日本には「文系野球」という言葉があるが、もし「文系蹴球」という言葉が存在すれば、その面白さが存分に詰まっている本だ。
サッカー草創期から2011年ごろまでのGKの歴史が数多の守護神たちの足跡を通じて書かれている。
詳細なプロフィール、プレースタイル、読めば必ず頭に残るエピソードなど取り上げられているGKたちに関する細かい記述には目を見張る。
例えばヘルムート・ドゥカダム(ルーマニア)がどのようにしてPKを4本立て続けに止めたかを詳しく語る場面は、GK好きにはたまらないだろう。
紹介されたGKには映画の題材になった者もいる。
ミコラ・トルセビッチ(ウクライナ)は、映画『勝利への脱出』のモデルとなったウクライナチームとナチス・ドイツ空軍チームで行われた「死の試合」に出場したGKだ。この試合についてはアンディ・ドゥーガン『ディナモ』に詳しい。
バーン・トラウトマン(ドイツ)は、第二次世界大戦でイギリス軍の捕虜となり収容所でGKとしてのキャリアをスタートさせた。その後、マンチェスター・シティでFAカップ優勝に貢献する名GKとして活躍する。映画『キーパー』は彼を主役とした物語である。
とにかくこの本は「良い蛇足」が多い。GKそのものだけでなく各国のサッカーのトレンドの変遷、社会情勢にも目を向け、社会とサッカーの発展がいかに関連づいているのかを示してくれる。著者は東欧のサッカー史に造詣が深いことから、その地域に関する記述が非常に詳しいのも特徴的だ。
「物事や人物は歴史で繋がっている」という普遍的なことがサッカーにも通ずることがわかる。「文脈」を知り、引き継ぐことがいかに大事で面白いか。この本の魅力だと思う。
繋がりという視点で最も僕が面白かったのは1970年代〜90年代に双璧をなした2人のカメルーン人GKの話だ。
彼らの名前はトーマス・ヌコノとジョゼフ=アントワーヌ・ベル。カメルーン代表の正GKの座をずっと争い、育ちも性格もプレースタイルもまるで違う宿命のライバルである。
2人のライバル関係もドロドロでおもしろいが、興味深いのはたどっていくと古今東西のGKの名前が彼らと様々な縁で結ばれていることだ。
2人を代表で指導してより高みへ導いたのがヴラディミル・ベアラ(ユーゴスラビア)だ。現代では無名だが、現役時代はヨーロッパ史上最高のGKの一人と称された。
そして「世界最高のGKは自分ではなくベアラ」と公言したのが、GKで唯一バロンドールを受賞したレフ・ヤシン(ソ連)だ。
1990年イタリアW杯に出場したカメルーン代表は3人のGKを連れてきた。ヌコノ、ベル、そして若手のソンゴォだ。
彼は後にある伝説のチームの正GKとして名を馳せる。1999-2000シーズンにリーガ・エスパニョーラを優勝したデポルティボ・ラ・コルーニャ、通称「スーペル・デポル」である。
スペインのエスパニョールで活躍したヌコノは、現役引退後もスペインでGKの育成に力を注いだ、彼の薫陶を受けたのが、エスパニョールとカメルーン代表のGKとして活躍したのがカメニである。
さて直接縁があったわけではないが、テレビで見たヌコノのプレーに衝撃を受け「私のアイドル」と言ってやまない選手がいた。その崇拝ぶりは長男に「トーマス」と命名するほどだ。その選手とはジャンルイジ・ブッフォン。先日引退を発表した、誰もがうなづく世界最高峰のGKである。
とあるアフリカの国のGKを起点に、世界中のGKが相関図を書ける勢いで繋がっていく。あらゆる歴史や文脈を知る面白さの一端を体感した。
最後に著者は「知識人にGK経験者が多い」と書いている。アルベール・カミュ、コナン・ドイル、チェ・ゲバラ、ヨハネ・パウロⅡ世などだ。
訳者あとがきにもあるようにこの本は日本人GKにはまったく触れられていない。当然ながら日本の知識人にGK経験者がいるかは分からない。そこでちょっと自分で考えてみることにした。
少なくとも1950年代ぐらいまでの日本代表選手はそもそも知識人の素養があると思う。出身大学を見ると現代でいう高学歴だらけである。東大や早慶、関大、関学などがリードしてきたのが当時の日本サッカー界だからだ。
