 : 2018/6/25
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 368ページ
- ISBN-10 : 4585222103
- ISBN-13 : 978-4585222101
- 寸法 : 14.8 x 2.5 x 21 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 455,124位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 2,433位文化人類学・民俗学 (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2018年12月4日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2021年11月2日に日本でレビュー済み
動物園の文化史に続く大作。動物園、水族館、博物館に興味のある方には是非お勧めしたい。水族館の成り立ちから文化的歴史的背景を掘り下げていく取り組みは著者ならではのアプローチです。特に水族館本は関係者のものがほとんどなので著者のように文化史から読み解くのは独壇場です。脚注だけで30頁に及ぶ莫大な研究成果としても読み応えがあります。ブラックフィッシュ対シーワールドの件も冷静に両者の論拠を分析しており好感が持てました。