『鬼滅の刃』が大ヒットしたのは記憶に新しいが、この作品が世界でも注目を集めたというのは意外であった…と言うのも、当時の私は作品を知らなかった為「極めて日本的な鬼と言う存在」が外国で受け入れられたという事自体が不思議だったのである。
だが、その後に漫画の内容を知って納得した…即ち、ここに登場する鬼は実にヴァラエティに富んでいて規格外なのである。
そして、現に本書の最終章で著者は「昔話に出て来る鬼のイメージを大きく覆した作品」と評している。
…そう、鬼は時代と共に変化するのだ。
そこで、日本に於ける鬼の長い歴史を繙いたのが本書である。
さて、本書は鬼の歴史を通史として扱っている所に特色があり、第一章「鬼の登場」で古代、第二章~第三章「鬼が島のはじまり」「退治される鬼」は中世、第四章「現実と想像の狭間で」にて近世~近代を扱っている。
先ずは、中国から齎された鬼の概念にまで遡る訳だが、そもそも当初の鬼は漠然とした存在であり、それが定着した後に徐々に姿形を与えられ、百鬼夜行や疫鬼等に対して具体的に恐れを成す貴族達等についても解説…そして第二章~第三章に掛けては《地獄草紙》《吉備大臣入唐絵巻》等の絵画作品、或いは説話集も引用しながら鬼を読み解き、更には「鬼子」と呼ばれた「異形」の者達、若しくは漂流者が鬼と見做された経緯も述べている。
また「豆まき」の習慣に始まり、能や説話を通して「怪異としての鬼」「弱者としての鬼」という様々な側面を読み解きながら、最終的に退治される鬼について考察しているのだ。
そして最終章…鬼は妖怪化され、そのイメージも変化して行く。
尤も、ここまでは鬼に関連する書籍で幾らでも語り尽くされている事であり、寧ろ、本書の重要性はこの後…つまり、戦争のプロパガンダにされた「鬼」と「桃太郎」だ。
長い歴史の中で日本人の心に根付いていた鬼と言う存在を上手く利用し、人心を扇動したと共に、ここでもまた鬼には新たな役割が与えられたのであろう…私が今まで読んで来た鬼に纏わる著作はあくまでも古典中心であり、ましてや戦時中の「鬼」については全く考えた事が無かった為、非常に新鮮であり、新しい知識を授かったように思う。
史料として絵画作品、説話集、貴族の日記を駆使して分析しながら、鬼が如何にして日本社会に根付き、日本文化に寄り添って来たかを緻密に解説している。
また、本書を通して何よりも重くのしかかったのは、被差別民や漂流者が「鬼」として迫害され、侵略者や敵を「鬼」に仕立て上げた歴史であろうか…単なる御伽噺の中の鬼ではなく、現実社会の中で「鬼」とされた者達について深く考えさせられた次第である。
「鬼」は日本の歴史と共に生きて来た。
そして、恐らく姿を変え、概念も変えながら今後も息衝いて行くだろう。
そんな奥深い鬼の文化史を解り易く纏めた一冊として、多くの方に推薦出来る著作である。
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鬼と日本人の歴史 (ちくまプリマー新書 422) 新書 – 2023/3/9
小山 聡子
(著)
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日本人は何を恐れてきたのか
・度重なる天災、原因がわからない伝染病
・海から来る外国人、出現する異形
・相手の妬むこの気持ち、憎き敵国・・・・・
全部、鬼のせいだ!
