『やさしく愛して』(Love Me Tender)('56)
出演∶リチャード・イーガン、デブラ・パジェット、エルヴィス・プレスリー、ロバート・ミドルトン、ウィリアム・キャンベル、ジェームズ・ドルーリー、ネヴィル・ブランド、ミルドレッド・ダノック、ラス・コンウェイ、ケン・クラーク、L.Q.ジョーンズ 、ディック・サージェント、バリー・コー、ポール・E・バーンズ
監督:ロバート・D・ウェッブ
スーパースター歌手、エルヴィス·プレスリーの映画初出演作だ。彼の出演映画は数多いと思うが、大部分は彼が歌うシーンを散りばめたいわゆる"アイドル映画"だ。(『ブルー·ハワイ』など、一部しか見たことはないが…) だが私が知る限りでは、この『やさしく愛して』と『燃える平原児』の2本の西部劇は、彼の出演作の中で単なるアイドル映画とは、ちょっと様子が違うようだ。(『やさしく愛して』の場合、彼が主役でなく準主役のせいもあるが……)
この映画の欠点と思えることを先に言ってしまうと、"欲張りすぎ"かな……。冒頭、南北戦争の終戦を知らない南軍ゲリラ部隊が、北軍の現金輸送列車を襲撃するという、本格西部劇的な場面から始まる。ゲリラ部隊にいたレノ3兄弟が帰郷し、老母と末弟の四男(プレスリー)と再会してからが本題なのだが、本格西部劇と、歌謡映画(アイドル映画)と、家族愛·兄弟愛·夫婦愛のファミリー·ドラマの要素が(贅沢に?)盛り込まれている。1時間半の短い尺に、よくぞ詰め込んだと言うべき……?
監督のロバート·D·ウェッブは、有名監督ではない。フィルモグラフィを見ても、よく知らないB級(らしき)映画が並んでいる。例外は本作および、同じ'56年に作られた西部劇の名作『誇り高き男』ぐらいか……いや、製作から70年近く経った現在も記憶されている作品が、2本もあるだけで、いわゆる職人監督として大したものですね。
[物語] 1865年、南軍の降伏で南北戦争終結となった数日後。終戦を知らないヴァンス·リノ (イーガン)率いる南軍ゲリラ部隊が、北軍の現金輸送列車を襲う。現金強奪後に終戦を知った彼らは、戦利金を山分けすると解散して各自帰郷する。ヴァンスも、同じ部隊の二人の弟ブレット(キャンベル)とレイ(ドルーリー)と共に、大金を隠し持って、数年ぶりの郷里へ。
故郷では、老母マーサ(ダノック)と末弟クリント(プレスリー)が細々と農場を守っていたが、ずいぶん前に、ヴァンス戦死の誤報が入っていた。ヴァンスが心の拠り所にしていた恋人キャシー(パジェット)は、誤報を受けたうえ、戦災で家族を亡くし、弟クリントの妻となっていた。事情を飲み込んだヴァンスは、キャシーと結婚するつもりだった過去を隠し、キャシーもまたヴァンスとは"家族"として接する決意を固める。
表向きの平和が訪れるが、政府は終戦後の北軍現金強奪事件を忘れていなかった。政府捜査官シリンゴ(ミドルトン)の戦争犯罪追及の手は、ヴァンスら兄弟にも伸びてくる。そんな時、兄弟と金を山分けした部隊仲間のギャヴィン(ブランド)、ケルソ(クラーク)、フレミング(ジョーンズ)の3人が農場に現れる。ヴァンスは皆の金の返還を考えるが、ギャヴィンらにその気はなかった。
ギャヴィンらに金の話を聞いた弟クリントは、さらにヴァンスが戦場でも恋人キャシーの写真を持ち、結婚を語っていたと知る。妻キャシーの隠し事に逆上したクリントは、ヴァンスが大金を持ってキャシーと駆け落ちするつもりだと誤解し、政府の追及を逃れようとするギャヴィンらと共に無茶な行動に走ってしまい……!!
アイドル映画らしく、プレスリーが歌うシーンが何曲も散りばめられている。(ステージで歌うシーンまである(笑)) しかし、全体としては西部劇としてのしっかりとした作りを持っている。主人公一家に、史劇大作『十戒』や、西部劇『折れた矢』『最後の銃撃』のデブラ·パジェット、『ブラボー砦の脱出』『星のない男』のウィリアム·キャンベル、『襲われた幌馬車』『昼下りの決斗』やTVシリーズ『バージニアン』のジェームズ·ドルーリー。
西部劇ファンの私には嬉しい馴染みの顔がそろう。ウェッブ監督が同じ年に撮った傑作『誇り高き男』のロバート·ミドルトンとポール・E・バーンズ。悪役にも『胸に輝く星』、TVシリーズ『アンタッチャブル』のネヴィル·ブランド、『ワイルドバンチ』『砂漠の流れ者』などサム·ペキンパー監督作常連のL.Q.ジョーンズ、『誇り高き男』のケン·クラークなど、西部劇(オールド)ファンは、嬉しくなってしまいます。
本格西部劇とアイドル映画の要素を合体させたために、(とくに前半部で)チグハグな感じは否めない。プレスリーのもう1本の西部劇『燃える平原児』(ドン·シーゲル監督)がアイドル色を排除し、民族差別テーマを押し出したシリアス西部劇の傑作だったのと、ある意味対照的だ。プレスリーでなく、長男役のリチャード·イーガンが主役なので、プレスリー·ファンには物足りないでしょうが、個人的にはけっこう楽しめました。