軽い、コンパクトな、少し癖のある本です。
近代社会全体を記述する二大社会理論のうち、M.ウェーバーさんの理論は煩雑
で実用性に欠ける。K.マルクスさんのは、実用化現実化するも、社会の実情を無
視する政体を(後進国にだけ)現に生み出した。かといって、社会の全体を考え
ない理論からの積み上げだけで近代社会を記述できるのかというと、肝心の金融
・産業・統治・個人の倫理道徳幸福の関係については、なにも言えないか、道家
風・説教風・決断主義の提言をいきなり出すばかりである。そうであるので、そ
ろそろ新しい原理による全体理論を作りましょうよ。。。。という、一般的な欲
求、ニーズ、要請が、ルーマンさんの社会システム論を(日本で)有名にしたの
でしょうか。全体理論を信じない人や、別の全体理論を求める人の中には、ルー
マンの完備した、システムの自律を優先する理論では、現に社会内にある矛盾を
正当にとらえられないのではないかという疑義があるそうです。
本書はニクラス・ルーマン存命中にルーマン以外の人によって編まれたルーマ
ンの著述の選集であって、選択基準(テーマ)は「現状への抗議活動」としての
「社会運動」です。この編集自体に対するルーマン自身のコメントはありません。
編者カイ-ウーヴェ・ヘルマンは『序論』で、上記の疑義と関連した選集意図
と、収録されている著述の梗概を述べているのですが、一読・初見では論旨がよ
くわかりませんでした。本全体を読み終わったところで、序論を読み返すと、
(スカパラダイスオーケストラの歌の歌詞ではありませんが)癖のある話である
ことに気が付きました。
原書は、1996年に刊行されたもので、1985年から1995年までの、学術誌論文、
新聞雑誌向け随筆、講演、インタビュー、未発表学術論文が収録されています。
散在しているルーマンの「社会運動」へのコメントおよび分析を、一冊の本に
まとめたものです。
1985年(1本)・1986年(2本)・1987年(1本)・1988年(1本)・・1990年
(2本)・・・・1994年(1本)・1995年(1本)の、全9本が年代順に収録されて
います。(ニクラス・ルーマンは1998年没)
全体として、年を追うごとに社会システム論が彫琢されてゆく、変化してゆく
履歴となっており、その流れの中で「社会運動」に対する評価も変わってゆきま
す。前半では、社会システム論の彫琢がルーマンの主要な関心事、眼目であるよ
うで、「社会運動」は「興味深い症状」として把握されているだけのようです。
1988年の収録文『女性、男性、ジョージ・スペンサー・ブラウン』が長大(に
して簡潔?)なうえ、社会システム論の具体的問題への適用であって、しかも、
フェミニスム運動・ジェンダー研究の解釈(バックラッシュに対する批判を含む)
にとどまない、近代の「平等、自由」(あーハンス・ケルゼンだ)、近代の「保
守VS革新」構造の解釈を行っています。さらに、機能サブシステム群は横断的に
物事を進めることが「困難」であることから、「社会運動」の重要性・必要性が
確認されています。
1990年に2本収録されている著述のうちの1本『環境リスクと政治』では、機能
サブシステム群は横断的に物事を進めることが「困難」であることから、「決め
られない民主主義政治」の「民衆頭(シニィオーレ)・君主的専制」への移行と
いう可能性を警告しています。
1990年までは、それでも、「社会運動」を、自律的なシステムとは確言してい
なかったのが、1994年以降は、「特殊なシステム」と認定しています。
1994年の収録文『システム理論とプロテスト運動』は、編者ヘルマンのルーマ
ンに対するインタビューです。これが、癖のあるインタビューで。。。
編者は直門弟子ではないようですが、少なくともルーマンに私淑して、社会シ
ステム論を研究、解釈、利用していたようです。一般理論なんだから、自分の問
題意識に従って勝手に使ってれば良いものを、インタビューで本人に、解釈問答
を挑んでいます。
編者のロマンチック(?)な解釈に対して、ルーマンが否定的回答を続けて、
編者が開き直れば、ルーマンも開き直り、マルクス主義的ロマンチストとは違っ
て「理論と現実を区別することが理論にとって重要だと思います」と。。。。
『列子』の「一毛を抜いて天下を救うか」みたいな問答になっています。
インタビューの2年後に書かれた『序論』では、ルーマンの「社会運動」分析が
未完成であることと、既存の「運動研究」各派の行きづまりの突破口に、社会シ
ステム論はなりうることが提案されており、ルーマンの「社会運動」分析を編者
自身が、そのまま継承、継続することは無かったようです。(まあ、ルーマンに
とっても妥当で本望な結果でしょうが)
ルーマンの著述当時の「世界-情勢」がどのようなものだったか、注記も、記憶
もないのですが、(紙の)事典を調べてみれば、「ベルリンの壁の崩壊」があっ
たのが1989年11月でした。
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プロテスト―システム理論と社会運動 単行本 – 2013/8/6
社会運動にかかわるルーマンの諸論考を収録。社会システム理論からプロテストを読み解き、その意味と限界を追究する。「近代社会はエコロジー的な危機に対処できるか」「オルタナティブなきオルタナティブ」「環境リスクと政治」「システム理論とプロテスト運動」ほか。
- 本の長さ272ページ
- 言語日本語
- 出版社新泉社
- 発売日2013/8/6
- ISBN-10478771306X
- ISBN-13978-4787713063
商品の説明
著者について
ニクラス・ルーマン(Niklas Luhmann, 1927-98年)
20世紀を代表する社会学者の一人。もっとも重要な功績は、新たなシステム理論を社会学理論に結びつけ、ひとつの社会理論を発展させたことにある。フライブルク大学で法律を学んだ後、ニーダーザクセン州の行政官として勤務。タルコット・パーソンズの社会学に徹底的に取り組むためハーバード大学へ留学。その後、ミュンスター大学で博士号、教授資格を1年で取得。1969年、新設されたビーレフェルト大学に教授として就任。1993年に定年退官。
20世紀を代表する社会学者の一人。もっとも重要な功績は、新たなシステム理論を社会学理論に結びつけ、ひとつの社会理論を発展させたことにある。フライブルク大学で法律を学んだ後、ニーダーザクセン州の行政官として勤務。タルコット・パーソンズの社会学に徹底的に取り組むためハーバード大学へ留学。その後、ミュンスター大学で博士号、教授資格を1年で取得。1969年、新設されたビーレフェルト大学に教授として就任。1993年に定年退官。
登録情報
- 出版社 : 新泉社 (2013/8/6)
- 発売日 : 2013/8/6
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 272ページ
- ISBN-10 : 478771306X
- ISBN-13 : 978-4787713063
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,546,842位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 57,476位社会学 (本)
- カスタマーレビュー:
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