絵本などで親しまれながらも恐怖の対象でもある「鬼」。
「鬼」は古代では畏怖の対象だったが、時が経つにつれ、
都合の悪いものを表すような存在となっていった。
その歴史をひもとけば、日本人の心の有様もみえてくる。
【目次】
第一章 鬼の登場――古代
1 大陸からの到来古代中国の鬼/仏教の鬼/「鬼」の読み方/古記録に記された死霊の鬼……
2 恐れられた忌夜行日歴史書に記録された鬼/酔っぱらってしまえば怖くない?/無意識か故意か?……
3 病気をもたらす鬼疫鬼の姿/道長の失敗/加持で退治されるモノノケ/多様な鬼……
第二章 鬼ヶ島のはじまり――中世
1 鬼の対処法鬼の姿/百鬼を見るための術/調伏されはじめる疫鬼/捨てられた鬼子のパワー……
2 鬼の棲み家海の彼方からやって来る/鬼がいる島に流される/異形の漂流者たち /鬼島を制圧した源為朝……
3 地図に描かれた鬼ヶ島『日本図』に描かれた羅刹国/ 『大唐西域記』の羅刹国の話……
第三章 退治される鬼――中世
1 豆まきのはじまり疫鬼の姿/鬼は外、福は内/豆打ちに期待された効果能の鬼……
2 女性と鬼女性の地位/弱者としての鬼……
3 鬼退治の物語大路渡の対象とされた鬼子/鬼子の異能性/将門の出生譚……
第四章 現実と想像の狭間で――近世・近代
1 妖怪化する鬼嫉妬によって鬼になった未亡人/女人の十悪/鬼になった僧/鬼、モノノケ、妖怪……
2 大衆新聞の娯楽鬼の体で一儲け/アルコール漬けにされた鬼/評判となった鬼女の面……
3 侵略・差別・迫害戦争の正当化/フクちゃんの鬼退治/「鬼畜米英」の周知……
・度重なる天災、原因がわからない伝染病
・海から来る外国人、出現する異形
・相手の妬むこの気持ち、憎き敵国・・・・・
全部、鬼のせいだ!
絵本などで親しまれながらも恐怖の対象でもある「鬼」。
「鬼」は古代では畏怖の対象だったが、時が経つにつれ、
都合の悪いものを表すような存在となっていった。
その歴史をひもとけば、日本人の心の有様もみえてくる。
【目次】
第一章 鬼の登場――古代
1 大陸からの到来古代中国の鬼/仏教の鬼/「鬼」の読み方/古記録に記された死霊の鬼……
2 恐れられた忌夜行日歴史書に記録された鬼/酔っぱらってしまえば怖くない?/無意識か故意か?……
3 病気をもたらす鬼疫鬼の姿/道長の失敗/加持で退治されるモノノケ/多様な鬼……
第二章 鬼ヶ島のはじまり――中世
1 鬼の対処法鬼の姿/百鬼を見るための術/調伏されはじめる疫鬼/捨てられた鬼子のパワー……
2 鬼の棲み家海の彼方からやって来る/鬼がいる島に流される/異形の漂流者たち /鬼島を制圧した源為朝……
3 地図に描かれた鬼ヶ島『日本図』に描かれた羅刹国/ 『大唐西域記』の羅刹国の話……
第三章 退治される鬼――中世
1 豆まきのはじまり疫鬼の姿/鬼は外、福は内/豆打ちに期待された効果能の鬼……
2 女性と鬼女性の地位/弱者としての鬼……
3 鬼退治の物語大路渡の対象とされた鬼子/鬼子の異能性/将門の出生譚……
第四章 現実と想像の狭間で――近世・近代
1 妖怪化する鬼嫉妬によって鬼になった未亡人/女人の十悪/鬼になった僧/鬼、モノノケ、妖怪……
2 大衆新聞の娯楽鬼の体で一儲け/アルコール漬けにされた鬼/評判となった鬼女の面……
3 侵略・差別・迫害戦争の正当化/フクちゃんの鬼退治/「鬼畜米英」の周知……
- 本の長さ208ページ
- 言語日本語
- 出版社筑摩書房
- 発売日2023/3/9
- 寸法17.3 x 10.6 x 2.1 cm
- ISBN-104480684476
- ISBN-13978-4480684479
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商品の説明
著者について
小山 聡子(こやま・さとこ):1976年生まれ。98年筑波大学第二学群日本語・日本文化学類卒業。2003年同大学大学院博士課程歴史・人類学研究科修了。博士(学術)。現在、二松学舎大学文学部教授。専門は日本宗教史。著書に『親鸞の信仰と呪術――病気治療と臨終行儀』(吉川弘文館)、『浄土真宗とは何か――親鸞の教えとその系譜』『もののけの日本史――死霊、幽霊、妖怪の1000年』(中公新書)、『往生際の日本史――人はいかに死を迎えてきたのか』(春秋社)などがある。