例えば、1936年ベルリンオリンピックで優勝候補のスウェーデン相手にビッグセーブを連発し「ベルリンの奇跡」と呼ばれる勝利に貢献した佐野理平は、早稲田大出身でのちに三井グループの企業の役員まで出世している。兄は衆議院議員だ。このようにビジネスマンとしてある程度の地位に登った選手はちらほらいる。
ではもう少し「知識人」ぽい日本人GKはいるのかと考えると2人思いついた。奇しくも両者とも1954年スイスW杯の出場を賭けた予選に出場している。
一人は村岡博人だ。共同通信社などに所属し社会派ジャーナリストとして活躍した。彼のジャーナリスト人生を取材した評伝も出ている。
もう一人は渡部英麿だ。広島県の邇保姫(にほひめ)神社の神主兼中学校教師という異色の経歴で代表に選ばれた選手だ。
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孤高の守護神 ゴールキーパー進化論 単行本 – 2014/5/29
ジョナサン ウィルソン
(著),
実川 元子
(翻訳)
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「アウトサイダー」と称される、サッカーGKの歴史と文化、各国事情を英国記者が徹底取材。ヤシンからカシージャスへ、超人的セーブからPK戦の心理まで、知られざる真相に迫る!
「たった一人超然と、ボールマウスの前に冷静に立ちはだかるゴールキーパーに、少年たちは魅了され、通りで見かければ追いかける。闘牛士か撃墜王を見るように、人はゴールキーパーを見て憧れに胸を震わせる。(中略)ゴールキーパーは孤独な鷹だ。神秘的で、最後の守護神だ。」(本文、ウラジーミル・ナボコフ自伝『記憶よ、語れ』より)
サッカーゴールキーパー(GK)の誕生から現代まで、各国事情を英国記者が徹底取材。レフ・ヤシンからイケル・カシージャスへ、GKはセーブの達人から攻撃の起点へと進化した!
サッカー選手のなかでも特異なポジションであり、英国ではかつて「異端視」されたGKは、戦争や政治に翻弄され、各国の歴史と文化が凝縮された存在と言える。
旧ソ連で「黒蜘蛛」の異名をとったヤシンの勇姿、イングランド、スペイン、イタリア、ドイツなど欧州各国のGKの知られざる系譜、カメルーン出身GKの欧州での苦難と成功、PKにおける心理戦の分析、元ナチで英国の捕虜となり、マンチェスターのクラブで活躍したGKの悲運など、博覧強記の著者が縦横に語る。また、映画『ゴールキーパーの不安』(ヴィム・ヴェンダース監督)や『勝利への脱出』(ジョン・ヒューストン監督)の考察、アルベール・カミュ、ウラジーミル・ナボコフといった、文学者たちによる「GK論」もじつに興味深い。
本書は、「一匹狼」とも称されるGKの進化と系譜をたどり、サッカー観戦の楽しみが倍増する無類の書。著者は他に『サッカー戦術の歴史』があり、本書も専門誌や書評で高い評価を受けている。
▼本書に登場する主要な「守護神」たち
ジェームズ・マッコーレイ / ウィリアム・「太っちょ」・フォルク / リー・リッチモンド・ルース
レフ・ヤシン / リナト・ダサエフ / イゴール・アキンフェエフ
リカルド・サモラ / プラッコ・フェレンツ / アルド・オリビエリ / ジョバンニ・デ・プラ / ジャンピエロ・コンビ / フランティシェク・プラーニチカ / ルディ・ハイデン / フラニョ・グラサー
グロシチ・ジュラ / エトヴィン・ファン・デル・サール / ウーゴ・ガッティ / ウバルド・フィジョール / ホルヘ・カンポス / ホセ・ルイス・チラベルト / レネ・イギータ
モアシール・バルボーザ / ジウマール / バウジール・ペレス / エメルソン・レオン / クラウディオ・タファレル / ジーダ / ジム・レイトン / アンディ・ゴラム
