20世紀の米国政治学を代表する本の一冊。
Robert A. Dahl, POLYARCHY: Participation and Opposition, Yale University Press, New Heaven, 1972の翻訳。
宇野重規教授が解説で、この本を「二〇世紀の政治思想の古典として読むべき時期が来ているのかもしれない」と述べていることに同感である。
私個人としては、大学に入って政治学に興味を持ち、最初に読み始めた本の一冊。
当時、三一書房から出ていた。
この本の明晰な分析と、理論の射程の広さに強く感動したことを思い出す。
以来、この本を手に取ることがなかったが、最近岩波文庫から出されることになったので、懐かしくなって再読した。
「ポリアーキー」とは、政治学用語としては既によく知られているとはいえ、今だ一般には耳慣れない言葉だろう。
「民主主義」という言葉の多義性(一方では理想(規範)を表し、他方では具体的な制度(事実)を表す、欧米的な議会制民主主義も、ソ連、中国のような民主集中制もいずれも「民主主義」を標榜する等々)を回避するために、ダール自身が創った言葉。
民主政を民主化する(to democratize the democracy)というややこしい混乱を避けるため。
一人の支配による君主政(Mon-archy)でも、少数の支配による寡頭政(Olig-archy)に対して、民衆による政治(poly-archy)ということだ。
そこで、ダールは、ポリアーキーであるか否かの判断基準として、シンプルに二つの基準、すなわち①包括性(政治に参加=選挙に参加し公職に就くことができる範囲)と②自由化(政権に対して公的に異議申し立てできる制度的保障)のみを挙げた。
さらに、、これらのいずれも達成できていない「抑圧体制」(hegemony)が「ポリアーキー」に移行する三つの過程を考察し、それを可能とする条件として、①一国の社会経済的水準、②不平等の質と程度、③下位文化の分裂の程度、④政治活動家たちの信念(思想)を挙げている。
これらに加えて、第二次世界大戦後、ドイツ、日本、イタリア等が抑圧体制からポリアーキーに移行した事実に着目し、「外国支配」が果たす役割にも言及する。
改めてこの本を手に取ってみて、この本で言及されている事例は必ずしも新しくはない(1972年出版)にもかかわらず、その理論的枠組みは、全く色褪せていないことに、改めて強い印象を受けた。
現在も世界のあちこちで「民主政」の問題を考える時、この本は、依然として多くの示唆と手がかりを与えてくれると思う。
したがって、この本を岩波文庫に入った意義は大きい。
この出版社の現在の在り方についてはいろいろな思いがあるが、この本の文庫化を含め、少なくとも岩波文庫だけは良い意味での「岩波らしさ」を維持していると改めて感じた。
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ポリアーキー (岩波文庫) 文庫 – 2014/10/17
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ダール(1915―2014)は、理念としての「民主主義」と区別して、実際に存在する比較的民主化された体制を「ポリアーキー」と呼んだ。「参加」と「自由化」を指標とし、ポリアーキーの成立や変容を左右する政治的条件を分析する。現実を測り異なる政治体制に比較の道を開いた、民主主義理論史上画期をなす著作。(解説=宇野重規)
- 本の長さ407ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2014/10/17
- 寸法10.5 x 1.6 x 15 cm
- ISBN-10400340291X
- ISBN-13978-4003402917
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2014/10/17)
- 発売日 : 2014/10/17
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 407ページ
- ISBN-10 : 400340291X
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2015年2月14日に日本でレビュー済み
2023年9月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
大学時代の宿題を果たす(当時、ハードカバー
新刊の本書を購入したが、結局読まずに終わっ
た)。モスカ、トクヴィル、ミルズへの言及が
あり(特にトクヴィルは、還暦過ぎた最近、集
中的に読んでるので)、ある種のセレンディピ
ティを感じる。
現代政治学、民主主義論の古典と言え、実証分
析の走り。メキシコ、アルゼンチン、チリの例
示が多いのも、南米駐在経験者として興味深か
った。
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現代政治学、民主主義論の古典と言え、実証分
析の走り。メキシコ、アルゼンチン、チリの例
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った。
2014年11月10日に日本でレビュー済み
キャッチーさが残るポリアーキー、20世紀を代表する古典としては、
至極理解できるし、こうした概括書を手っ取り早く知っておきたい
という現代人にしてみれば、格好の読書候補である。
だが、過去の政治形態と現在の地球を取り巻く、人々の意識の変容。
IT化による高度情報社会、参加型の情報発信とそれによる政治の関わりと
人々のモラルの推移なんかを体感している現代人にしてみれば、
このつづきの<語り>を聞きたかったところが正直な感想だ。
対談本を載せてくれたのはありがたいが、解説者の宇野重規も
ネット社会における人々の政治と生活労働の様態、9.11や3.11以降の
意識の変化に全く触れないで事を進めていくのに何ともザ・古典という
印象が拭えない。
特に日本に関しては、ダールによる考察がなされるまで(専門ではない)いっておらず、
日本人特有の森と水を大切にし、「徳」でもって祭事を祀るという、
世界中どこを探してもないような価値意識を共有している特異な国では、
西欧のモノサシでは上手く計れないのではと疑ってしまう。
この続きを研究されている日本の御仁はおらぬのだろうか・・・?
至極理解できるし、こうした概括書を手っ取り早く知っておきたい
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人々のモラルの推移なんかを体感している現代人にしてみれば、
このつづきの<語り>を聞きたかったところが正直な感想だ。
対談本を載せてくれたのはありがたいが、解説者の宇野重規も
ネット社会における人々の政治と生活労働の様態、9.11や3.11以降の
意識の変化に全く触れないで事を進めていくのに何ともザ・古典という
印象が拭えない。
特に日本に関しては、ダールによる考察がなされるまで(専門ではない)いっておらず、
日本人特有の森と水を大切にし、「徳」でもって祭事を祀るという、
世界中どこを探してもないような価値意識を共有している特異な国では、
西欧のモノサシでは上手く計れないのではと疑ってしまう。
この続きを研究されている日本の御仁はおらぬのだろうか・・・?
2008年9月14日に日本でレビュー済み
ダールによる民主主義論。
もはや現代の古典とさえいえるだろう。
この本がレビューなしとは驚きだ。
本書で行われているのは、民主主義が発展する条件の実証的考察である。
そういうと、研究書っぽくってつまらなそうだが、読んでいて非常に面白い。
それは、おそらくパズルのように民主主義発展の謎を解いていくからだろう。
ダールは、選挙への参加の幅(どこまで参政権が認められているか)と、異議申し立ての幅(どこまで好きに批判ができるか)の2つの軸で、民主主義を分析していく。
そして、経済体制、不平等、文化、政治信念、外国の支配、などの要因が民主主義の発展にどのような影響を与えていくかを徹底して分析している。
政治にかかわるなら、一度は読んでおいていいだろう。
もはや現代の古典とさえいえるだろう。
この本がレビューなしとは驚きだ。
本書で行われているのは、民主主義が発展する条件の実証的考察である。
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それは、おそらくパズルのように民主主義発展の謎を解いていくからだろう。
ダールは、選挙への参加の幅(どこまで参政権が認められているか)と、異議申し立ての幅(どこまで好きに批判ができるか)の2つの軸で、民主主義を分析していく。
そして、経済体制、不平等、文化、政治信念、外国の支配、などの要因が民主主義の発展にどのような影響を与えていくかを徹底して分析している。
政治にかかわるなら、一度は読んでおいていいだろう。