登録情報
- 出版社 : 筑摩書房 (2023/3/9)
- 発売日 : 2023/3/9
- 言語 : 日本語
- 新書 : 208ページ
- ISBN-10 : 4480684476
- ISBN-13 : 978-4480684479
- 寸法 : 17.3 x 10.6 x 2.1 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 85,303位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 113位ちくまプリマー新書
- - 210位日本史ノンフィクション
- - 245位東洋史
- カスタマーレビュー:
著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2023年4月12日に日本でレビュー済み
本書は「日本の鬼について、史料に基づき考察した初めての通史の新書」(あとがき)である。
古代から現代まで(といっても中世までの記述が手厚いが)の鬼の話がカバーされている。
鬼は昔はかなり対象が広く、霊や妖怪なども含んでいたし、神との境界も曖昧であった。
中国では人は死ぬと鬼になり冥界で暮らすと考えられていた。また、インド多神教では鬼神がおり、特に密教の餓鬼や夜叉は日本の鬼のイメージ(宝棒を持つ裸ふんどし、憤怒の形相で赤や青の肌)につながっている。日本の鬼は、これらが混ざり合うことで生じた。
古代においては鬼は恐れられ、忌夜行日には外出を控える貴族も少なくなかった(一方でそういうことを意識しない貴族もいた)。
病気の原因の一つとして疫鬼すなわち疫病神が考えられていた。もののけが原因の病気は僧が調伏を行うが、これは神の一種なので調伏はされず、陰陽師が祭りや祓いを行った。厄介なのはもののけと疫鬼が両方ついてしまった場合である。例えば藤原道長の娘の嬉子はこれになり、道長は周囲の反対を無視して調伏を行ったが、結果的に嬉子は亡くなり、道長は周囲から批判された。
しかし、中世になると人間に害をもたらす神が調伏される事例が少なくなくなる。
また、障害のある子どもが鬼子とされたり、見慣れぬ外国人が鬼と見られる話もある。鬼は童子とも結びつけられた。鬼子は一方で不可思議な力を持つとされることもあり、恐れられると同時に体の一部を食べたりしようともされた。
大人であっても子供のような髪や風貌をさせられている人は童子と呼ばれ、例えば牛飼いなどの仕事をしていた。童子もまた呪力などの超自然的な能力を持つとされていた。
佐渡より北方に鬼の島があるという伝承や、フィレンツェのメディチ家に伝わった地図にまで載っている鬼童がすむ羅刹国の話などがある。
中世以降、鬼は女性と結びつけられたが、これは女性が社会的弱者の立場であり、怨恨を晴らそうと鬼になると考えられたためだという。楠木正成が鬼になるのも同様に敗れた立場だからだとしている。
しかし時代が下ると、鬼は次第に芸能や滑稽の中の存在となっていく。
見世物小屋に奇形の女性を鬼女として置いて見せたり、明治以降にも鬼の体の一部のミイラだと語る興行が行われ、評判を集めたりした(これは詐欺として捕まった)。
他にもいろいろ面白い話は多い。
・古代中国の伝承では、桃には鬼を殺す呪力があるとされた。これは桃太郎にもつながる。
・「鬼」は「もの」とも読んだ。これは「もののけ」につながる。
・厄鬼を追い払う追儺の儀式が、のちの節分につながった。中国の医学書には、大豆には鬼毒を殺す効能があるとされた。またもののけの調伏には音や臭いが有効だとされており、臭いのある大豆を打ち立てることには効果があるとされた。
著者は一方で、鬼が異なる存在の排除などにもつながっていたことを繰り返し述べている(異常者の排除から鬼畜米英まで)。
これは全く正しいと思うが、鬼の文化が日本人の排外性につながるかのような書き方もしており、これは行き過ぎだと思う。