パット・ジェニングス / ゴードン・バンクス / ピーター・シルトン / レイ・クレメンス / デビッド・シーマン / ジョー・ハート
トーマス・ヌコノ / ジョゼフ=アントワーヌ・ベル / ジャック・ソンゴォ
ピーター・シュマイケル / ディノ・ゾフ / ジャンルイジ・ブッフォン / ゼップ・マイヤー / オリバー・カーン / ブラッド・フリーデル / ティム・ハワード / アンドニ・スビサレッタ / イケル・カシージャス / ヴィクトル・バルデス
イェンス・レーマン / ヘルムート・ドゥカダム / シュテファン・ストヤノビッチ / ゼッティ / カルロス
▼原題 THE OUTSIDER: A History of the Goalkeeper
「たった一人超然と、ボールマウスの前に冷静に立ちはだかるゴールキーパーに、少年たちは魅了され、通りで見かければ追いかける。闘牛士か撃墜王を見るように、人はゴールキーパーを見て憧れに胸を震わせる。(中略)ゴールキーパーは孤独な鷹だ。神秘的で、最後の守護神だ。」(本文、ウラジーミル・ナボコフ自伝『記憶よ、語れ』より)
サッカーゴールキーパー(GK)の誕生から現代まで、各国事情を英国記者が徹底取材。レフ・ヤシンからイケル・カシージャスへ、GKはセーブの達人から攻撃の起点へと進化した!
サッカー選手のなかでも特異なポジションであり、英国ではかつて「異端視」されたGKは、戦争や政治に翻弄され、各国の歴史と文化が凝縮された存在と言える。
旧ソ連で「黒蜘蛛」の異名をとったヤシンの勇姿、イングランド、スペイン、イタリア、ドイツなど欧州各国のGKの知られざる系譜、カメルーン出身GKの欧州での苦難と成功、PKにおける心理戦の分析、元ナチで英国の捕虜となり、マンチェスターのクラブで活躍したGKの悲運など、博覧強記の著者が縦横に語る。また、映画『ゴールキーパーの不安』(ヴィム・ヴェンダース監督)や『勝利への脱出』(ジョン・ヒューストン監督)の考察、アルベール・カミュ、ウラジーミル・ナボコフといった、文学者たちによる「GK論」もじつに興味深い。
本書は、「一匹狼」とも称されるGKの進化と系譜をたどり、サッカー観戦の楽しみが倍増する無類の書。著者は他に『サッカー戦術の歴史』があり、本書も専門誌や書評で高い評価を受けている。
▼本書に登場する主要な「守護神」たち
ジェームズ・マッコーレイ / ウィリアム・「太っちょ」・フォルク / リー・リッチモンド・ルース
レフ・ヤシン / リナト・ダサエフ / イゴール・アキンフェエフ
リカルド・サモラ / プラッコ・フェレンツ / アルド・オリビエリ / ジョバンニ・デ・プラ / ジャンピエロ・コンビ / フランティシェク・プラーニチカ / ルディ・ハイデン / フラニョ・グラサー
グロシチ・ジュラ / エトヴィン・ファン・デル・サール / ウーゴ・ガッティ / ウバルド・フィジョール / ホルヘ・カンポス / ホセ・ルイス・チラベルト / レネ・イギータ
モアシール・バルボーザ / ジウマール / バウジール・ペレス / エメルソン・レオン / クラウディオ・タファレル / ジーダ / ジム・レイトン / アンディ・ゴラム
パット・ジェニングス / ゴードン・バンクス / ピーター・シルトン / レイ・クレメンス / デビッド・シーマン / ジョー・ハート
トーマス・ヌコノ / ジョゼフ=アントワーヌ・ベル / ジャック・ソンゴォ
ピーター・シュマイケル / ディノ・ゾフ / ジャンルイジ・ブッフォン / ゼップ・マイヤー / オリバー・カーン / ブラッド・フリーデル / ティム・ハワード / アンドニ・スビサレッタ / イケル・カシージャス / ヴィクトル・バルデス
イェンス・レーマン / ヘルムート・ドゥカダム / シュテファン・ストヤノビッチ / ゼッティ / カルロス
▼原題 THE OUTSIDER: A History of the Goalkeeper
