かなり濃度の濃い現状の日本へのﾒｯｾｰｼﾞが詰まったｲﾍﾞﾝﾄ報告集だったと思ひました。六年にわたって計六回行なはれましたｲﾍﾞﾝﾄ「TOKYO憲法ﾄｰｸﾗｲﾌﾞ」は、憲法ﾌﾞﾙｰｳｪｰﾌﾞといふ有志団体が主催したものです。憲法改正を中心に据ゑて活力ある日本の未来を目指すものでありました。
本書を読んでゐて思ふのは、このﾄｰｸﾗｲﾌﾞには新しい発見のやうな卓見が方々にあり、本当に画期的な内容に満ちてゐる事です。私なりの氣づきが結構ありましたので、以下幾つかを列挙します。
先づ、ｹﾝﾄ•ｷﾞﾙﾊﾞｰﾄ氏が日本で言はれてゐる「平和主義」は英語のﾊﾟｼｨﾌｨｽﾞﾑであり、単に戦争をしないだけの「不戦主義」といふ敗北主義に近いものだといふ指摘は貴重でした。本物の平和主義は、戦争がない状態を維持しようとする努力を伴なふものであります。つまり、軍事力がこちらになければ何の力にもなりません。ですから、言ってみれば、口先だけの口舌の徒を生むやうな安易さが今の日本にあるのだと思はれてなりません。
次に、ｼﾞｪｲｿﾝ• ﾓｰｶﾞﾝ氏の日本の憲法が「ｱﾒﾘｶが戦いの延長線上でつくった、いわば戦争のﾌﾟﾛﾊﾟｶﾞﾝﾀﾞにすぎないと私は思います。」といふ貴重な指摘であります。今年の五月の憲法ｼﾝﾎﾟでも同趣旨の内容を述べられてゐますし、氏の誠実な良心の発露と感じられてとても勇氣づけられるものがあります。
三つ目は、元海将の伊藤俊幸氏の平成十五年(2003)に制定された「事態対処法」(有事関連三法)で、日本は自国を守るために戦へる状態になってゐるといふ驚くべき指摘です。政治的な攻防と実態は違ふんですね。更には、最小限度を超える武器とは何かについては、それが核兵器だといふ明確な説明は成程と感じました。実務者の冷静な分析は冴えわたってゐました。
四つ目は、石平氏が中共が人権問題で現在西欧諸国と冷戦状態になってゐるといふ指摘であります。ウイグル人等に対する弾圧はもう「ｼﾞｪﾉｻｲﾄﾞ」と認定されるﾚﾍﾞﾙ位にまでなってしまってゐます。鈍感で甘々の日本の対応は大いに反省が必要かも知れません。
最後は、兼原信克氏が冷戦後の国際秩序についてﾛｼｱを指して「警察が強盗になった」との端的な指摘は大変印象的でありました。そして、近代以降の各国の歩みと流れを分かりやすくｼｬｰﾌﾟにｺﾒﾝﾄしてくれ、大いに勉強になりました。その分かりやすさと鋭い考察力はさながら私が兼ねて愛読してゐます北岡伸一と同種のﾚﾍﾞﾙに達してゐると感じてゐます。
これ位では、未だ未だ列挙し足りない感もあるのですが、細かくなり過ぎてしまふので今日はこれ位にしたいと思ひます。兎に角、この報告集は本当に素晴しい輝きを帯びてゐますので、又、再読、三読したく存じます。
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