集団構成員と異なる存在を異質として排除しようとする排外的思想は、世界のほぼすべての地域に存在するものであり、仮に日本に鬼の伝承がなかったとしても、何か別のものが排除と結びつけられただけだろう。逆に現在の日本の排外主義の原因は現代社会の様々な状況に求められるべきものであり、「日本文化に根差すもの」であるかのように語るのは本質を逸失しているように思う。
最後にやや批判的なコメントも付したが、特に全体の評価を変えるほどのものでもないだろう。
鬼という身近ながらよく知らない存在の歴史を紐解いていく好著だと思う。
古代から現代まで(といっても中世までの記述が手厚いが)の鬼の話がカバーされている。
鬼は昔はかなり対象が広く、霊や妖怪なども含んでいたし、神との境界も曖昧であった。
中国では人は死ぬと鬼になり冥界で暮らすと考えられていた。また、インド多神教では鬼神がおり、特に密教の餓鬼や夜叉は日本の鬼のイメージ(宝棒を持つ裸ふんどし、憤怒の形相で赤や青の肌)につながっている。日本の鬼は、これらが混ざり合うことで生じた。
古代においては鬼は恐れられ、忌夜行日には外出を控える貴族も少なくなかった(一方でそういうことを意識しない貴族もいた)。
病気の原因の一つとして疫鬼すなわち疫病神が考えられていた。もののけが原因の病気は僧が調伏を行うが、これは神の一種なので調伏はされず、陰陽師が祭りや祓いを行った。厄介なのはもののけと疫鬼が両方ついてしまった場合である。例えば藤原道長の娘の嬉子はこれになり、道長は周囲の反対を無視して調伏を行ったが、結果的に嬉子は亡くなり、道長は周囲から批判された。
しかし、中世になると人間に害をもたらす神が調伏される事例が少なくなくなる。
また、障害のある子どもが鬼子とされたり、見慣れぬ外国人が鬼と見られる話もある。鬼は童子とも結びつけられた。鬼子は一方で不可思議な力を持つとされることもあり、恐れられると同時に体の一部を食べたりしようともされた。
大人であっても子供のような髪や風貌をさせられている人は童子と呼ばれ、例えば牛飼いなどの仕事をしていた。童子もまた呪力などの超自然的な能力を持つとされていた。
佐渡より北方に鬼の島があるという伝承や、フィレンツェのメディチ家に伝わった地図にまで載っている鬼童がすむ羅刹国の話などがある。
中世以降、鬼は女性と結びつけられたが、これは女性が社会的弱者の立場であり、怨恨を晴らそうと鬼になると考えられたためだという。楠木正成が鬼になるのも同様に敗れた立場だからだとしている。
しかし時代が下ると、鬼は次第に芸能や滑稽の中の存在となっていく。
見世物小屋に奇形の女性を鬼女として置いて見せたり、明治以降にも鬼の体の一部のミイラだと語る興行が行われ、評判を集めたりした(これは詐欺として捕まった)。
他にもいろいろ面白い話は多い。
・古代中国の伝承では、桃には鬼を殺す呪力があるとされた。これは桃太郎にもつながる。
・「鬼」は「もの」とも読んだ。これは「もののけ」につながる。
・厄鬼を追い払う追儺の儀式が、のちの節分につながった。中国の医学書には、大豆には鬼毒を殺す効能があるとされた。またもののけの調伏には音や臭いが有効だとされており、臭いのある大豆を打ち立てることには効果があるとされた。
著者は一方で、鬼が異なる存在の排除などにもつながっていたことを繰り返し述べている(異常者の排除から鬼畜米英まで)。
これは全く正しいと思うが、鬼の文化が日本人の排外性につながるかのような書き方もしており、これは行き過ぎだと思う。
集団構成員と異なる存在を異質として排除しようとする排外的思想は、世界のほぼすべての地域に存在するものであり、仮に日本に鬼の伝承がなかったとしても、何か別のものが排除と結びつけられただけだろう。逆に現在の日本の排外主義の原因は現代社会の様々な状況に求められるべきものであり、「日本文化に根差すもの」であるかのように語るのは本質を逸失しているように思う。
最後にやや批判的なコメントも付したが、特に全体の評価を変えるほどのものでもないだろう。
鬼という身近ながらよく知らない存在の歴史を紐解いていく好著だと思う。