- 本の長さ390ページ
- 言語日本語
- 出版社白水社
- 発売日2014/5/29
- ISBN-104560083584
- ISBN-13978-4560083581
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商品の説明
著者について
ジョナサン・ウィルソン Jonathan Wilson
1976年生まれ。英『ガーディアン』『インディペンデント』などに寄稿する、スポーツ・ジャーナリスト。訳書『サッカー戦術の歴史 2-3-5から4-6-0へ』(筑摩書房)の他に、Behind th Curtain: Travels in Eastern European Football、Sunderland: A Club Transformed、The Anatomy of England: A History in Ten Matches、Brian Clough: Nobody Ever Says Thank Youの著書がある。
訳者:実川 元子(じつかわ もとこ)
上智大学外国語学部仏語科卒業。翻訳家、ライター。ファッションやライフスタイルをテーマに、新聞・雑誌・書籍の執筆、翻訳を行なっている。主要訳書:D・トーマス『堕落する高級ブランド』(講談社)、A・アリスン『菊とポケモン』(新潮社)、T・ミュラー『エキストラバージンの嘘と真実』(日経BP社)、メイバンク/ウィルソン『GILT』(日経BP社)、A・カプラノス『サウンド・バイツ』、D・ビーティ『英国のダービーマッチ』、コール他『サッカーが勝ち取った自由』、S・ブルームフィールド『サッカーと独裁者』(以上、白水社)など。
1976年生まれ。英『ガーディアン』『インディペンデント』などに寄稿する、スポーツ・ジャーナリスト。訳書『サッカー戦術の歴史 2-3-5から4-6-0へ』(筑摩書房)の他に、Behind th Curtain: Travels in Eastern European Football、Sunderland: A Club Transformed、The Anatomy of England: A History in Ten Matches、Brian Clough: Nobody Ever Says Thank Youの著書がある。
訳者:実川 元子(じつかわ もとこ)
上智大学外国語学部仏語科卒業。翻訳家、ライター。ファッションやライフスタイルをテーマに、新聞・雑誌・書籍の執筆、翻訳を行なっている。主要訳書:D・トーマス『堕落する高級ブランド』(講談社)、A・アリスン『菊とポケモン』(新潮社)、T・ミュラー『エキストラバージンの嘘と真実』(日経BP社)、メイバンク/ウィルソン『GILT』(日経BP社)、A・カプラノス『サウンド・バイツ』、D・ビーティ『英国のダービーマッチ』、コール他『サッカーが勝ち取った自由』、S・ブルームフィールド『サッカーと独裁者』(以上、白水社)など。
登録情報
- 出版社 : 白水社 (2014/5/29)
- 発売日 : 2014/5/29
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 390ページ
- ISBN-10 : 4560083584
- ISBN-13 : 978-4560083581
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,042,840位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 26,256位スポーツ (本)
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2014年12月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
国や地域別にGKの歴史や価値観を記していて興味深い。ページ数の割にかなり多くのGKを取り上げているため、各エピソードは短く簡単に紹介されているだけで物語的な面白さは感じなかった。ブラジルのGKの経歴について2か所間違いがあった。しかし、技術書以外でGKを扱っているだけでも貴重な本だと思います。
2015年1月9日に日本でレビュー済み
カバーに記された原題を見て納得した。”The Outsider”。本書はサッカーのゴールキーパーを切り口に、社会におけるアウトサイダー(異端者、のけ者、部外者)を語っている。
サッカー草創期にゴールキーパーはみそっかすだったそうだ。英国の学校では、下級生や身体の小さいヘタクソがゴールラインに一列に並ばされ、相手チームばかりか自分のチームのディフェンダーにまでボコボコにされた。うまくゴールを阻止すれば、「ご褒美に」フィールドプレーヤーに入れてもらえ、ミスをしたらまたGKに戻されたとか。ゴールの大きさが決められ、ゴールキーパーの役割とルールが定まったのが20世紀に入ってから。それでもまだゴールキーパーはチームの一員とは認められないアウトサイダーであり、みそっかすだったそうだ。
2014年ブラジルワールドカップはGKの大会だった。最優秀GKに選ばれたドイツのノイアーは言うまでもなく、メキシコのオチョア、コスタリカのナバス、ベルギーのクルトゥワなど、優れたGKの美技が光った。
それではGKはもうアウトサイダーではなくなった、と言えるのか? 著者は本書で、GKがチームに組み入れられて、ペナルティボックス内でゴールを阻止する役割だけでなく、攻撃の起点となる足元のうまさや戦術理解力も求められるようになった近代サッカーにおいても、やはりGKはサッカーチームの中ではアウトサイダーだ、という持論を展開する。なぜなら、サッカーの試合で人々が一番見たいと思っているゴールを阻止するから。なぜなら、一人だけ手を使ってもいいという特殊なルールが適用され、フィールドプレーヤーとは別の色のユニフォームを着せられるから。それは「おまえは(いい悪いは別にして)部外者だ」と宣告しているに等しい、と著者は折に触れて書く。
本書は各国のGK列伝である。だが、サッカー選手としての能力が優れたGKを追いかけるというより、その国、その時代のサッカーと社会に何かしらの足跡を残したGKについて語っている。取り上げられたGKの足跡は必ずしも、サッカー史上にだけ残っているわけではない。政治運動に率先してかかわったり、文学で優れた業績を残したりしたGKについても、熱く語る。
それは、著者が本書で書きたかったことが「社会においてアウトサイダーが果たしている役割」だからではないか。チームにおけるGKは、社会におけるアウトサイダーの位置づけと重なる、と著者は見ている。サッカーを通して社会や時代を語った本の大半は、フィールドプレーヤーや監督というインサイドの人間を取り上げている。だが、そもそもアウトサイドにいる人間を取り上げることで、より鮮明に見えてくる社会や時代の側面がある。一読してそこに気づいた。
著者のジョナサン・ウィルソンは以前に日本のサッカーについても取材をしていて記事を読んだことがある。だが、本書には日本はおろか、アジアのGKもたった一人しか取り上げられていない。今後、もし著者が日本サッカーと日本社会をもっと取材したとき、GKとアウトサイダーについてどんな論を展開するか。それが楽しみなようであり、ちょっと恐かったりもする。
サッカー草創期にゴールキーパーはみそっかすだったそうだ。英国の学校では、下級生や身体の小さいヘタクソがゴールラインに一列に並ばされ、相手チームばかりか自分のチームのディフェンダーにまでボコボコにされた。うまくゴールを阻止すれば、「ご褒美に」フィールドプレーヤーに入れてもらえ、ミスをしたらまたGKに戻されたとか。ゴールの大きさが決められ、ゴールキーパーの役割とルールが定まったのが20世紀に入ってから。それでもまだゴールキーパーはチームの一員とは認められないアウトサイダーであり、みそっかすだったそうだ。
2014年ブラジルワールドカップはGKの大会だった。最優秀GKに選ばれたドイツのノイアーは言うまでもなく、メキシコのオチョア、コスタリカのナバス、ベルギーのクルトゥワなど、優れたGKの美技が光った。
それではGKはもうアウトサイダーではなくなった、と言えるのか? 著者は本書で、GKがチームに組み入れられて、ペナルティボックス内でゴールを阻止する役割だけでなく、攻撃の起点となる足元のうまさや戦術理解力も求められるようになった近代サッカーにおいても、やはりGKはサッカーチームの中ではアウトサイダーだ、という持論を展開する。なぜなら、サッカーの試合で人々が一番見たいと思っているゴールを阻止するから。なぜなら、一人だけ手を使ってもいいという特殊なルールが適用され、フィールドプレーヤーとは別の色のユニフォームを着せられるから。それは「おまえは(いい悪いは別にして)部外者だ」と宣告しているに等しい、と著者は折に触れて書く。
本書は各国のGK列伝である。だが、サッカー選手としての能力が優れたGKを追いかけるというより、その国、その時代のサッカーと社会に何かしらの足跡を残したGKについて語っている。取り上げられたGKの足跡は必ずしも、サッカー史上にだけ残っているわけではない。政治運動に率先してかかわったり、文学で優れた業績を残したりしたGKについても、熱く語る。
それは、著者が本書で書きたかったことが「社会においてアウトサイダーが果たしている役割」だからではないか。チームにおけるGKは、社会におけるアウトサイダーの位置づけと重なる、と著者は見ている。サッカーを通して社会や時代を語った本の大半は、フィールドプレーヤーや監督というインサイドの人間を取り上げている。だが、そもそもアウトサイドにいる人間を取り上げることで、より鮮明に見えてくる社会や時代の側面がある。一読してそこに気づいた。
著者のジョナサン・ウィルソンは以前に日本のサッカーについても取材をしていて記事を読んだことがある。だが、本書には日本はおろか、アジアのGKもたった一人しか取り上げられていない。今後、もし著者が日本サッカーと日本社会をもっと取材したとき、GKとアウトサイダーについてどんな論を展開するか。それが楽しみなようであり、ちょっと恐かったりもする。
2014年10月19日に日本でレビュー済み
ゴールキーパーの発祥から、国・地域別のゴールキーパーの発展の経緯まで詳しく書いてあって面白い。
サッカー黎明期にはゴールキーパーそのものがなかったらしいが、今やスイーパーの役割を果たすのは常識的になっている。そして、ゴールキーパーという特殊なポジションについての各国での扱われ方の違い。それも、南米対欧州という簡単な構図ではなく、ブラジルとアルゼンチン、イングランドとスコットランドで全く扱いが違うのも興味深い。
常に考えることを強いられるゴールキーパーは、哲学者のように様々なことを自問する。列伝といっていいほど多くのゴールキーパーについて彼らが何を考えていたかを取り上げてあり、一読の価値がある。
サッカー黎明期にはゴールキーパーそのものがなかったらしいが、今やスイーパーの役割を果たすのは常識的になっている。そして、ゴールキーパーという特殊なポジションについての各国での扱われ方の違い。それも、南米対欧州という簡単な構図ではなく、ブラジルとアルゼンチン、イングランドとスコットランドで全く扱いが違うのも興味深い。
常に考えることを強いられるゴールキーパーは、哲学者のように様々なことを自問する。列伝といっていいほど多くのゴールキーパーについて彼らが何を考えていたかを取り上げてあり、一読の価値がある。
2015年6月13日に日本でレビュー済み
英国人の著者がサッカー史に残る世界のGKについて記した本。時代によるサッカーの違いなど貴重な話が読める。日本人読者には日本人プレーヤーについて書かれていないのが残念。